5.4.17
ずいぶん遅い時間まで、ソフィアと語り合っていた。
途中からは、なにを話していたのか。
記憶にもさして残らない、他愛もない話。
未希や、オレの少年時代の話を聞かれることもあった。
話しても構わないと思う範囲で、ソフィアに話した。
未希の小学生の頃の話をすると、ポロポロと涙をこぼしていた。
酒臭そうな、酔っ払いの涙だった。
すでに、ろれつも怪しかった。
ソフィアは持ってきた、スパークリングワインを、次々と飲みほした。
雑に作られたワインだ。アルコール度数は高い。
だから、ソフィアは酔った。
「あんたたちは、私が守るから……守るから……」
「だからなんだよ」
「私のこと……私のジミーを……たすけて」
ソフィアは寝てしまった。
最後は、ほとんど寝言だった。
ジミーって誰だ。
ソフィアの子供の名前だろうか。
オレからさんざん、過去の話を聞いておきながら、ソフィアはちっとも、自分のことを話さなかった。
聞こえるのは、ソフィアの寝息の音だけ。
静かになった会議室で、オレはコップを傾けた。
木のコップに残った、最後のワイン。
重くて、渋くて、薬のような炭酸のワイン。
それを飲みほしたところで、階段を降りる足音。
降りてきたのは、ストーム。
時間はまだ、夜中だと思う。
「あれ、まだ寝てないの?」
「なんだ、もう6時間経ったのか」
「ん。再ログインした。ソウジは、なにしてんの? ソフィアは? 寝てるの?」
「酔いつぶれてるよ。そのまま寝かせとけ」
「おにいちゃん。おはよ……よかったぁ、ここで逢えて」
階段から、未希も姿を見せた。
「おおげさだな」
「だって……おにいちゃん、どこにもいないんだもん」
「ここに、いるだろ」
どうやら、オレはまだ、行方不明のままらしい。
「お茶、淹れてくるね」
未希は、キッチンの方へと消えた。
オレは、ストームに視線を戻し、質問した。
「なにか、わかったのか?」
「総司のことは、なにも進展はないよ。ルシアとも連絡つかないし」
「それはどうでもいい。聞きたいのは創造神のほうだ。ノトウェンからなにか聞けたか?」
「ノトウェンは、役に立たなかった」
「何を聞きに行ったんだ」
「ゲームのロジック。デバグモードとかが存在する可能性。
ノトウェンもその辺、自分で研究したらしいけど、ログインデバイスの分解からして、困難だったらしい」
「分解したのかよ……」
「ん。完全に壊しちゃったみたい。残骸がまだあるらしいから、こんど見せてもらう」
分からん。
言ってることの意味も、その好奇心も。
オレには、さっぱり分からん。
「総司は寝なくていいの?」
「まぁ……いちおう寝るか。朝になったらま、噴水爺さんとこ行くのか?」
「どうしようかな……結局手掛かり無しだし」
「ああ、それとな。午後は、ソフィアの付き添いでアーネストのところへ行く」
「なにしに?」
「ヘラジカの確保だ。おまえも来るか」
「ん、アーネストって、今は本部にいるんだ? じゃあ、わたしも行こうかな。アーネストにも、創造神のこと聞いてみたいし」
「あいつにそんな質問して、大丈夫か。感づかれるかもしれないぞ」
「大丈夫じゃない?
わたしが好奇心旺盛なのは知ってるし、大学のコネを紹介してくれたのも、アーネストだしね。わたしが質問するぶんには、怪しまれたりしないよ」
「ならいいいが。あまり根掘り葉掘り、聞くなよ」
「わかってるよ」
「おまたせ」
未希が、お盆にカップを載せて戻った。
ソフィアは、いびきをかいて寝ているが、カップは4つある。
未希が、ソフィアの顔の脇にカップをコトンと置いたが、起きる気配は無い。
「未希も明日、アーネストに会いに行くか?」
「アーネストさん?
いいよ。他にすることもないし。お礼もしなきゃ」
「お礼? なんの?」
「ルカがね、狩られないようにって、みんなに通知してくれたんだよ。そうしないと、すぐハンターに狙われちゃうからって」
そうか。
気が利くんだな。
未希の入れてきたお茶に口をつける。
香りは、ハーブティーだが、ぬるい。
お湯ではなく、冷まし湯。
昨日の残り湯だな。これは。
なんだか。
平和だな。




