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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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5.4.16 - ソフィアと晩酌


 その夜。

 夕食を済ませてから、未希とストームはログアウトした。



 オレは、ソフィアの晩酌に付き合うことになった。


 どこから持ち込んだのか。

 シュワシュワと音をたてる、スパークリングワイン。


 サイダーは、何度か飲んだが、炭酸の入ったワインを飲むのは、ニフィル・ロードでは初めてかもしれない。


 レストランで呑むような、洗練されたワインではない。

 トゲのついた、ぬるいドライアイスを、口の中で転がしているような感覚。

 喉から食道までを鷲掴みにされるような、重厚感のある渋い液体が、発砲している。


 悪くはない。

 だが、悪酔いしそうな後味だった。

 舌を湿らせる程度にしておく。


 つまみは、ソフィアが調理したサラダ。

 タマゴやキュウリ、トマト。

 メモリアから集めてきたのであろう、様々な野菜。

 それと鶏肉が、角切りにされて皿に盛られている。


 コブサラダと言うらしい。

 この世界では、かなり贅沢なサラダだと思う。


 これがなかなかうまい。

 ソフィアが魔法で味を調えたドレッシング。

 酸味と苦味、それを結びつける植物性のオイルがバランスよく溶け合っている。

 サラダは半分以上、オレが喰った。


 オレが言うのもなんだが、ソフィアはいい女だと思う。

 料理もうまいし、未希やストームに対しても面倒見がいい。

 頭の回転も速いし、感情豊かで、社交的で、冷静だ。

 おまけに、魔法も卓越している。



「ソフィアは、家ではどうしてるんだ。子供がいるって言ってたよな」


 オレから見てもソフィアは、いい姉。いい母親だった。


「……まぁね。それ、聞くわよね」

「なんだ。聞かれたくないのか」


「この世界で、私に子供がいるって話をしちゃったのは、あなたたちだけよ」


「6歳……4歳だったか。

 こんな世界に入り浸ってていいのか、おまえは?」


「うちの子はね、病気なのよ。もうすぐ5歳」


「病気?」

「……ちょっと元気なくてね……ごめん。まだ話せないわ。話したくない」

「そうか。すまん」


「いいわよ。いつか話すわ。話さなきゃならないの。あなたたちにはね」


「そうか」


 なんだかわからないし、なにを隠しているのか知らないが。

 最後の最後まで、オレが気を許すことはない。


 家族のため。我が子のため。

 そのためなら、悪魔も狂気も受け入れる。

 それが、母親という生き物だと思う。

 それくらいは、オレでも知っている。



「他に話題ないの?」

「世間話は苦手だ。オレに、そういうのは期待するな」


「飲み友達としては、失格ね。女性にモテないわよ?」

「別にいいよ。好かれたくもない」


「ウッフフッ、知ってる。いいわよそれで。ソウジと呑むお酒も、嫌いじゃないわ。なんだか落ち着くし」


「そりゃよかったよ」

 オレは、独りがいいだが。


「ソウジは独りがいいんでしょ。でも、もう少し付き合ってよね」


「……」


 オレを見透かしたつもりになってるヤツ。

 そういうヤツが、オレは本当に苦手だ。

 逃げ出したくなる。


「ヘラジカの件はどうした。荷車を引く動物は見つけたのか」


「それがねぇ、なかなか見つからないのよ。飼育場の動物は、全部、軍に管理されちゃってるのよね」


「新しくメモリアから持ってきたりとかは?」


「100キロを超える動物を、抱えて持ってこれると思う?

 やれると思うなら、あなたが挑戦してみてよ」



 オレんとこで飼いならされているのは……

 500キロ以上ありそうな、馬車馬だけだな。


「ムリだな」


「だからね、明日、軍の本部に行ってみようと思ってるのよね」

「そこしか宛てがないのか」


「そうなのよ。軍から借りるとしたら、仕事もセットになるかも」


「仕事かよ。どうせ最後は、ぜんぶ裏切るんだろ。適当に誤魔化して借りてきたらいいんじゃないか」


「あんたねぇ。誰もがみんな、ソウジみたいに、無表情でウソをつけるわけじゃないのよ」


 おまえがそれを言うのか。



「ねぇ、明日の夕方でいいから、ソウジも一緒に来てよ。

 ヘラジカを借りる交渉は、ソウジがやってちょうだい。

 得意でしょ? そういうの」



「オレをなんだと思ってるんだ」


「適材適所でしょ。得意なことを、得意な人に任せるだけ。

 400キロの馬をメモリアから抱えてくるよりも、その方が確実だわ」



 適材適所ね。

 もしかして、笑うところか?

 軍を誤魔化すなんて、得意なわけないだろ。

 やったことねーし、思いついてもやらねーよ。


「そんなのイヤだよ、オレだって」


「じゃあ、なに、私やミキにやらせるの? いいの?」


 ……



「……わかったよ。一緒に行くよ」


 ああ、また流される。

 やっぱり、見透かされている。

 操られている。


 ソフィアにすら、いいようにやられてしまう。



「フフッ。ありがと。おにいちゃん」


 やはりコイツは、油断できない。




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