5.5.15
風雨が、激しさを増していく。
月明かりも、いよいよ閉ざされてしまった。
それでも、ナイトビジョンのおかげで、どうにか足元は見えている。
洞窟の入り口は、荒れ狂う海岸から十メートル以上、離れていた。
水面からも4~5メートルくらいの高さにある。
他に、風雨を凌げる場所もないので、ここに避難するしかない。
今後の嵐の発達具合にもよるが、今のところは、安全そうに見える。
中は、ゴツゴツとした岩が、えぐり取られたような空洞になっていた。
そろそろ効果も切れそうな、ナイトビジョンの影響で、ぼんやりと、奥の方まで見えている。
まぁ広くはないが、狭くもない。
20人が風雨をしのげるスペースは、充分にありそうだ。
雁のルカが、入り口よりの端っこで、羽を休めていた。
未希が、そのルカの近くに歩み寄って座り、リュウタも未希の傍らで、足を曲げた。
ミラーが、オレの背負の、ログアウト状態のフィリスを見て、あきれた顔を見せる。
「まったく、これだから都会のお嬢さんはよぉ」
他の連中を、こちらから、迎えに行った方がほうがいいだろう。
「未希は、ここでリュウタと待ってろ。10分くらいしたら、また遠吠えを上げてくれ」
「わかった」
フィリスを下ろしたが、地面はゴツゴツとした岩場だった。
そのまま寝かすのもどうかと思い。自分のマントを外して、地面に広げた。
その上に、フィリスを寝かせなおす。
「未希、フィリスを頼むぞ」
「うん」
「ミラー、迎えに行こう」
「おう」
ミラーとふたりで洞窟を出る。
外は完全に暴風雨になっていた。
風にあおられながら数分歩くと、こちらへ向かってくるハートリーとストームが姿を現した。
そのまま、洞窟まで行ければよかったのだが、ヘラジカに、岩場を超えさせるのはムリだった。
やむを得ず、荷車からヘラジカを離し、解いた手綱で岩陰にヘラジカを繋ぎとめた。
荷車も、1か所にまとめて、ロープでつなぎとめる。
ヘラジカ達は、この暴風雨のなかを、野ざらしで耐えしのぐことになる。
それから、半数のプレイヤーで、荷物を洞窟に運び込む。
残った半数は枯れ木の林まで行って、薪にできそうな、太い枯れ木を集める。
すでに湿っているが、仕方がない。
その間も、嵐はどこまでも激しさを増していった。
いいかげん、オレも飛ばされそうになるほどだった。
ハートリーが「これ以上は、危険だ」と言い、全ての荷物を運び込む前に、全員が洞窟へ避難した。
運び込んだ水樽や、穀物袋で、気休め程度の風よけを積み上げる。
その手前に、ひとつだけ焚火を起こす。
吹き込んでくる雨水を鍋にためて、その焚火で湯を沸かした。
吹き荒れる暴風雨の轟音は、巨人の呻き声のようだった。
未希もストームも、隠しきれない不安の表情を浮かべている。
嵐を気にも留めていなさそうなソフィアが、鼻歌を奏でながら、ハーブティーを沸かす。
洞窟の外は、荒れ狂っているが、ソフィアが煎れたお茶の味は、いつもとまったく同じだ。
おかげで、少し、気分が和らぐ。
「なんだか思い出すね」
未希に言葉をかけたのは、ストームだった。
「うん? なにを?」
「ノトウェンからの手紙」
「ああ、ッフフフ。そだね」
「このお茶、エオリアンハープみたい」
「え、なに? ノトウェンて誰?」
その会話に、ソフィアも混ざり、いつもとの女子トークが始まる。
オレは誰ともなく、独り言のようにつぶやいた。
「嵐はいつおさまるんだ」
ハートリーが答えた。
「さぁな」
ミラーが言った。
「寝るか」
「……寝れんのかよ」
風の轟音。打ち付ける波しぶきの音。
洞窟の外は、あまりにもうるさい。
「寝るしかねぇだろ」
「見張りはどうするんだ」
「この天気じゃ、なにも襲ってこねぇよ。やりたいやつがやれ」
まったく。
適当だな。ハイランダーは。
ストームが立ちあがって、洞窟の暗闇に向かって行った。
「もう、嵐が終わるのを待つしかないから、他のヒトも、寝たかったら、寝ていいよ」
「へーい」
その後、思い出したように付け加えた。
「えっと、ログアウトの順番だけ、決めようか」
食糧は運び込んだし、水の確保もできる。
それでも、食糧と薪木の消費を最小限にとどめ、ログアウトで時間を稼ごうというのが、ストームの考えのようだ。
ストームの提案で、最低7人を残し、最大で13人までログアウトすることになった。
嵐が通り過ぎるまで、半数以上がログアウト状態となる。
フィリスがすでにログアウト中なので、あと12人。
ログアウトせずに残るのは、まずオレ。
未希とストーム。
ウォルター、ソフィア。
それと、早くもイビキをかいている、ミラーとハートリー。
他は全員、暗い洞窟の奥へと引っ込み、ログインデバイスを出して、ログアウトした。
オレは、ログアウトできない。
もしかして、メシ抜きか。




