5.4.20
アーネストの依頼を受けることになった。
表面上は、オレ達にとって、都合の良いことしかない。
断る理由を上げるとしたら、オレのわがままだけだ。
そのあと、6人で、詳細を詰めた。
オレと未希とストーム。それとソフィア。
その向かいに座っているのはウォルター。
アーネストは座らず、壁に寄りかかっている。
ウォルターは、パイプを咥えている。
甘ったるく感じる、煙の匂い。
煙たくは無い。
オレは、話を聞いていなかった。
計画を立てるのは苦手だ。
オレの仕事じゃない。
危険なことから目を背け、言われたことをやるだけ。
それしかできない。
熱心に会話をしているのは、ストームとソフィア。
未希は、リュウタとルカに関する質問に答えている。
オオカミに、なにができて、雁は、なにができないのか。
それに合わせながら、計画を話し合っていた。
話は、長く続いた。
オレは退屈だった。
パイプを咥えるウォルターを眺めたり、熱心にしゃべるストームを眺めたり。
計画に口を挟むのは、ほとんどアーネストだった。
ウォルターは、あまりしゃべらない。
イエスか、ノーのどちらかしか言っていない。
どれだけ、退屈な時間が過ぎたのか。
ストームとソフィアが立ち上がり、アーネストとウォルターも立ち上がった。
そして、握手を交わした。
アーネストとウォルターが言った。
「それでは、よろしく頼む」
「君達との旅が楽しみだよ」
ストームとソフィアがその言葉に答えた。
「ん。それじゃあ3日後の朝」
「忙しくなるわね」
アーネストとウォルターが、部屋を出て行った。
「じゃあ、帰ろうか」
「みき、おなかすいたぁ」
「ッフフ、そうね。途中で、食材を買って帰りましょう。今夜の夕食」
終わったのか。
「ほら、帰るわよ、ソウジ」
「総司、話聞いてなかったよね」
「おにいちゃんは、ときどき、目を開けたまま寝るよ」
寝ているわけじゃなくて……
なにも考えていないだけなんだけどな。
「帰ったら、かいつまんで教えてくれ」
オレ達は、本部を後にした。
帰り道で、肉や野菜の食品を売る店に寄る。
経営しているのはプレイヤーだ。
見た目で分かるのは、牛肉や豚肉。それと鶏肉。
このあたりにある牧場は、軍が管理する使役動物しか飼われていない。
畑も果樹園も、近くには存在しない。
だから、仕入れは、全てメモリアだ。
とはいえ、ひとりの店主で、全てを揃えられるわけじゃない。
他のプレイヤーが仕入れた食材を、買ったり交換したりで集め、店頭に並べているらしい。
店は、昭和の駄菓子屋よりも少し広い程度。
その店内で、未希とソフィアが、あれこれと相談しながら、食材を選んでいた。
ソフィアは万能だ。
計画の補助、戦闘、家事、そして未希達のケアまで、なんでもこなす。
年の功か。
やめよう。それを言うと怒られる。
買い物を済ませて、ストームの家へ戻る。
未希とソフィアは、すぐにキッチンへと向かい、食事の支度を始めた。
オレとストームは、会議室に腰を下ろす。
「どこから説明したらいい?」
「最初のほうだけでいい」
「最初って、なんにも聞いてなかったの?」
「まぁな。旅立ちに必要な範囲でいいから。教えてくれ」
「期限は76日以内だけど、73日以内にルミナス・コアを目指す」
「それで?」
「まずは、400キロ地点に40日以内に補給拠点を作る。
そのあと、残りの30日で、ルミナス・コアを探す」
「なるほど。それで、最初の出発が3日後か」
「うん」
「アーネストの言う、76日以内って、どういうことだ」
それを尋ねると、ストームは、ポーチから木札のカレンダーを取り出した。
表示されている数字は「340」だ。
「たぶんだけど……76日後が、カウント24の経過日数600日目? なんじゃないかな」
なるほど。
「その節目に、なにか起きるのか」
「わかんない。教えてくれなかった」
「天変地異でも起こるのかな」
「どうだろう。そういう話は聞いたことない」
「まぁ……行けば分かるか」
「ルミナス・コアがどんなものかだけ、教えてくれたよ」
「また石像でも置いてあるのか」
「ルミナス・コアは、ルミナス・ノードの中心にあって、そこには間欠泉があるんだってさ」
「間欠泉? なんだそりゃ。神様は、温泉かサウナにでも入ってるのか」
「それも、よくわかんないんだけど、そこからまたゲートでも開くんじゃない?」
分からんな。
どうせ行けば分かるんだから別にいいんだけど。
アーネスト達は、知っているのだろうか。
知ってて、教えてくれないのだろうか。
「噴水爺さんの件はどうするんだ」
「明日、みきさん連れて、もう1度ためす」
「未希?」
「みきさんがね、前に子供とお母さんを引き合わせたことがあるんだって」
「なんだ、それは」
「話しにくいから、はしょるけど。
メモリアでね……記憶の中のお母さんを、子供の前に出現させたことがあるんだって」
「分からん、どういう魔法だ?」
「子供の記憶を使って。子供にしか見えないお母さんが、その子の前に現れたんだってさ」
「へぇ……幽霊かなんかか?」
「そんな怖いものじゃないよ。記憶を使った、動画再生? みたいな?」
分からんが……
未希が、やりそうな魔法だな。
「みきさんも含めて、誰にも見えないんだけど、子供にだけは見えて、会話もしてたらしい」
「やっぱり幽霊だろそれ……」
「ん……とにかく明日、それを試そうと思う。うまくいくかどうかわかんないけど。時間も無いし」
そんな魔法を使って、未希は大丈夫なのか。
心配だ。




