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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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5.5.17


 嵐が去ったのは、2日と少し後。


 ログアウトで食いつないだので、食糧は、ほとんど減っていない。

 食糧を消費したのは、オレとウォルターだけだ。


 どういうわけか、ウォルターも、ログアウトしなかった。

 理由は聞いていないが、あいつはたんに、オレ達を信用していないだけかもしれない。



 まだ風は強く吹いていたが、雨は止んでいた。


「みきさん、ナイトビジョン使おう」

「うん」


 未希の魔法で、暗視を得たオレ達は、全員で外へ出た。

 向かった先は、ヘラジカを繋ぎとめていた場所。



 散々たる状態だった。


 ヘラジカの数が減っている。

 ぐったりとしているヘラジカの姿もある。


「ルル? ルルは?」

 未希は、真っ先にルルを探した。


 ルルは無事だった。

 やつれてはいるが、未希の声に反応して顔を向け、むしゃむしゃと口を動かしている。

 腹が減っているのだろう。


「おーい、こっちもヒデェぞ」


 荷車を縛っていた場所から、ミラーの声。

 ひっくり返っていたり、粉々になっている荷車もある。

 まともな状態の荷車は、ほんの数台しか見当たらない。



 とにかく、状況を確認した。


 まずはヘラジカ。

 衰弱して動かなくなったヘラジカが2頭。

 流木の下敷きになっているヘラジカが1頭。

 見た目には、生きているのかどうかも分からない。


 そして、綱が切れて、どこかへ逃げてしまったのだろうか。

 行方不明のヘラジカが、4頭。

 

 20頭いたヘラジカは、13頭に減ってしまった。


 ソフィアが、力なく言葉を漏らした。

「あの嵐だからね……13頭残っているだけでも、奇跡よ。とにかくご飯と水をあげましょう」


 ソフィアが飼育係に指示を出して、残ったヘラジカの世話を始めた。



 次は、荷車。

 こちらは、最悪だった。


 運びきれなかった荷物は、ほとんどが飛ばされたか、流されてしまったらしく、なにも残っていない。

 その場に散らばっているのは、木片や車輪の残骸だけだ。


 ミラーとハートリーが、確認したところ、修理すれば動かせる荷車は、たったの3台だった。


 リュウタは、気が付いたら見当たらなかった。

 ルカも、どこかへ飛んで行ってしまった。

 嵐の間は、ずっと洞窟にいた。

 メシでも探しにいったのだろうか。



 ソフィアと飼育係りを、ヘラジカのところに残し、他は、いちど、洞窟に戻った。


 今後、どうするか。

 それを話し合う。


 オレは、日本語でストームに尋ねた。


「ストーム、どうする」

「んん……もうだめだね。依頼は失敗。やりなおしたい」


「は……?」

「こんな状態じゃ、続けられないよ」

「おいおい、もうあきらめんのかよ……まぁいいけど」


 なんだか、今にも泣き出しそうな顔をしている。

 部隊を率いる、隊長の顔じゃないなコレは。


「どうしたらいい……?」


 ダメだなこりゃ。

 ストームは、役に立ちそうにない。

 まぁオレにも実際、ここからどう立て直したらいいのか、わからない。


 頼りになるのは誰だ。


「ストーム」

「……ん」

「おまえは、しばらく喋るな」

「……」


 ストームはダメだ。

 ここまで積み上げた、周囲の信頼を失うかもしれない。


 ミラーか。ハートリー。

 こいつらなら、すこしは、役に立つか。


 ウォルターはどうだろう。

 ダメだな……コイツは。

 全員を生かすよりも、自分だけが生きる計画に絡めとられそうだ。


 あとは、ハンスとフィリスか。

 地質学者と、戦争被災者の演奏家。


 まぁいい。

 とにかく、話し合おう。


「ストーム」

「ん?」


「オレが、こいつらに質問するから、おまえは考えろ」

「なにを?」


「この状態から、立て直す解決策があるかどうかだ」

「……」


 

 まずは、ミラーに質問した。


「ミラー。いまの状況から立て直せるか?」

「まぁ、控えめに言って、最悪だな」

「旅を続けることはできそうか?」

「ムリだな」


 ウォルターが口を開く。

「ここから、いちど引き上げたとして、間に合うだろうのか?」


 そのウォルターに質問を返す。 

「残りの日数は、どれだあるんだ?」

「いまは、539日目だ。あと61日ある」


「ハンス、どうだ? 戻ってやり直したとして、間に合うか?」


「また、エレメント・コアまで戻るのに8日。準備に4日、ここまで戻るのに8日。つまり立て直すのに20日と考えて、残りは、41日になるね」


「ここら、ルミナス・コアまで、あと何キロくらいだろうか」

「まだ500キロはあるだろうなぁ。移動するだけでも30日はかかる。そこから捜索となると……まぁ、ギリギリだね」


「時間は、まだ足りているのか」


 なら、戻るか。

 ストームも、俯いて地面を眺めているが、オレの横で話を聞いている。


「ウォルター」

「なんだ」

「もし、遅刻したらどうなる?」


「ふむ……どうだろうな。他の連中も、同じように困難な旅を乗り越えた後だ。たとえば数日は待っていてくれるだろうが、長く留まることはないだろう」


「相手が、遅刻するってこともあるよな?」


「それも考えられるが、時間は守った方がいい。政治家に親切な人間はいない。遅刻してごめんなさいだけでは、すまされない」


 ああ、なんだ。

 そこは、オレの職場と一緒か。


「ハートリー」

「おう」

「旅の継続は、ムリなんだよな?」


「プレイヤーだけなら、どうにかなるかもしれねぇが、ヘラジカの食糧が持たねぇ。食糧を運ぶ荷車が、壊れちまったからな」


「戻るのは簡単なのか」

「いちど通った道だ。水が補給できる場所も、キノコや魚が手に入れられる場所も分かる。また嵐になったら、どうなるかわからねぇが、帰り道にはなんの問題もねぇよ」

 


「ストーム」

「ん……」

「話聞いてたか」

「うん」

「なにか思いついたか?」

「帰るんでしょ。それでいいんじゃない?」


 やっぱりダメだ、ストームは。

 ストームよりも先に、オレが解決策を思いついた。


「オレに考えがある。聞いてくれるか」

「なに?」



「部隊を、いま、この場所で、ふたつにわける」




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