5.5.11
話は、まだ続いていた。
ウォルターから聞かされた、3勢力による同盟の話。
銀刺繍の識別票。
そして、正義のエレメントコアが、南西にあるという話。
ストームが質問を続けた。
「正義が南西にいるという、根拠は?」
「同盟に関する調整は、すでに、現実世界で済ませている。
正義の方角は、MCP(秘匿マルチパーティ計算)で特定した」
「ふーん……だから、ほかの方角はわかんないんだ。ずいぶん、古典的だね」
「紙と鉛筆があれば、どこでも、できるからな」
「その同盟の盟主はどこが努めてるの?」
「知恵だ。つまり我々だ」
「正義を討伐したあとは? どうするの?」
「3勢力で、改めて勝者を決めることになる」
「戦争するってこと?」
「それはまだ未定だ。
総力戦が後に控えていると、戦力の出し渋りが起きる可能性がある。
共闘したあとだから、感情的に難しいこともある。
まずは、3勢力合同で正義を叩く。
先のことはソレが終わってからだ。
まぁたとえば、代表者を決めて、決闘するとかかな」
また、ずいぶんと、呑気な見通しに聞こえるな。
「ウォルター」
「なんだ、ソウジ」
「会合の時点で、どこかが裏切ってるって可能性はないのか?」
「それを考えたらキリがない。先に進めない。ひとまず信じる。裏切られたら、その時に考える」
「呑気だな。もし騙されていたら、着いてその場で殺されるだろう?」
「そうとも限らない。毒は持たせて、持ち帰らせる方が効果的だ。
いずれにしても、同盟は成立する。盟主である我々は、その前提で行動している」
「……で、えむしーぴーってなんだ?」
「……それは」
ウォルターの困ったような表情。
この男、ホントに、いろんな表情が作れるようだ。
ストームが言った。
「ごめん、あとでわたしが説明するから、話続けて」
「うむ、どこまで話したか。
とにかく、現実世界での調整は終わっているらしい。あとは現地のプレイヤーが、調印するだけだ」
「調印て? どうするの?」
「それは、教えられない」
「ん、そう。ならいい」
いいのかよ。
「他に知りたいことはあるか? 隊長殿」
「んん……いまはない」
「そうか」
「南に注意しながら、とにかくルミナス・コアへ急ぐ。それだけだね」
「そういうことだ」
「ハンス、ミラー」
「うん」
「なんだ?」
「明日は、まず入江を目指すけど、その先は、月がでてから決めたい」
ハンスと、ミラーが頷いた。
話は、それで終わった。
それから、食事をして、寝る時間になった。
今日は、未希とストームが、ログアウトする順番だった。
オレはソフィアと、1番の見張りにつく。
どこからともなく、リュウタが姿を現した。
ログアウトしようとする未希に寄り添い、カラダを丸めた。
未希は、それでも不安だから近くにいてくれと言うので、オレもその近くに座って、火にあたることにした。
未希とストームが、リュウタを挟み込むように横になり、マントに包まった。
それからしばらく時間が経過し、大部分が寝静まった頃。
未希は、ログアウトしたようだ。
呼吸する音が聞こえない。
「総司」
ストームが小声でオレを呼んだ。
見れば分かる。
ストームはまだ、ログアウトしていなかった。
横を向いたまま、周囲に口元が見えないように、オレに視線を向けていた。
オレは、リュウタに話しかけるように、口を動かした。
「どうした」
「ウォルターの話、どう思う?」
どう思うって……
「オレは、最初からなにも信じていない」
「3勢力がルミナス・コアに集まる……それってかなりヤバいと思わない?」
ああ、なんだ。
あの男の話を、信じている前提か。
「そうだな。オレ達みたいなのが紛れ込んでいても、不思議じゃない」
「総司はログアウトできないよね」
ストームに言われて、オレも気になったので、ログインデバイスを出した
『 ELAPSED 04:28 』
まだ4時間しか経っていなかった。
オレの部屋のドアをたたき壊した連中は、どうなっただろうか。
もしかしたら、もうあきらめて、帰ったかもしれない。
「試しに、ログアウトしてみるか」
「あ、やっぱだめだ」
「なんで」
「総司がログアウトしたところで、行方不明だから……あっちでは会話できない」
「そうか。そうだったな」
死んでるかもしれないしなぁ。
「だから、いいや。また荷駄隊の最後尾で話す」
「ああ。そうしてくれ」
「ログアウトするね。おやすみ」
「ああ」
ストームは、そのままの体制で、ログインデバイスを出し、ログアウトした。
行方不明か。
ちょっと興味がある。
現実世界のオレの部屋は、どうなっているんだろう。
生きて脱出できるのか。
それとも、捕まって、リンチに会うのか。
こういうのを、ワクワクっていうのかな。
なんてな。
この世界の最後を見届けたい。
いまは、そういう気持ちもある。
その気持ちは、けっこう強い。
ログアウトしたとして、オレは、再ログインできるのかな。
カウント24に、戻れるのかな。
この世界が崩壊したら。
カウント24が終わったら。
モルウェナにも、アルクにも。
クラゲにも、マスターにも。
コユルギにも。
ミラーや、ソフィアにも。
もう、会えなくなるのか。
そう思うと、胸のあたりが、少し苦しくなる。
もしかしてオレ。
知らぬ間に。
この世界を、楽しんでいる?




