5.4.19 - 76日以内 →次へ
聞き間違い。
かもしれない。
「どこへ行けと?」
「聞こえなかったか? ルミナス・コアだ」
「ルミナス・コア」
「そうだ」
オレはストームに視線を流した。
コクコクと、小刻みに頷く。
アーネストに向き直る。
「分かった。詳しい話を聞こう」
この話は、渡りに船だ。
引き受ければ、軍の支援を受けて、ルミナス・コアへ近づくことができるだろう。
軍の許可、認可を得て、堂々と旅ができる。
いったい、どういうつもりなのか。
まさか、全てを見透かしているのか。
どこかで情報を得て、オレ達を排除しようとしている?
オレ達を罠にハメて、このウォルターという男に、オレ達を殺させ、退場させる。
それくらいのこと、アーネストなら無表情で部下に命令するかもしれない。
アーネストが言った。
「悪いが、今の段階では、詳しくは話せない」
まぁそうだな。
少なくとも、引き受けるまで、詳しくは話せない。
「76日以内というのは?」
「今回は、時間厳守だ。現着は、早ければ早いほどいい」
「その日に間に合わなかったらどうなる?」
「任務は失敗だが、期限が過ぎても、ルミナス・コアまでは行ってもらう」
「ルミナス・コアに、ウォルターを連れていってどうする?」
「おまえ達は、ウォルターの護衛だ。その後のことを知る必要は無い」
「その旅は安全なのか?」
「無論、困難な旅になるだろう。
だが、おまえ達は、この任務に最適な能力を持っている。
他に適任者もいない。
だから、この依頼を持ってきた。
詳しいことは話せないが、それでも、やってほしい。
必要な物資も、支援も、すべて軍が用意する。
知恵のエレメント軍の総意として、おまえ達に頼みたい」
「詳細を知らずにか」
「そうだ」
「生きて戻れる保証もなしにか?」
「……そうだ」
その返答に、少し安堵した。
アーネストなりに、気を使ってくれたのか。
オレ達を、騙そうとしているわけじゃないのかもしれない。
いや、それとも、なにかの計算か。
詳細を話せない。
それは、アーネストが意地悪をしているわけでもないだろう。
この男も、間に挟まれているだけ。
職務を忠実にこなしているだけだ。
「やってくれるか?」
「オレ達に考える時間はあるのか?」
「時間に限りがある。決断はこの場で、今日中に済ませてくれ」
アーネストから視線を外し、ウォルターを見た。
脚を組んで、ふんぞり返っている。
よく見ると、首筋の左側に、古傷のようなものが見える。
「ウォルターは、何者だ?」
ウォルターが右手を持ち上げて、フェルト帽に被せ、帽子を下ろした。
白髪交じりのオールバック。
敵意は感じないが、眼光は鋭い。
身近なところで喩えるなら、まるでオオカミ。
「私は、政治家だ」
「政治家? ルミナス・コアになんの用がある? 神様に答弁でもしにいくのか?」
ウォルターは、唇の右端をくいっと持ち上げて、笑みを作った。
「ッフフ。まぁ、そんなところだ」
自然な笑みだ。
ほんとにコイツは、何者だろう。
「君達の噂は聞いている。
カイルの件も、エルハムを捕まえた件もな。
素晴らしい手際だ。
その手腕を、今回は私のために発揮してほしい」
「ルミナス・コアになにをしにいく?」
「君の推測どおりだ。神様に会いにいくんだよ」
「会ってどうする?」
「友達になれるように、説得する」
ウソをついているようには見えないが、ウソだ。
真実も混ざっているのだろうが、ウソだ。
でも、オレなんかに、太刀打ちできそうな相手じゃない。
雰囲気は、どことなくアルクに似ているが、闇の深さはリノンに似ている。
ヴィルゴ王国の前女王のようなオーラ。
ウォルターは、ただ者ではない。
それだけは分かる。
だから、なんとなく悟った。
もう、オレ達に選択肢は無い。
引き受けるしかない。
知恵のエレメントが、ルミナス・コアに向かうという情報。
それも期限付き。
オレ達は、この密室でそれを知らされた。
それだけでも、異常なことだと思う。
知ってはいけない、知られてはいけない極秘の話。
もし断ったとして。
今日のことは、全て忘れろと言われるだろう。
それだけならいい。
このまま、カウント24が終わるまで。
あるいは、ウォルターがルミナス・コアに到達するまで。
監視されるかもしれない。
最悪、ここに監禁される可能性だってある。
だったら……
視線をウォルターから外し、ストームの顔を見る。
少しニヤけている。
こいつなりに、我慢しているのだろう。
ストームは、受けたがっている。行きたがっている。
今にも「行く」と言ってしまいそうだ。
視線をアーネストに戻した。
「少し時間をくれ」
「構わない。席を外そうか?」
「いいのか。なら、オレ達4人で、話をさせてくれ」
どうせ、聞き耳をたてられるのだろうが、気分の問題だ。
「ウォルター。いいか?」
「おぅ」
ウォルターが、長い脚を振り回しながら、椅子から立ち上がる。
アーネストが扉を開け、先にウォルターを通してから、2人は部屋から出て行った。
扉が閉まってから、オレは3人に言った。
「どうする。どうしたい」
先に答えたのは、ソフィアだ
「怪しいけど……まぁいいんじゃない?」
「ストームはどうだ?」
「んん。受けたい」
聞くだけ無駄だった。
「未希は?」
「みきは、おにいちゃんに任せるよ」
「今回も、期待されているのは、未希とリュウタ。それとルカの能力だ。負担は増えるぞ」
もしかして。
アーネストが、ルカを保護したのも、このためか。
「うん、大丈夫だよ」
「わかった。なら引き受けよう。それでいいんだな」
ダレも、うんとは言わない。
オレの言い方が悪かったな。
「報酬は、きっちりっ貰おう」
「フフフッ、そうね」
「ん、なに貰うの?」
「みんなに、10万ドルずつ、配ってもらうか」
「それは、賛成だわ」
「わたしはおカネいらない」
「みきもいらないよ、おカネは」
「なら私とソウジで山分けね」
「えぇ、別のものにしてもらって。4人で分けられるもの」
ストームが、真剣な表情でそう言った。
今のは、冗談なんだが。
その後、引き受けるにあたっての条件を、4人ですり合わせた。
ヘラジカの追加は無論、必要になる物資。人員や荷車の手配。
それと軍が持っている、ルミナス・ノードに関する情報。
話がまとったので、アーネスト達を呼び戻す。
扉を開けると、離れた場所で、煙をくゆらせていた。
アーネストは葉巻を指で挟み、ウォルターはパイプを咥えていた。
ふたりを部屋に呼び、オレ達の結論を告げた。
必要な物資は、全て軍で手配するとアーネストは言った。
それだけじゃなく、準備からチームの編成に至るまで、全面的なバックアップをすると約束した。
これで、懸念事項だった人員、物資、知識。
その全てを賄うことができる。
問題は、ウォルターという、油断できない男のオマケもついてくるということ。
こいつの目的は?
なにをしにルミナス・コアまで?
いいか。
そのうち、分かるだろう。
今は、道が開かれたという目先の利益。
それだけでいい。




