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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
シェイプシフトデバイス
414/417

5.5.09



 翌日。


 オレ達は、池を後にした。

 水は充分に補給した。


 未希がルカを上空に飛ばした。

 それから、ハンスの地形学と、ミラーの知識。

 それを集約して進行方向を調整しながら、南東へと傾斜する坂を登っていく。


 東の夜空を見上げると、そこには月が輝いている。

 この世界で、もっとも光を放つもの。


 あれが、ルミナス・コア。

 本当だろうか。

 だがまぁ、説得力はある。

 この夜の世界では、文字通りのルミナス・コアだ。



 だとしたら、オレ達は、あの月まで旅をするのか。

 マジで、おとぎ話だ。

 笑えないし、アホらしい。



 ふと、腰に括り付けた剣に視線を落とす。


 サンダーソニア。

 なんでも斬れる呪われた剣。

 わざわざ、神様と戦わずとも、この剣であの月をぶった斬れば、この世界は終わるのだろうか?

 いや、月でなくてもいい。

 ルミナス・ノードそのものを、真っ二つにすればいい。

 それができれば、今すぐに、この世界を終わらせることができるんじゃないのか?


 どうやって?

 そんなものを斬るイメージなんて、できるはずもない。

 そもそも、そんなやり方で、シェイプシフトデバイスは貰えるのか?


 やめよう。

 難しいことを考えるのは、オレの役目じゃない。


 今日も、オレとストームは、最後尾を歩いている。

 オレからこいつに、質問しよう。


「ストーム」

「ん?」

「あれが、神様の家だとして、あれはなんだ」


「ん……月?」


「あれは、本当に月なのか?」

「……あの天体はね、徐々に大きくなってるらしいよ」

「へぇ」


「巨大化してるっていうヒトもいるけど、わたしは違うと思う」

「じゃあなんだ?」


「地面に近づいてるんじゃないかな」

「は?」


「いつか、地上に落下してくるんじゃないかな」

「いつ?」


「わかんないけど。あれが現実世界の月と同じなら、何百年も先かもね」

「そうか。ならオレ達には、関係ないのか」


「ん。天体までの距離と大きさが、現実世界の月と同じだったらね」


「あれが、ここに落ちてきたらどうなるんだ」

「たぶん、なにもかも粉々」

「そうか。そりゃそうだな」


 特大の隕石が落ちてくるようなもんだ。

 だれも生きちゃいられないだろう。


「あれ……」

「どうした」


「コアは、破壊されても、次のカウントで復活する。

 フェルおじさんがそうしたんだから、それは確実」


「だからなんだ?」


「もし……もしもだよ? カウント24が、25年経っても、決着がつかなかったら? だれもクリアできなかったら? この世界はどうなるの?」


「そのまま、続くんじゃないのか」


「でも……まって。

 カウントが繰り上がると、ニフィル・ロードも、25年経過する。メモリアもそうだよね?」


「そうだな。オレのメモリアも、23と24で、25年経っていた」


「決着がつかないまま、25年経ったらどうなるの? そのままカウントが繰り上がるの?」



 オレに聞かれてもな。

 って、ストームも、オレに答えを求めている訳じゃない。

 質問を続けよう。


「メモリアも、エレメント・ノードも、ルミナス・ノードも、状態を維持したまま、カウントだけが25に変わるんじゃないのか?」


「そうか……そうなのかな……」


 そして、そのまま、喋らなくなった。


 地面に視線を落としたまま、唇だけが動いている。

 地面と会話をしているように見える。


 ほっとこう。



 夜空を見上げて、月を眺めた。

 あの月が、徐々に地表に落下してるのか。

 だとしたら。


「まるで、時限爆弾だな」


 横でストームが、足を止める音。


「総司……」

 ストームが喋った。


「この世界、このカウントのタイムリミット……それが25年。

 そう仮定するなら、あの月は……」


「うん? あの月がなんだ」


「まって。計算する」


 ストームは、背負っていたズタ袋から、エンピツと紙を取り出す。

 そして、歩きながら、何かを書き始めた。



 って、なにをだよ。

 計算して、なにが分かるんだ。


 いや、その前に、いま歩いているのは、登り坂だぞ。


「おい、ストーム、転ぶぞ。前を見て歩け」

「ちょっと待って。わたしの代わりに足元見てて」


 そんな代わり、務まるわないだろ……


 ストームは紙と鉛筆で計算を続けた。

 ときどきつまづいて、転びそうになりながら。


 しばらくすると、ブツブツと、心の声が漏れ始めた。


「この惑星のサイズ、月の公転速度、その月が25年で地表に激突すると仮定すると、あの月の直径は3~4キロ。地表からの距離は500kmくらい? だとしたら、あれは月なんかじゃない。月に見立てた、別の何か……」


「じゃあなんだ?」

「わかんないけど……ものすごく大きな人工衛星?」


「だとしたら、どうなるんだ」



「この仮説が正しいなら、

 ルミナス・コアは……

 国際宇宙ステーションなんかよりも、はるかに大きな、人口軌道衛星ってことになる。

 月よりは、うんと小さいけど、人工衛星としては、巨大すぎる。

 それが、いずれ地表に落下する。

 そのリミットが、25年。

 全てをリセットしてしまうタイムリミッター。

 だとしたら、あの月にあるものは……」



 そろそろ、オレにはついていけない。

 言っている意味が、よく分からない。


「それで、まとめるとどういうことだ」


「ルミナス・コアは、この世界の核であり、終末決定装置。

 だとしたら、もしかすると、あの月は、ニフィル・ロードの……」


 ストームは、タメを作った。

 ほんの数秒だと思うが、やけに長く感じるタメだった。


 ストームが、再び、口を開く。


「ハードディスク……

 というより、データセンター……なんじゃない?」



 ああ……


 いよいよ、オレにはさっぱり分からん。

 もう、勝手にしてくれ。




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