5.5.09
翌日。
オレ達は、池を後にした。
水は充分に補給した。
未希がルカを上空に飛ばした。
それから、ハンスの地形学と、ミラーの知識。
それを集約して進行方向を調整しながら、南東へと傾斜する坂を登っていく。
東の夜空を見上げると、そこには月が輝いている。
この世界で、もっとも光を放つもの。
あれが、ルミナス・コア。
本当だろうか。
だがまぁ、説得力はある。
この夜の世界では、文字通りのルミナス・コアだ。
だとしたら、オレ達は、あの月まで旅をするのか。
マジで、おとぎ話だ。
笑えないし、アホらしい。
ふと、腰に括り付けた剣に視線を落とす。
サンダーソニア。
なんでも斬れる呪われた剣。
わざわざ、神様と戦わずとも、この剣であの月をぶった斬れば、この世界は終わるのだろうか?
いや、月でなくてもいい。
ルミナス・ノードそのものを、真っ二つにすればいい。
それができれば、今すぐに、この世界を終わらせることができるんじゃないのか?
どうやって?
そんなものを斬るイメージなんて、できるはずもない。
そもそも、そんなやり方で、シェイプシフトデバイスは貰えるのか?
やめよう。
難しいことを考えるのは、オレの役目じゃない。
今日も、オレとストームは、最後尾を歩いている。
オレからこいつに、質問しよう。
「ストーム」
「ん?」
「あれが、神様の家だとして、あれはなんだ」
「ん……月?」
「あれは、本当に月なのか?」
「……あの天体はね、徐々に大きくなってるらしいよ」
「へぇ」
「巨大化してるっていうヒトもいるけど、わたしは違うと思う」
「じゃあなんだ?」
「地面に近づいてるんじゃないかな」
「は?」
「いつか、地上に落下してくるんじゃないかな」
「いつ?」
「わかんないけど。あれが現実世界の月と同じなら、何百年も先かもね」
「そうか。ならオレ達には、関係ないのか」
「ん。天体までの距離と大きさが、現実世界の月と同じだったらね」
「あれが、ここに落ちてきたらどうなるんだ」
「たぶん、なにもかも粉々」
「そうか。そりゃそうだな」
特大の隕石が落ちてくるようなもんだ。
だれも生きちゃいられないだろう。
「あれ……」
「どうした」
「コアは、破壊されても、次のカウントで復活する。
フェルおじさんがそうしたんだから、それは確実」
「だからなんだ?」
「もし……もしもだよ? カウント24が、25年経っても、決着がつかなかったら? だれもクリアできなかったら? この世界はどうなるの?」
「そのまま、続くんじゃないのか」
「でも……まって。
カウントが繰り上がると、ニフィル・ロードも、25年経過する。メモリアもそうだよね?」
「そうだな。オレのメモリアも、23と24で、25年経っていた」
「決着がつかないまま、25年経ったらどうなるの? そのままカウントが繰り上がるの?」
オレに聞かれてもな。
って、ストームも、オレに答えを求めている訳じゃない。
質問を続けよう。
「メモリアも、エレメント・ノードも、ルミナス・ノードも、状態を維持したまま、カウントだけが25に変わるんじゃないのか?」
「そうか……そうなのかな……」
そして、そのまま、喋らなくなった。
地面に視線を落としたまま、唇だけが動いている。
地面と会話をしているように見える。
ほっとこう。
夜空を見上げて、月を眺めた。
あの月が、徐々に地表に落下してるのか。
だとしたら。
「まるで、時限爆弾だな」
横でストームが、足を止める音。
「総司……」
ストームが喋った。
「この世界、このカウントのタイムリミット……それが25年。
そう仮定するなら、あの月は……」
「うん? あの月がなんだ」
「まって。計算する」
ストームは、背負っていたズタ袋から、エンピツと紙を取り出す。
そして、歩きながら、何かを書き始めた。
って、なにをだよ。
計算して、なにが分かるんだ。
いや、その前に、いま歩いているのは、登り坂だぞ。
「おい、ストーム、転ぶぞ。前を見て歩け」
「ちょっと待って。わたしの代わりに足元見てて」
そんな代わり、務まるわないだろ……
ストームは紙と鉛筆で計算を続けた。
ときどきつまづいて、転びそうになりながら。
しばらくすると、ブツブツと、心の声が漏れ始めた。
「この惑星のサイズ、月の公転速度、その月が25年で地表に激突すると仮定すると、あの月の直径は3~4キロ。地表からの距離は500kmくらい? だとしたら、あれは月なんかじゃない。月に見立てた、別の何か……」
「じゃあなんだ?」
「わかんないけど……ものすごく大きな人工衛星?」
「だとしたら、どうなるんだ」
「この仮説が正しいなら、
ルミナス・コアは……
国際宇宙ステーションなんかよりも、はるかに大きな、人口軌道衛星ってことになる。
月よりは、うんと小さいけど、人工衛星としては、巨大すぎる。
それが、いずれ地表に落下する。
そのリミットが、25年。
全てをリセットしてしまうタイムリミッター。
だとしたら、あの月にあるものは……」
そろそろ、オレにはついていけない。
言っている意味が、よく分からない。
「それで、まとめるとどういうことだ」
「ルミナス・コアは、この世界の核であり、終末決定装置。
だとしたら、もしかすると、あの月は、ニフィル・ロードの……」
ストームは、タメを作った。
ほんの数秒だと思うが、やけに長く感じるタメだった。
ストームが、再び、口を開く。
「ハードディスク……
というより、データセンター……なんじゃない?」
ああ……
いよいよ、オレにはさっぱり分からん。
もう、勝手にしてくれ。




