5.5.19
オレ達は、東への旅を続けた。
目標にしていたらしき、山のふもとの西側に辿り着いたのは、入り江を離れてから2日目。
辺りは森か、林だったのだろうが、枯れ木ばかりで、見通しは良い。
月に照らされている山を見上げると、完全なハゲ山だった。
頂上まで、まったくと言っていいほど草木が生えていない。
斜面はキツそうだが、岩が張り出した箇所もパっと見少なく、昇りやすいように見えた。
しかし、今日は山には登らず、まずは付近の水源を探す。
これも、簡単に見つけることができた。
ルカの感覚を受け取った未希によると、どうやら、山の頂上は、カルデラ湖のようになっているらしい。
先日の暴風雨のおかげで、充分な水が溜まっているようだ。
そして、頂上から染み出した水が、いくつかの細い池や小川となって、付近に湧き出しているらしい。
染み出して濾過されたばかりの水だからだろうか。
川も池も水底がよく見える。
暗くても、よくわかるくらいに、水は澄んでいて、透き通っていた。
今日はひとまず、山の北西側の川沿いに、キャンプを張る。
川はそのまま海につながっているらしく、魚も生息していた。
川幅は精々4~5メートル。
流れは弱くもないが、強くもない。
膝まで浸かれば、歩いても渡れるくらいの川だ。
荷物を降ろして焚火を起こし、鍋の水を煮沸する。
ソフィアと未希が、食事の準備をしているあいだに、今後の予定を話し合う。
まずはストームが言った。
「このまま、ここを仮キャンプにして、明日は山に登ってみたいんだけど」
ミラーが答えた。
「いい考えだ。ヘラジカはここに置いて頂上の様子を確認しに行こう。だれか留守番で2~3人残そう」
ソフィアが鼻で笑う。
「ミラーは、山に登りたいだけよね」
「それなら、私達が残ろう。ちょうど3人だ」
留守番に志願したのは、ウォルターとその部下だった。
異論はない。
ウォルターが留守番で問題を起こしても、ウォルターの不利益にしかならない。
やることといえば、せいぜい、オレ達に聞かせたくない話をするくらいだろう。
「ルカは近くにいるのか? 明日もルカの能力が必要だ」
「うん。大丈夫だよ。みきが呼べばすぐに来ると思う。リュウタは?」
「リュウタは、ふもとにとどまって、気配の監視を続けてくれ」
オレはウォルターにも聞こえるように言った。
念のための、ウォルターの監視も込だ。
「わかった」
「近くには、オレ達以外、ダレもいないよな?」
「うん、あでも、ヘラジカかな? 1匹みつけたみたい」
「え……? 嵐の最中に逃げたやつか」
「うん、でもすごく遠いところ」
「オレ達が寝てる間に、リュウタに食べられたりしないのか」
「リュウタも、ヘラジカと1匹でケンカするつもりはないって」
「そうか。ヘラジカも強そうだもんな」
なんだかんだで、すでに人間の2倍くらいのサイズに成長している。
普通に、体当たりされるだけでも、吹っ飛ばされて大ケガだな。
次の日。
キャンプ地には、焚火の灯りと、ウォルターら3人を残し、オレ達は登山を始めた。
実際に昇り始めると、遮るものが岩くらいしかない。
登りにくい山ではない。
高低差は、600メートルと少しなので高いというわけでもないだろう。
しかし、かなり急な斜面だった。
思っていた以上に、登るのがキツかった。
最初にペースが遅れだしたのはストーム。
しばらくすると、次に未希。
ソフィアも、息が上がり始めたようで、ミラーに苦情を言った。
「ミラーぁ、もっとゆっくり登って」
「まぁったくよう、シティガールどもめ」
「私は、牧場ガールよ」
「馬に頼り過ぎなんだ。普段から自分の足で歩け」
「あなたは、馬には乗らないのかしらミラー」
「俺んちには、馬なんかいねーよ。森に棲んでるのは、クマとオオカミだ」
「野蛮だわ……牧場の近くに棲んでるのは、シカとコヨーテよ」
「平地のお嬢さんのノロケ話なんて、聞きたくねぇ」
どれも、オレの街では、動物園にしか存在しない。
呼吸を荒げながら、未希が言った。
「まゆさん、ナイトビジョン使ってもいい? 登りやすくなると思うんだけど……」
「だめだよ……次でもう5回目でしょ? みんなの目が、猫目になっちゃうよ」
「みきは、猫好きだからいいよべつに」
「ダメ……」
魔法の暴走か。
暴走したら、魔法を使わなくても、ナイトビジョンのままになるんだよな。
「別にいいんじゃないのか。この世界は永遠に夜なんだろ」
俯いたまま、斜面を登るストームが答えた。
「エレメント・ノードに戻ったとき、昼間の生活ができなくなるから、ダメだよ。この世界にはサングラスはないよ」
「ならまた、正常化の魔法で戻せばいいだろ。エルハムのときみたいに」
「あれは、単純に土地に掛けられていたからできたんだよ。全員に掛かっちゃったら、ひとりひとり解除しなきゃならないでしょ」
「もう喋るのヤメなさい。余計に息があがるわよ……」
先頭を行くミラーが、立ち止まって振り返った。
高いところから、仁王立ちしながら、オレ達に言った。
「おらぁ、もう少しだ。がんばれ」
ふと、見上げれば、頂上はもうすぐそこだ。
「あと少しっ、あと少しっ」
ソフィアがその言葉を繰り返した。
未希も、それをまねる。
「あと少し……あと少し……」
「……、……」
ストームはもう、言葉も出なかった。
先に、ミラーが頂上に辿り着き、次にソフィア。
そして、未希。
ストームは、オレに背中を押されながら、ようやく頂上に辿り着いた。
頂上の地面の大部分は、巨大なカルデラ湖だった。
まったいらな水面が、月明かりを綺麗に反射していた。
湖を取り囲む地面には、木も草も生えておらず、殺風景な光景が視界に広がっていた。
湖の広さはどのくらいだろうか。
対岸まで、2~300メートルだろうか。
ハンスを追い返してしまったから、正確な測量ができる者がいない。
なんだか、カッパの頭みたいだ。
眼前の光景を見て、オレは、そう感じていた。




