表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
シェイプシフトデバイス
402/417

5.4.21 - 噴水広場から


 翌日。


 ソフィアは、ヘラジカを選びに軍の飼育場へ。

 残った3人は、噴水おじさんのところへ向かった。


 未希は、いつものような元気がない。

 下を向いて歩きながら、沈んだ表情を浮かべている。


 自信がないのだろうか。


「イヤなら、やらなくてもいいんだぞ。未希」


 他人の記憶の中にあるダレかの残像。

 それをほじくり返して、目の前に出現させる。

 そんなの、する側も、される側も、トラウマになりかねない。


「うーん……そうじゃなくて、うまくできるかどうか、わかんない」

「前にも、使った魔法なんだろ?」

「あのときは偶然できただけで、やろうと思ってできた魔法じゃないんだよ」


「使うつもりがなくても、魔法は発動するのか」

「うーん……みきも、よくわかんない」


 噴水広場に辿り着く。


 まだ早朝。

 噴水爺さんは、今朝も屋台を出している。

 広場を横切り、なにも陳列していない屋台に近づくと、爺さんの方から声が掛かった。


「やぁ、みんなお揃いで。おはよう。どうしたの? また相談事?」


 おとといと、似たようなセリフ。

 やはり、この爺さんは、ボケていると思う。


 ストームが、返答した。

「おじさん、おはよう。宿題、終わったよ」

「宿題?」

「忘れちゃった? 創造神の宿題」

「ええっ?」

「これ」


 ストームが、噴水おじさんの左腕を掴む。


 袖は、めくれたままだった。

 入れ墨のような、GORGの文字。

 そこに巻いた、青いハンカチ。

 ストームは、ハンカチを見ながら言った。


「忘れちゃった?」


「ああ、覚えてる。今、思い出したよ」

 爺さんが、ニカっと笑う。

 歳の割に、歯は綺麗だ。

「よかった。でもね、わたしには無理そうだから、この子にお願いした」


「おはよう、おじさん」

「やぁ、おはようフロイライン。またドイツ語の勉強かい?」


 どうやら、オレは、来る必要は無かった。

 その場から離れて、噴水のフチの石垣に腰を下ろした。


 未希はドイツ語で会話を始めた。

 ストームも会話に参加している。

 オレにはドイツ語は分からない。



 3人の会話は、しばらく続いた。


 ドイツ語の分からないオレは、噴水の水の音を聴きながら、ソラを眺めたり、広場を横切るプレイヤーを眺めたり。

 いつぞやの、小さな子供連れのプレイヤーが、通り過ぎて行った。

 まだ10歳にも満たない、小さな男の子。

 すぐ後ろに、大人の女性も歩いている。

 母親だろうか。

 顔つきが、よく似ている。



 静かな時間だった。

 聞えてくるのは、噴水の水の音。

 風が抜ける音。


「みきさん!」


 ストームが、日本語で未希を呼んだ。

 めずらしく、慌てた、大きな声だ。


 顔を向ける。

 未希が、膝を曲げてうずくまり、丸まった状態で地面に寝転がっていた。

 

 ストームが、座り込み、未希のカラダを揺すっている。

 噴水爺さんはと言えば、ニコニコ顔が消え失せている。

 目と口を開いたまま、未希が立っていた空間を見つめていた。

 まるで、宇宙人でも見ているかのような、呆けたツラ。


 立ち上がって、未希とストームのところへ。


「どうした?」

「みきさんが……」


 未希は、どうした。


 未希の肩に触れる。

 そのまま、仰向けに角度を変えた。

 眠っている?


「おい、未希」

 目を覚ましそうにない。


 ストームが言った。

「突然倒れて」

「倒れた?」


 気絶したのか?


 違うな……

 呼吸をしていないように見える。

 でも、生きている。

 死んでいるのではなく、未希の時間が、生きたまま止まっている。


「なにがあった?」

「おじさんに魔法をかけたら、膝から崩れ落ちて」


 この状態って、たぶん……


「もしかして、ログアウトしたのか?」

「……え、でも……うん、なんで?」


「ログインデバイスを、出してたのか?」

「出してないよ。おじさんに魔法を掛けてる途中だった」


 爺さんは……


 まだ、呆けている。

 なにか、ブツブツと言っている。

 いよいよ、完全にボケたか。


 いや、それより、未希だ。


「わたしも、ログアウトするから、ソウジはみきさんを」

「ああ、わかった。家まで運ぶ」


 右手で、未希の腕を掴む。

 左手を未希の背中を支える。


 柔らかい。

 なんだか、やりにくい。


「背負うから、手伝ってくれ」

「んん……」


 ストームの手を借りて、未希を背負った。

 まだ体温は残っている。

 ちょっと大きめの、ぬるっこい人形。

 軽いな。こいつも。


「おまえはどうする、ストーム」

「ここから、記憶の回廊へ行って、ログアウトする」


「そうか」

 それがいちばん、早いな。



「まちなさい」

 噴水爺さんの声。

 ドイツ語ではなく、英語。


 ニコニコ顔が、完全に消え失せていた。

 上品な白い顎髭と、貫禄のある体躯。

 ヘラヘラ顔が消えたその風体は、西洋の美術館に飾ってある、彫像のようだった。


「10分、いや5分でいい。私の話を聞いて行きなさい」

「未希はどうした? おまえがなにかしたのか?」


「フロイラインは大丈夫だ。ログアウトしただけだから。

 ここでは話せない。私の手を取ってくれるかい」


「ログアウトって、どうやって?」



 爺さんは何も言わず、右手を突き出した。

「ここでは話せないと言っただろ。いいから、さぁ」


 左手には、ログインデバイスが載っている。

 

 首をひねってストームを見ると、ストームもオレを見ていた。

 ストームが頷く。


 オレは未希を背負ったまま、左手で爺さんの右手に触れる。

 ストームは、右手を伸ばす。


 爺さんは、左手の親指で、ログインデバイスの表面をなぞる。



 おい、まさか、、



 オレ達3人。

 いや、背負っている未希を含めると4人。



 4人のカラダが、虹色に輝き始め……



 光に包まれた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ