5.5.13 - 嵐が来る?
斜面を下り、平地に戻る。
平地といっても、もとは林だろう。
枯れ木が乱立している。
ミラーを先頭に、荷駄隊が枯れ木の林を進んでいく。
オレはストームと、最後尾を歩いていた。
少し前を歩く、ハートリーが夜空を見上げながら言った。
「雨が降りそうだ」
「え?」
ストームが、聞き間違えかと思うような表情で、ハートリーに視線を向けた。
「雨だ。あとどれくらいか分からないが、たぶん降る」
「まじ?」
「マジだ」
ルミナス・ノードでも、雨が降るんだな。
「そんなの分かるの?」
「まぁなんつーか、これは勘じゃねぇ。予感だ。しかもけっこう当たるぞ」
「え、どうしたらいいんだろ。雨宿りしはほうがいいのかな」
「うーん……場所がありゃいいが。崖沿いの窪みでも探すか」
「ちょっとミラーのとこ行こう。ハートリーも来て。総司は後ろの警戒お願い」
「ああ。分かったよ」
なんだが、昔。
似たようなセリフを聞いたような。
あの時も、ダレかの予告通り雨が降って、ひどい目に遭った記憶。
思い出せない。
オレも、ボケてきたのかな
ハートリーと、ストームが、小走りでヘラジカの荷駄隊を追い抜いていく。
先頭は、数十メートル先。
未希のナイトビジョンのおかげで、先頭集団も、その先の枯れ木の様子も良く見えている。
ストームが先頭に追いつき、ミラーに声を掛けていた。
ミラーが振り返り、ハートリーとストームとで、歩きながら会話をしている。
また、専門家の知識を集めて、ストームが判断するのだろうか。
みんなわかってるのかな。あいつの判断の根底にあるのは、ゲームで培った感覚だろう?
まぁしかし。
文化祭で同級生と会話する未希を見て、暗い顔をしていたストームだったのに。
この世界では、本当に別人だな。
そんなことを考えながら、オレも空を見上げた。
確かに星が陰っている。
たぶん、雲があるんだろう。
そういや、月も、薄い雲に覆われていた。
風も昨日より冷たい。
向かい風だが、肌寒いというほどではなく、涼しくて心地よい。
そのせいだろうか。
空気がなんだか、重たく感じる。
ミラーが立ち止まった。
荷駄隊が過ぎていくのを見送っている。
そのまま、最後尾のオレが、ミラーに追いついた。
「どうした、ミラー」
「しんがりをハートリーと交代だ」
並ぶと、ミラーも歩き始める。
「ハートリーの天気予報なんて、当たるのかよ」
「あいつが住んでるのは、俺よりも山奥でよ。天気がとにかく変わりやすい場所でななぁ。
山奥だから、判断を間違うと命にかかわることもあってよ。そこらへんに住んでる連中は、ハートリーも含めて、天気の変化にも敏感なんだよ」
「なるほど。オレにはさっぱり分からん」
「俺でも少しは分かる。肌が感じるんだよな。たしかに降りそうな気配だ」
「で、どうするって?」
「降り出す雨の強さ次第だとは思うが、リュウタはすでに、洞窟っぽいものを見つけてるみてぇだぞ」
「便利だな、オオカミは」
「呑気だな、ソウジは」
「雨だろ。いつものことだろ」
「ルミナス・ノードの天気は、荒れだすとやべぇんだ。小雨ですめばいいが、普通の嵐で竜巻レベルだ。避難するなら、早めがいいだろう」
「そうなのか」
しばらくすると、風が強くなった。
小さな枯れ枝が舞い上がり、落ち葉が絡まって、正面から飛んでくる。
荷駄隊は、南東方向から、東へ進路を変えた。
風の向きも、向かい風ではなく、右前方に変わる。
それでも歩きにくい。
風は、どんどん強くなっていく。
荷駄隊の速度が落ちていく。
どうにか、枯れ木の林を抜けると、左側から、激しい波の音が響き渡った。
歩いている場所は平坦だが、左側は崖になっていた。
ナイトビジョンのおかげで良く見えるが、もし暗闇のままだったら、こんな場所は歩けないかもしれない。
間違えて、踏み込んでしまったら、崖下に真っ逆さまだ。
先頭の方から、ハートリー声。
ここで、止まれという指示。
風は、しだいに強くなっていく。
崖下に打ち付ける波の音も、轟音のようだった。
ミラーが呟く。
「こりゃやべぇな」
「嵐が来るのか」
「来るな、こりゃ」
いつのまにか、ソフィアが近づいていた。
「ミラー!」
ミラーを呼んだ。
「ご指名か。ちょっと行ってくらぁ」
ミラーがソフィアのところへ駆けていく。
ふたことみこと、言葉を交わすと、ミラーだけ先頭の方へ駆けだしていった。
ソフィアが、オレのところへと近づいてくる。
「洞窟を確認しに、偵察を出すんだって」
「そうか。誰が行くんだ?」
「ミラーと、ミキと、フィリス。それとリュウタよ」
「未希もかよ」
「心配?」
「……」
「いいわよ。ここはわたしが受け持つから、ソウジも行ったら?」
「……」
「ほら、行っちゃうわよ、早く行きなさい」
ソフィアが、オレの尻を叩いた。
オレは、急かされるように、小走りで隊列の先頭へと向かった。




