表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
シェイプシフトデバイス
407/416

5.5.02


 アッシュバレルから、エレメント・コアへの道を進む。


 先頭は、ミラー。

 最後尾は、ハートリー。


 その間を、20頭のヘラジカが、10台の荷車を引いている。

 プレイヤーの総員は20人。


 前後にスコットランド人のレンジャーを配置して、オレ達は、森の中を進んだ。


 途中でざわざわと、どよめきがあがる。

 森の奥に1匹の灰色オオカミが、姿を現した。


 リュウタだ。

 ずっと離れて並走していたリュウタが、ようやく姿を現した。

 距離はあるが、また少し大きくなったのが見て取れる。


 それから、上空。

 ピュウピュウと、喚く雁の鳴き声。

 米粒のようにも見える渡り鳥が、単独で遥か上空を飛んでいる。


 未希が、顔をあげて、手を振った。

 それに気づいたのかどうか、オレには分からないが、上空のルカが大きく旋回しながら、また鳴き声を上げていた。



 先頭を歩く、ミラーが言った。


「妙な集団になったもんだ」

「おまえが、その筆頭だろ」

「おいおい、どう考えても妙なのは、おまえだろソウジ」


 斜め後ろを歩くストームが言った。

「みんなスゴイよ。最高の仲間だよ。ミラーもソウジも、ソフィアも」


 ストームに他意はない。

 本心からそう言っているのだと思う。


 この旅は、危険で、困難なものになる。

 今回の任務を達成するには、全員の技術が不可欠だ。


「なんだ、照れるな」

 酒焼けなのか、照れてるのか、よく分からないミラーの顔。


「オレは、役に立ちそうにないな」


 ミラーもストームも、そしてソフィアも。

 特異な分野と、飛び抜けた技術を持っている。


 オレには、なにもない。

 せめて最初に死ぬ役を買って出たいところだが、今はそれもやりにくい。


 せいぜい、オレに、できそうなことと言えば……

 未希と、可能ならストームも。

 ふたりが、生きて帰る道を模索する。



「ミラー、おまえはなぜ、参加したんだ。今回のギャラはいくらだ?」

「ギャラ? スコットランドの物価基準で、数日食いつなげるくらいだな」

「それは、おまえの中では高額なのか?」

「なんだよ、ソウジは、たんまりもらってんのか?」

「いや、たぶんボランティアだな」


「だッハハハ。いいぜ。愛してるぜソウジ」

「気持ちわりぃな」


「俺ぁな、楽しそうだから参加したんだ。お前たちの旅に参加できるのが、なによりの報酬だ。ウソじゃねぇぜ?」


 照れ隠しもせず、よくそんなことが言える。


「ソフィアにプロポーズでもするのか? あいつは既婚者だろ」

「がっはっは。しねぇよ。でもまぁ、不倫相手なら考えてやってもいい」


「っフフ」

 思わず笑ってしまった。


「ソウジよ。俺とおまえがいれば、危機回避は問題ねぇ。全員生きて帰って、また美味い酒を呑もうぜ」


「……そうだな。そう願いたい」


 危機回避か。

 そんなこと言われても、オレは遠慮なく、ミラーを捨てて逃げる。

 未希だけは無事に帰す。可能ならストームも連れて。

 それ以外の生死は、どうでもいい。


「しっかしおめぇは、ムスっとしてんなぁ」


「いや、笑ったつもりなんだけどな。気が付かなかったか?」

「わりぃ。ぜんぜん、わからなかった」


「っフフフ」

 オレの代わりに、後ろを歩いていた未希が笑った。

 そのあとミラーに、短く解説した。

「さっき笑ったよ。ほんのちょっとだけど」


「そうか。ぜんぜんわかんなかった。いつか腹抱えて笑うところを見せてくれ」


「あはは。みきも、見てみたいなそれ」


「オレなんかより、笑わないやつが、もうひとりいるだろ」


 ストームに視線を送る。

「ん? わたし? わたしは面白ければ笑うけど……いま笑うとこあった?」


 空気を読まない、ストームのひとことで、無駄話が終わった。

 そのまま、言葉を続けた。

「それより、ミラー。夕方までにコアまでいける?」


「へぇへぇ。すんませんでした。今のペースなら、陽が落ちる前に到着できます隊長さん」


「今日は、どうしようか。エレメント・コアで野営したほうがいいよね?」


「それがいいな。

 いちばんの問題は、ヘラジカの飯だ。明日の朝までたらふく食わせて、ルミナス・ノードに入ろう」



 ストームも、この世界の経験を積んで、なんだか、似てきた。

 いや、根底にあったものは、最初から同じかもしれない。


 アーネストのような、血も涙もない指揮官の感情制御。

 顔つきはまったく似てないが、ただよう雰囲気が似てきている。


 失われる命の引き算と、生き延びる命の数を計算できる感情。



 それでいい。

 ストームは、信頼できる。



 オレの命は、何人分だろうか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ