↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
シェイプシフトデバイス
423/450

5.5.18 - 友に贈る


 全員に、オレの考えを述べる。

 所詮オレの考えたことだから、簡単なことだ


「もともと荷駄隊だけ、戻す予定だったんだよな。

 計画では、400キロ地点だったか。

 それを早めて、ここで荷駄隊だけ戻したらどうだ。

 この近辺でも、大して変わらないんじゃないのか?」


 ハートリーが質問した。

「ここを、拠点にするってことか?」


「いや、拠点にするのは、これから目指す山のふもとだ。場所はわかってるんだよな? ハンスも、ミラーも?」


 ミラーが言葉を返した。

「崖の上で、目標に定めた、あの山のふもとか」

「そうだ」


 ハンスが続けた。

「なるほど。あのあたりでもまだ、200キロ前後だけど、ここよりは進めるね」


 次は、ストームに視線を向ける。

「どうだ、ストーム。この考えは」

「ん……拠点の位置が200キロズレるけど、20日のズレよりはいいかな」


 ウォルターが口を挟む。

「旅が継続できるのなら、それがいい。ここで部隊を分けて、少人数で先へ進もう」


 ミラーが続けた。

「食糧は現地調達かぁ。キノコと魚だけになっちまうなぁ」


 その問題の解決策も、オレの計画にある。

「肉が補充できるだろ、ミラー」

「あん? どこにあんだ?」

「動けなくなったヘラジカ3頭だ」

「ああ……なるほど」


 毒を食って死んだわけでもない。

 もう動けないのなら、せめて食糧になってもらおう。

 未希や、ソフィアが、この場にいなくてよかった。


「干し肉に加工したら、何日分の食糧になりそうだ?」

「3頭分あれば、何週間も持つな」


 いつのまにか、ストームが顔をあげていた。


「運が良ければ、逃げちゃったヘラジカも、リュウタなら探せるね」


 どうやら。

 いつもの調子を取り戻してきたか。


「どうだ。この計画で、進められるか?」

「うん。そうしよう」


「ならあとの計画は、お前に任せるよ」


「ん……戻るのは、ヘラジカ10頭と飼育員全員。荷車は2台。引率はハートリー」


「10頭? 3頭残すのか?」


「うん。荷車も1台残して、食糧の運搬に使おう。

 それと、ハンスとフィリスも、戻るメンバーでいい?」


 ハンスが、少し驚いた顔をストームに向ける。

「え、私たちも?」


「わたし達は、山のふもとで拠点を建てて待ってる。そこまで迷わずに戻ってこれるのは、ハンスだけでしょ」


「なるほど。私なら座標がわかってるから、あの山のふもとまで、最速で向かえるね」


「うん。近くまで来たら、フィリスのフルートを奏でてくれれば、リュウタが迎えにいくよ。食糧を積みなおしたら、20日くらいで戻ってきて」


「わかった。その任務引き受けるよ。ミス・ストーム」



 方針が決まった。


 遠征を続けるのはオレを含めて8人。

 未希とストーム、ソフィアとミラー。

 そして、ウォルターとその部下2人。

 ヘラジカは、ルルとあと2頭のメス。


 それ以外は、すべて、知恵のエレメントコアまで、食糧と物資の補給のために帰還する。


 気がつけば風も収まり、元の静かな夜に戻っていた。


 遠く西の空に、月も浮かんでいる。

 もうあと数時間で、沈みそうだ。


 その日の月明かりは、荷車の修理と、旅の準備で終わった。


 行動不能となっていた、ヘラジカ3頭は、オレ達の食糧となることが決まった。


 3頭のヘラジカはすでに、こと切れていた。

 現代人は、今日までの旅を支えた友として、安らかな眠りを祈った。

 そのあとミラーとハートリーは、この先も、オレ達の旅支える貴重な友として、3頭の血抜きと解体を始めた。



 月が沈み、また洞窟に戻る。

 20人で食事をし、いくらかの酒を開けて、互いの旅の無事を祈った。

 そして、眠りについた。




 翌朝。

 月が昇ると、まずはオレ達が出発した。


 ハートリー、そして、ハンスとフィリスの3人。

 そして、荷駄隊の飼育員全員と、再会を約束しあい、別れを告げた。


 目指す先は、さらなる東。

 オレ達が歩く先の夜空に、月が浮かんでいる。


 先頭を歩くのは、ミラー。

 そのすぐ後ろに、未希とストームがいて、ソフィアがその後に続く。


 女子3人が、ぺちゃくちゃとなにか会話しながら歩いている。それもいつものことだ。


 これまで何度も、何日も、共に旅をした4人だ。


 その後ろを追いかけるのは、3頭のヘラジカ。

 ルルは、背中に荷物を載せ、荷車は別のヘラジカ2頭が曳いている。


 ウォルターと、側近のふたりを除けば、気心の知れた、旅の仲間だけになった。


 オレは、ウォルター達と共に、隊列の最後尾を歩いている。


 ウォルターも、その部下も、口数は少ない。

 喋るとしても、必要なことだけで、世間話はほとんどしない。見た記憶もない。


 しばらく、退屈な旅になりそうだなどと考えていた。

 ふと、夜空を見上げると、フルートの音色が後ろから昇って来る。



 ああ、これは……フィリスのフルートだ。


 なんの曲だろうか。

 どことなく、寂しげに感じる音色だが、そうでもない。

 嵐が過ぎた雲間から、希望、安らぎ、哀愁。

 それらが、ゆっくりと顔を出していくような。

 そんな旋律だった。



「エドガーのエニグマ、ニムロッドだな」


 意外なことに、つぶやいたのは、ウォルターだった。

 この曲名の名前だろうか。


 ウォルターに尋ねた。

「おまえのお気に入りの1曲か」


「……まぁ、嫌いな曲ではない。

 あの人なら、こんな音で演奏するだろう。

 エドガーは、そう考えながら、この曲を生み出したらしい」



 フィリスはいま、なにを思って、この曲を演奏しているんだろう。


 それが聞けるのは、20日以上先か。


 なんだか、もう会えないのではないか。

 少なからず、そんな気がしたが……

 

 曲が終わるころには、不思議とそんな不安も掻き消えていた。



 大丈夫。

 どんな未来でも、受け入れよう。

 受け入れることができる。



 フィリスが残した笛の音は、そういう音だった。 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。