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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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5.6.02


 翌日。


 ミラーは食事を終えるとすぐに、斧を片手に、枯れ木の雑木林に行ってしまった。


 オレとウォルターは、軽く旅支度をする。

 日帰りだが、食糧は念のため2食分。



「じゃあ、いってくるよ」


 行きたくないが。


「いってらっしゃい、おにいちゃん。気をつけてね」

 未希の言葉に、小さくうなずいた。


 ストームが言った。

「月が真上に差し掛かったところで、戻ってきて」

「ストーム達はなにをするんだ」

「保存食の準備とかいろいろ」



 オレはウォルターと東へ向けて出発した。

 進むのは、月が昇っていく方角なので、迷うことはない。

 真上を超えたら、こんどは下がっていく方角に歩いて、ここに戻る。


 それにしても、こんな偵察に意味があるのか。

 それを自問自答しながら歩いた。


 オレが前を歩き、ウォルターは後ろからついてくる。

 会話はなにもない。

 ただ黙々と、東に向かて歩く。


 もしかして、後ろから刺されたりとかするのだろうか。

 いや、それはないな。

 そんなことをしても、ウォルターに利益があるとは思えない。


 なんだかんだで、オレ達の動きは、未希にバッチリ監視されている。

 リュウタの五感。ルカの眺望。

 なにか起きれば、すぐに伝わるだろう。




 歩き始めてから、数時間。

 ときどき、後ろを振り向いて、ウォルターの存在を確認した。


 この男。

 図体のわりに、足音が小さい。

 それに加えて、気配が薄い。

 いるのかいないのか、わからなくなる。

 だから後ろを振り向いて、存在を確認する。


 ストームのような存在の薄さとは違う。

 後ろにいても気にならない存在。

 それがウォルターの存在感だった。


 ウォルターは、右や左に視線を流したり、地面を見たりしながら歩いている。

 もしかして、この男なりに、偵察業務を遂行しているのだろうか。


 気になったので、声を掛けようかと思ったが。


 ヤメた。



 月が真上に差し掛かる少し前。

 ウォルターの方から、声を掛けられた。


「そろそろ、引き上げよう」


 それが今日の、初めての会話だった。


「なにか収穫はあったのか?」

「なにも収穫がないという収穫があった」


「……そりゃよっかったよ」


 なんだか、半日かけて掘った穴を、埋めろと言われている気分だ。


「今日1日ですべてを見回る必要はない。また明日も偵察を続けよう」

「おいおい、また明日も続けるのか」


「ッフフフ。そうだ。もう飽きたか?」


 いったいなんなんだ、この男は。

 この行動になんの意味があるんだ。

 オレの忍耐を試しているのか?



 帰り道は、ウォルターが前を歩いた。

 オレはその後ろを追いかける。


 なにか話したいことがあるのかと、身構えていたが、ウォルターからはなにも言ってこない。

 いったいなにを考えている?

 オレは、聞きたいことが沢山ある。

 この男はいったい、何者なんだ。なにが目的だ?


 そんな風に考えていたら、つい心の声が漏れた。

「おまえは、ルミナス・コアへ行ったことがあるのか?」


 ウォルターは、振り帰らずに、歩きながら答えた。

「カウント23で、1度だけある」

「なにをしに?」


「仕事だ」

「おまえの仕事はなんだ?」

「言っただろう。政治家だ」


 政治家と言う人物を、オレは見たことがない。

 ヴィルゴ王国のリノンや、その叔父は政治家なのかもしれないが、仮想世界のNPCだ。

 現実世界の政治家というのが、どういう人間なのか。

 オレは知らない。


「その政治とは、なんだ?」

「っフフ、妙なことを聞くな。社会の勉強がしたいのか?」


 ふとルシアを思い出した。

 最近、よくアイツの顔が浮かぶな。


 こういう妙な人物と会うたびに、アイツならどうするのだろうと考えてしまう。

 ルシアだったら、この男をどう籠絡するのだろうか。

 好きだとか、安心だとか、心にもないことを抜かして、言葉を引き出すのだろうか。


 オレが黙っていると、ウォルターが続けた。

「国や集団を代表して、話を丸く収めるために行動する。それが政治家の仕事だ」


「この無意味な偵察も、その代表活動のひとつか」

「そうだ。政治家の仕事は、対話をすることだけではない」


「対話以外に、なにをする?」


「なにを? 君ならわかるだろう? こちらの都合のいいように話をまとめるために、なにをしたらいいのか」


「知るかよ。政治なんて庶民のオレには関係ないし、興味もない」

「そうか。まぁそうだろうな。私も君くらいの年齢の頃はそう思っていた」


 ウォルターが立ち止まった。

 オレも、足を止める。

 そして、また言葉を続けた。


「政治は、スポーツの試合と同じだ。

 点を多く取った方が勝ち。

 より多く点差をつけることで、より過酷な条件を相手に突き付けることができる。

 あるいは恩という、借金を押しつけることもできる。

 そして、ルールもある」



「ルール?」


 ウォルターが、顔だけ後ろを向いて、にやけた顔をオレに見せた。


「バレないことだ」


 ああ……なんだ、そういう政治か。

 ヴィルゴ王国と同じじゃないか。


「なら、この偵察も、点を取るために必要なのか」


 ウォルターがまた歩き始めた。


「そうだな。今日の行動は、取るというより、取られないための布石だ」

「なにを探しているんだ」


「探していたのは、足跡、痕跡。

 すでに誰かが通った形跡がないか、それを探していた。

 しかし、なにも見つけられなかった。

 君も明日は、足元を観察して私の政治活動に協力してくれ」


「こんなところ、誰が通るというんだ?」

「さぁな。見つけてみなきゃ、それはわからない」



 ああ、そうだ。わからない。


 オレには、オマエがさっぱりわからない。






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