5.6.01 - 拠点設営
次の日。
ストームとミラーは、拠点の候補となる場所に検討をつけていた。
その、いくつかの候補の中から選んだ場所は、山の北東側。
小ぶりの池と、そこにつながる川がある場所。
おそらく、その川も、海へとつながっているはずで、池や川には、魚も泳いでいた。
食糧の調達もできるし、枯れ木の森も、いたるところに存在している。
その場所自体が少し丘になっていて眺めもいいが、山に登ればさらに遠くを見渡すこともできる。
資源、食糧、地理的条件。
すべてを兼ね備えた環境だった。
拠点を構えるのに、申し分のない場所だ。
まずはそこに、半地下の小屋を建てることになった。
また台風が来てもいいように、オレ達プレイヤーはもちろん、物資も、ヘラジカも収容できる広さのある避難小屋を造る。
小屋を建てる指揮官は、ミラー。
作業員はオレと、ウォルターとその部下2名。
オレもウォルターも、そんな仕事やりたくない。
だが、やるしかない。
まずは、ミラー手製の、木のスコップのようなものを地面に突き立てて、穴を掘ることになった。
今日は1日、穴掘りで終わりそうだ。
ソフィアは、ヘラジカの世話と食糧の調達。
未希とストームは、生活面全般の雑務を引き受ける。
まずは、10日以内に、拠点と呼べる環境を構築する。
それが済んだら、再遠征の準備に取り掛かる。
20日後にハンス達が戻ったら、すぐにルミナス・コアへと進みだせるように準備をしておく。
そして、また次の日。
男5人で掘った穴は、背の高さよりも少し深いところまで掘った。
それでもまだまだ面積が足りないらしく、ミラーに横に広げろとせっつかれた。
ミラーはというと「柱と屋根を作る木材を切ってくる」と言って、枯れ木の林へと向かって行った。
穴を掘りつづけるのは、オレとウォルターとその部下ふたり。
全員無口なので、ひとことも喋らずに掘り続けた。
未希とストームは、ソフィアに魚の釣り方を教わった。
枯れ木に、ロープを結び、むしり取ったコケを丸めたエサをつけて水面に放った。
しかし、いっこうに釣れる気配はない。
そこから少し離れた場所で、リュウタが川に入り、前足を起用に振り下ろして魚を捕まえていた。
それを見ていた3人は、釣りはやめて、リュウタに魚を獲らせる手段に切り替えた。
そして、拠点の構築を始めて3日目。
カウント24、547日目。
掘った穴は、面積で例えたら、たたみ十畳よりも広そうだ。
その穴の上に、ミラーが伐採してきた木材を組み上げて屋根をかぶせる。
まぁ屋根といっても、地上から見たら、ただの床。
それでも、多少の嵐がきても、充分に耐えられそうなシェルターが完成した。
木材の屋根をかぶせた上から、水漏れを防ぐ気休めにと、土をかぶせる。
そうすると、中に入ると真っ暗になった。
しかし、通気口の下に焚火を灯すと、オレンジ色の揺らめきで満たされたその空間は、少年時代に夢見た秘密基地のようだった。
月が沈む前に、食糧や荷物を、荷車ごと半地下住居に運び込む。
ヘラジカは、川岸につなぎとめたままにしてある。
ヘラジカだけでなく、ルカやリュウタを半地下住居に連れ込むのは、天候が荒れたときだけだ。
ルカは、池で藻をはみ、リュウタはいつもどこかに出かけている。
その晩。
出来たばかりの半地下住居で、オレ達は残り少ない酒を開封して、新居の完成を祝った。
宴席の途中で、ストームが言った。
「食糧の節約をしたいから、また交代でログアウトしよう」
「そうね。順番はどうする?」
「2~3人の見張りだけ残して、あとは全員、ログアウトでいいんじゃない?」
その言葉に、ウォルターが渋い顔を作るが、なにも言い返さない。
まぁそうだな。その計画はダメ。オレでもわかる。
「ストーム、それはダメだ」
「ん? なんで?」
「なにかが近づいてきたとき、全員を背負って逃げられるだけの人数を残せ」
「あ、そうか。そうだね」
「オレ達はいま8人だよな。男が5人、女が3人。常に男は3人以上残したほうがいい」
「じゃあ、5人残しで、3人でログアウトのローテーション組むでいいかな」
「そうだな。それでいいだろう」
これで、ウォルターも安心だろう。
実際、すでに目を閉じてパイプを咥えていた。
そんなに旨いのかな、パイプって。
「じゃあ次は、明日からの予定なんだけど。なにかしておきたいことある?」
真っ先にミラーが答えた。
「俺は、家具を作りてぇな。あとタフルもな」
「それ大事だね!」
ストームが大いに賛同した。
「もう、あなたたち、ここにずっと住む予定の話?」
「ここで20日くらい待つんだろ? なんなら、掻きだした土を固めて、カマドも作ってやるぞ」
「あら……それはいいわね」
そのあと、ストームが思い出したような表情で言った。
「東の方面を中心に、偵察はしておきたいな」
「偵察かぁ。山の上から見た限りじゃ、偵察するような場所もなさそうだがなぁ」
「ずっと平地だったものね」
「それはそうなんだけど。1日で往復できる範囲だけでも偵察は出そう。明日から」
「誰を出すんだ?」
「ミラーと、総司かな?」
オレかよ……
「まぁいいけど」
ミラーは、舌打ちした。
「チッ、なんだよ。俺は家具を作りてぇのに」
「私が行こうか?」
意外にも、志願したのはウォルターだった。
ストームも予想外だったようで、聞き返した。
「え、いいの?」
「この先の様子は、少し気になる。自分の目でも見ておきたい」
「ああ、そっか。ウォルターは頂上から東の様子を見てないしね」
「そういうことだ。私とソウジのふたりで行こう。部下はおいていくので、雑用でも見回りでも、好きに指示を出してくれ」
ああ、まさか……
なんだよ、オレと話しがしたいのか……
嫌だ。
「じゃあ、明日の偵察は、総司とウォルターで。ミラーは家具作り」
なんてこった。
急にババを引かされた気分だ。
「いい? 総司」
ちくしょう……
「わかったよ。行くよ」




