5.5.02
アッシュバレルから、エレメント・コアへの道を進む。
先頭は、ミラー。
最後尾は、ハートリー。
その間を、20頭のヘラジカが、10台の荷車を引いている。
プレイヤーの総員は20人。
前後にスコットランド人のレンジャーを配置して、オレ達は、森の中を進んだ。
途中でざわざわと、どよめきがあがる。
森の奥に1匹の灰色オオカミが、姿を現した。
リュウタだ。
ずっと離れて並走していたリュウタが、ようやく姿を現した。
距離はあるが、また少し大きくなったのが見て取れる。
それから、上空。
ピュウピュウと、喚く雁の鳴き声。
米粒のようにも見える渡り鳥が、単独で遥か上空を飛んでいる。
未希が、顔をあげて、手を振った。
それに気づいたのかどうか、オレには分からないが、上空のルカが大きく旋回しながら、また鳴き声を上げていた。
先頭を歩く、ミラーが言った。
「妙な集団になったもんだ」
「おまえが、その筆頭だろ」
「おいおい、どう考えても妙なのは、おまえだろソウジ」
斜め後ろを歩くストームが言った。
「みんなスゴイよ。最高の仲間だよ。ミラーもソウジも、ソフィアも」
ストームに他意はない。
本心からそう言っているのだと思う。
この旅は、危険で、困難なものになる。
今回の任務を達成するには、全員の技術が不可欠だ。
「なんだ、照れるな」
酒焼けなのか、照れてるのか、よく分からないミラーの顔。
「オレは、役に立ちそうにないな」
ミラーもストームも、そしてソフィアも。
特異な分野と、飛び抜けた技術を持っている。
オレには、なにもない。
せめて最初に死ぬ役を買って出たいところだが、今はそれもやりにくい。
せいぜい、オレに、できそうなことと言えば……
未希と、可能ならストームも。
ふたりが、生きて帰る道を模索する。
「ミラー、おまえはなぜ、参加したんだ。今回のギャラはいくらだ?」
「ギャラ? スコットランドの物価基準で、数日食いつなげるくらいだな」
「それは、おまえの中では高額なのか?」
「なんだよ、ソウジは、たんまりもらってんのか?」
「いや、たぶんボランティアだな」
「だッハハハ。いいぜ。愛してるぜソウジ」
「気持ちわりぃな」
「俺ぁな、楽しそうだから参加したんだ。お前たちの旅に参加できるのが、なによりの報酬だ。ウソじゃねぇぜ?」
照れ隠しもせず、よくそんなことが言える。
「ソフィアにプロポーズでもするのか? あいつは既婚者だろ」
「がっはっは。しねぇよ。でもまぁ、不倫相手なら考えてやってもいい」
「っフフ」
思わず笑ってしまった。
「ソウジよ。俺とおまえがいれば、危機回避は問題ねぇ。全員生きて帰って、また美味い酒を呑もうぜ」
「……そうだな。そう願いたい」
危機回避か。
そんなこと言われても、オレは遠慮なく、ミラーを捨てて逃げる。
未希だけは無事に帰す。可能ならストームも連れて。
それ以外の生死は、どうでもいい。
「しっかしおめぇは、ムスっとしてんなぁ」
「いや、笑ったつもりなんだけどな。気が付かなかったか?」
「わりぃ。ぜんぜん、わからなかった」
「っフフフ」
オレの代わりに、後ろを歩いていた未希が笑った。
そのあとミラーに、短く解説した。
「さっき笑ったよ。ほんのちょっとだけど」
「そうか。ぜんぜんわかんなかった。いつか腹抱えて笑うところを見せてくれ」
「あはは。みきも、見てみたいなそれ」
「オレなんかより、笑わないやつが、もうひとりいるだろ」
ストームに視線を送る。
「ん? わたし? わたしは面白ければ笑うけど……いま笑うとこあった?」
空気を読まない、ストームのひとことで、無駄話が終わった。
そのまま、言葉を続けた。
「それより、ミラー。夕方までにコアまでいける?」
「へぇへぇ。すんませんでした。今のペースなら、陽が落ちる前に到着できます隊長さん」
「今日は、どうしようか。エレメント・コアで野営したほうがいいよね?」
「それがいいな。
いちばんの問題は、ヘラジカの飯だ。明日の朝までたらふく食わせて、ルミナス・ノードに入ろう」
ストームも、この世界の経験を積んで、なんだか、似てきた。
いや、根底にあったものは、最初から同じかもしれない。
アーネストのような、血も涙もない指揮官の感情制御。
顔つきはまったく似てないが、ただよう雰囲気が似てきている。
失われる命の引き算と、生き延びる命の数を計算できる感情。
それでいい。
ストームは、信頼できる。
オレの命は、何人分だろうか。




