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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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5.6.03


 4日が経過した。


 カウント24、551日目

 ハンス達が戻る予定の日まで、あと9日。


 オレはウォルターや、時にはミラーも連れて、東側の偵察に出る。

 もはや、オレにとっては、1日がかりの散歩だった。


 ウォルターとは、二言三言の会話。

 ミラーとは、そこそこの会話。


 散歩の方角は、扇状に東から南東側に範囲を拡大している。

 今日で5回目の散歩だが、ウォルターの言う、痕跡とやらは、なにも見つかっていない。


 もうこれ、ただのヒマつぶしだろう。

 オレはそう思っていた。



 拠点では、保存食の生産が続けられている。

 ヘラジカの腸を乾燥させて火であぶり、スモークした肉や魚に軽く塩をふってから、包んで密封する。

 腸詰めの燻製肉パウチだ。

 匂いがヒドイが、これなら、2カ月くらいは持つだろうとミラーが言った。



 半地下の住居の中では娯楽もあった。

 ミラーが作ったテーブルゲームだ。

 タフルという名のゲームらしい。

 中央に複数の自陣の駒。周囲にその倍の数の敵陣の駒。

 包囲する敵の駒で、真ん中の王様を挟むと包囲側の勝ち。

 王様の駒が盤面の外に逃げると王様の勝ち。


 強いのは、ストームとウォルターだった。

 ストームが強いのはまぁわかるが、ウォルターが強いのは予想外だ。


 次に得意なのは、このゲームを子供の頃から知っているミラー。

 ウォルターの部下2人が、ソフィアといい勝負のようだ。


 弱いのは、オレと未希。

 オレも未希も、オセロか、トランプのババ抜きくらいしかやったことがない。

 オレにいたっては、そのゲームで勝つことの意味すらわからない。

 だから楽しくもないし、やる気もおきない。

 未希が勝てるのが、ゆいいつオレくらいなので、未希に負けてやるために未希の相手をした。



 他にも、カマドができて、テーブルができて、椅子は6脚。

 椅子が足らないが、3人が交代でログアウトしているので、テーブルを囲むのは5人だ。


 そしてオレは、今日もウォルターと2人で散歩に出かける。

 ミラーは、また、雨が降るかもしれないといって、屋根の補強をするために残った。



 オレとウォルターは、東ではなく、山を迂回するような角度で、南側を散策することになった。

 もう地形も頭に入っていて、文字通りの近所の散歩だ。

 日帰りなので、大した距離を歩くわけではない。

 そもそも、リュウタが感知できる範囲なのだ。

 わざわざ偵察する必要すらない。


 歩きながら、ウォルターに問いかけた。

「山に登ってみるか?」

「いや、いい。登山は疲れる。無駄な体力の消費は避けよう」


 この散歩自体、オレには無駄な消費としか思えない。

 次は、ウォルターがオレに質問した。


「ソウジ。君はなぜ、ログアウトしないんだ?」


 オレの部屋のドアが破壊されて、ダレかが踏み込んできたから。

 とは言えない。


「おまえが、ログアウトしないからだ」

「そうか。そうだな。お互い様だった」


 この機会に、オレも聞いて置こう。


「ウォルターはなぜログアウトしない?」


 ウソを練り上げたのか。

 それとも、真実を話す決意を固めたのか。

 ウォルターは、しばらく間を置いてから答えた。


「私が、ログアウトしないのは、君達を信頼していないわけじゃない」

「へぇ……なら、なぜ?」


「ログアウトしないのも業務のひとつだ」

「業務?」


 どんな馬鹿バカしい話が聞けるのか。

 すこし楽しくなってきた。


「君に話したところで、信じないかもしれないが」


 ウォルターは、そう前置きしてから、話を続けた。


「君を守るためだよ。ソウジ」

「は……?」


「ッフフ、信じられないかね?」

「信じられるわけがないだろう。いったいどういう理屈だ」


「それは今は言えない。そうだな。アーネストの指令とだけ言っておこう」


 まったくもって、信じる気になれない言い逃れ。

 もっともらしい理由なら、他にいくらでも考えつくだろうに、なぜそんなウソを。


「どうした、ソウジ。照れているのか」

「馬鹿バカしくて、呆れているだけだ」


「フフフッ。そうだな。逆の立場で、同じことを言われたら、私も信じないだろう。バカにしているだけだと思うよ」


「だったら、もう少しマシなことを言えよ」

「そういわれてもな。これが真実なんだ」


「そうかよ……」


 ウソをついているような顔はしていないが、言っていることはウソだった。

 ユーモアのつもりだろうか。

 笑えないし、時間の無駄。

 無駄な会話だった。


「ソウジ」

「なんだよ」

「なにか近づいてくる」


「えっ?」


 ウォルターは腰をおとし、手を開いて地面に触れた。

 オレも耳を澄ませる。


 動物が走ってくる音。

 リュウタか。


 違う、もっと重い。

 馬のような歩調だが、もう少し軽い。


 音は、北の方から響いている。

 視線を向けたが、暗くてよくわからない。

 それでも、音と振動がある。なにかが近づいてくる。

 なんだろう。ヘラジカが逃げたのか。


 オレも腰を落とし、ウォルターに声を掛けた。

「馬じゃないよな」

「違うな。コレは……」


 遠くから、声がした。

 よく知っている声だった。


「いたー! おにいちゃーん!」

 未希の声。

 それとヘラジカが駆ける足音。


 ウォルターが言った。

「ほぅ。あの娘、ヘラジカを乗りこなしたのか」


 暗闇から姿を現したのは、ヘラジカに乗って駆けてくる未希の姿だった。

 ヘラジカの口に引っ掛けた短い手綱を掴んでいる。

 落ちないように、しがみついているだけのように見える。


 ヘラジカを操っているのではなく、乗せられている未希の姿だった。

 未希がおっこちないようにと、ヘラジカのルルが、気を使っているようにすら見えた。


 間もなく、未希が、オレとウォルターのいる場所に辿り着く。

 未希は、ヘラジカから降りることなく、オレ達に言った。


「大変だよおにいちゃん!」


 ヘラジカは、息を荒げ、未希は慌てていた。


「なんだ、どうした。いやそれより未希、おまえすごいな。いつ乗れるようになったんだ?」


「乗れるようになったんじゃなくて、ルルに乗せてもらってるだけだよぅ」

「……で、なんだ? 緊急か?」


「うん、大変!」

「どうした?」


「動物だよ! ヘラジカじゃない動物の存在を、リュウタが感知したの!」


「なんの? どんな動物だ?」

「ヘラジカに似てるけど、もっと重くて、リュウタの知識にない動物」

「なんだ? それは?」


 ウォルターが言った。

「馬しか、考えられない。それは何頭だ?」

「たぶん、8頭」

「方角と距離は?」

「南西のほう、距離はまだ10キロ以上あると思う」


「ソウジ、急いで戻ろう」


 馬。それも8頭も?


 馬を駆れるのは、正義のエレメントだけだと言われている。

 交渉の余地なく、戦うことになるであろう敵。



「そうだな、戻ろう」



 とにかく、戻ろう。



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