表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
シェイプシフトデバイス
411/418

5.5.06 - フェル


 旅すがら。

 ストームは、噴水爺さんのことを、オレに話した。 



 噴水爺さんの名前は、フェリックス・ローゼンタールという。


 周囲からは、フェルと呼ばれていたらしい。

 ドイツ人実業家の父と、フランス南部出身の母親の元で、1949年に生まれた。

 裕福な家庭で育った、4人兄弟の末っ子らしい。


 職業は、近代画家。

 どんな絵を描くのか、まったく分からないし、オレに言わせれば、そんなんで、食っていけるかと。

 不思議でならない職業だ。


 ただ、1949年生まれだとしたら、オレ達の時代でも、80歳に届いていない。

 もしかしたら、まだ現実世界のどこかで生きているかもしれない。

 だから、現実世界のフェルがどこで何をしているのか。

 数年以内に、それ探してみると、ストームは付け加えた。




 噴水おじさんのフェルが、ニフィルロードに初めてログインしたのは、カウント17。

 つまり、その初参加で、フェルは主神を倒し、史上2人目の大罪人となってしまったことになる。


 その後、シェイプシフトデバイスを手に入れたフェルは、カウント1にログインし、カウント17までの歴史を、追いかけていくことになる。



 ストームが譲り受けた日記に書かれているのは、カウント17における出来事だけ。


 それ以外のことは書かれていないらしい。


 フェルが、実際にカウント17にログインしたのは、フェルが21歳のとき。つまり、1970年頃。

 オレや、ストームどころか、両親もまだ、生まれていない年代だ。


 ストームは先に、フェルがログインしたカウント17の時代背景について、オレに説明した。



 カウント17のリリースの推定は、西暦1775年。

 ログインしているプレイヤーの7~8割が、18世紀後半の人間だったらしい。


 18世紀のヨーロッパは、激動の時代だ。

 ドイツでは、1778年にバイエルン継承戦争。

 隣の国、フランスでは、1789年にフランス革命。

 革命の立役者である、ナポレオンが生きていた時代ということになる。


 そこら中で戦争があり、日常的に、国家が主導する殺し合いが発生していた時代。

 カウント17のプレイヤーは、そんな時代からログインしている連中だった。


 そして、そのプレイヤーの多くは、貴族や大商家といった、いわゆる富裕層だったらしい。

 オレ達の歴史の教科書や、図書館の辞典に名を連ねるような偉人も、多く参加していたことだろう。



 そして、噴水おじさんのフェル。

 彼も、まばゆい女性と出会っていた。

 フェル自信も、彼女をひとめ見て、恋に落ちかけたほどの女性らしい。


 彼女の名は、マリア・カロリーナ。

 女帝と言われた、マリア・テレジアの10番名の子女。


 オレは、カロリーナのことは全く知らない。

 聞いたことも無い。

 それでも、姉の名前は聞いたことがある。

 誰でも知っている。


 マリア・カロリーナは、マリー・アントワネットの妹である。


 アントワネットも含め、マリア・テレジアの子女の多くは、非業の死を遂げている。

 その中でもカロリーナは、イタリア南部を統治していた、フェルディナンド王に嫁ぐことで、比較的、長い人生を謳歌した。

 


 噴水おじさんのフェルは、カロリーナに、自身の肖像画を描いてほしいと懇願された。

 フェルは、ふたつ返事でその頼みを聞き入れ、エレメント・ノードで、彼女の肖像画を描いたらしい。


 日記には、その肖像画の下絵が描かれているらしく、ストームには、それが、はっきりと見えているようだ。



「で、それが、ルミナス・コアにも関係があるのか」

「フェルおじさんはね、肖像画を気に入られて、次の肖像画も書いてほしいと、依頼されたんだって」


「次の肖像画?」


「当時のお貴族様の好奇心、というか我儘なんだろうけど。噴水おじさんのフェルは、カロリーナの要請で、神様の肖像画を描きに行くことになった」


「ああ……なるほどな。お貴族様なら、依頼しそうだ」


「んん。それでカロリーナから、将校と、十数人の私兵を貸し与えられて、ルミナス・ノードの探検が始まった」


「なるほど……爺さん独りで出かけたわけじゃないんだな」


「それでも、最終的にコアに辿り着いたのは、フェルを含むたったの3人。食糧も荷物も、大部分を失って、もう戻ることも叶うかどうかわからない。

 それでもフェル達がルミナス・コアを目指したのは、フェルおじさん自身が、神様の姿を見たいと願ったから……って日記に書いてある」


「その時代でも、壮絶な旅だったってことか。肖像画は描けたのか?」


「描けてない……その続きは明日、話す」


 おい……

 もったいぶりやがって。



 ストームが背中を向けて、荷駄隊の連中に言葉を放った。


「今日はここまで! 野営の準備始めよう!」

「へーい」

 荷駄隊の連中からの返答。



 月はすでに、沈みかけていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ