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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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398/421

5.4.17


 ずいぶん遅い時間まで、ソフィアと語り合っていた。


 途中からは、なにを話していたのか。

 記憶にもさして残らない、他愛もない話。


 未希や、オレの少年時代の話を聞かれることもあった。

 話しても構わないと思う範囲で、ソフィアに話した。


 未希の小学生の頃の話をすると、ポロポロと涙をこぼしていた。

 酒臭そうな、酔っ払いの涙だった。

 すでに、ろれつも怪しかった。


 ソフィアは持ってきた、スパークリングワインを、次々と飲みほした。

 雑に作られたワインだ。アルコール度数は高い。


 だから、ソフィアは酔った。


「あんたたちは、私が守るから……守るから……」

「だからなんだよ」

「私のこと……私のジミーを……たすけて」


 ソフィアは寝てしまった。

 最後は、ほとんど寝言だった。


 ジミーって誰だ。

 ソフィアの子供の名前だろうか。


 オレからさんざん、過去の話を聞いておきながら、ソフィアはちっとも、自分のことを話さなかった。


 聞こえるのは、ソフィアの寝息の音だけ。

 静かになった会議室で、オレはコップを傾けた。

 木のコップに残った、最後のワイン。


 重くて、渋くて、薬のような炭酸のワイン。


 それを飲みほしたところで、階段を降りる足音。


 降りてきたのは、ストーム。

 時間はまだ、夜中だと思う。


「あれ、まだ寝てないの?」

「なんだ、もう6時間経ったのか」

「ん。再ログインした。ソウジは、なにしてんの? ソフィアは? 寝てるの?」


「酔いつぶれてるよ。そのまま寝かせとけ」


「おにいちゃん。おはよ……よかったぁ、ここで逢えて」

 階段から、未希も姿を見せた。


「おおげさだな」


「だって……おにいちゃん、どこにもいないんだもん」

「ここに、いるだろ」


 どうやら、オレはまだ、行方不明のままらしい。


「お茶、淹れてくるね」

 未希は、キッチンの方へと消えた。


 オレは、ストームに視線を戻し、質問した。

「なにか、わかったのか?」

「総司のことは、なにも進展はないよ。ルシアとも連絡つかないし」


「それはどうでもいい。聞きたいのは創造神のほうだ。ノトウェンからなにか聞けたか?」



「ノトウェンは、役に立たなかった」


「何を聞きに行ったんだ」

「ゲームのロジック。デバグモードとかが存在する可能性。

 ノトウェンもその辺、自分で研究したらしいけど、ログインデバイスの分解からして、困難だったらしい」


「分解したのかよ……」

「ん。完全に壊しちゃったみたい。残骸がまだあるらしいから、こんど見せてもらう」


 分からん。

 言ってることの意味も、その好奇心も。

 オレには、さっぱり分からん。


「総司は寝なくていいの?」

「まぁ……いちおう寝るか。朝になったらま、噴水爺さんとこ行くのか?」


「どうしようかな……結局手掛かり無しだし」


「ああ、それとな。午後は、ソフィアの付き添いでアーネストのところへ行く」

「なにしに?」


「ヘラジカの確保だ。おまえも来るか」


「ん、アーネストって、今は本部にいるんだ? じゃあ、わたしも行こうかな。アーネストにも、創造神のこと聞いてみたいし」


「あいつにそんな質問して、大丈夫か。感づかれるかもしれないぞ」


「大丈夫じゃない?

 わたしが好奇心旺盛なのは知ってるし、大学のコネを紹介してくれたのも、アーネストだしね。わたしが質問するぶんには、怪しまれたりしないよ」


「ならいいいが。あまり根掘り葉掘り、聞くなよ」

「わかってるよ」



「おまたせ」

 未希が、お盆にカップを載せて戻った。

 ソフィアは、いびきをかいて寝ているが、カップは4つある。

 未希が、ソフィアの顔の脇にカップをコトンと置いたが、起きる気配は無い。


「未希も明日、アーネストに会いに行くか?」


「アーネストさん?

 いいよ。他にすることもないし。お礼もしなきゃ」


「お礼? なんの?」

「ルカがね、狩られないようにって、みんなに通知してくれたんだよ。そうしないと、すぐハンターに狙われちゃうからって」


 そうか。

 気が利くんだな。



 未希の入れてきたお茶に口をつける。


 香りは、ハーブティーだが、ぬるい。

 お湯ではなく、冷まし湯。

 昨日の残り湯だな。これは。



 なんだか。

 平和だな。




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