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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
シェイプシフトデバイス
396/434

5.4.15


 なんでもいいから、質問をしろと。

 ストームが言った。


 聞きたいことは、いくつかある。


 まず、ひとつめ。


「創造神ってなんだ?」

「開発者? かな?」

「おまえは、なにか知ってるのか。開発者について」

「なにもしらない。今日、初めて聞いた」


「爺さんの話では、カウント1にログインして、過去にログアウトしたと言っていた。そんなこと、可能なのか」


「現代の科学じゃ不可能だね。でも……」

「うん?」


「理屈は通ってる。ニフィル・ロードの疑問が、ひとつ解ける」

「なんだ?」


「MMOゲームとしての初期プレイヤー」

「えむえむおー?」


「最初のデバイスが、どうやって出現したのか。

 ログインデバイスは、どう見ても未来の産物。

 そんな超科学のアーティファクトが、中世の14世紀に発生した理由」


「開発者の過去のログアウトで、その理由につながるのか」


「うん」


「その辺の詳しいことは、誰も知らなかったと思う。

 資料として残っているものは、カウント1から6までは、ずっと同じエレメントが勝利したらしいってことだけ」


「いまの正義3連覇みたいなやつか」


「うん。エレメント勝利ルート、しかも連覇なら、ログインデバイスが爆発的に増える。ニフィル・ロードのプレイヤー人口も、最初の段階で膨れ上がったと思う」


「いきなり全崩壊はしなかったんだな」


「その時代のヨーロッパの宗教観を考えれば、それもうなずけるよ。

 これは、研究所の仮説だけど、最初の頃はおそらく宗教戦争が、ニフィル・ロードで繰り広げられていたんじゃないかって」



「カウント1のプレイヤーは、何人くらいだったんだ?」

「研究所の資料では、1008人まで確認されてる」

「中途半端だな」


「だよね。研究所でも、似たようなこと言われてる。

 わたしの新しい推測だけど……開発者が配ったエスコートデバイスは、たぶん1000台」


「なら、あと8人は?」


「創造神が1人。残りの7人はおそらく……

 シェイプシフトデバイスで未来からログインしたプレイヤーじゃないかな。

 噴水おじさんも、そのうちの1人」


「物好きな連中だな。なんで、わざわざそんな時代に」


 好き好んで、1000人しかいないニフィル・ロードに行きたがる理由。

 オレには、さっぱり分からないし、共感もできない。


「決まってるじゃん。アニメで言ったら、最初の1話だよ。わたしもログインしてみたいよ」


 分からん……


「創造神に合うとしたら、カウント1しかないんだよな?」


「ん。シェイプシフトデバイスを手に入れるしかない」

「手に入れるには、爺さんの情報が必要なんだろ?」

「噴水おじさんに喋ってもらうには、創造神を連れてこなきゃいけない」


「どうやって連れてくるんだ」

「それを……今、考えてる」


 ストームが、考え込んでしまった。

 家の中は静かだ。

 音がしない。


 次の質問しよう。


「ストーム」

「うん?」


「ゴーズオン・リグレッド……だったか。どういう意味だ?」


「論文のタイトルだけど、わたしの造語。意味はね…」


 ――変わることの無い、未来と過去の繋がり

 ――人生とは、定められた後悔の道


「なんだか、哲学的だな……」


「過去に干渉できる世界なのに、未来も過去も変えることができない。わざと、それができないように、制限をかけているようなところもあるけどね」


「制限?」


「同じカウントにログインできないとか。自分の寿命を超えた時代のカウントには、ログインできないとかさ」


 うん。わからん。


「わたしや総司が、ログインできるのは……

 それまで生きていられればだけど、あと60年か70年先まで。

 カウント28か、29くらいまでじゃないかな。

 カウント29のリリースは、西暦2075年だからね。そこが限界」



 まぁ、寿命じゃしょうがない。


「そこまで、続いてるのか? ニフィル・ロードは?」


「さぁね。もっとうんと未来からログインするプレイヤーに会えれば、分かるかもしれないけど」


「そうか。過去にはログインできるんだもんな」

「ん、そう。そのカウントにログインできるデバイスさえあれば」


「で、次のカウントに入るには、そこまで生きてなきゃならない?」


「未来からログインしてきた子孫から、話を聞いたり、言葉を伝えることはできるけどね。未来を見たり、物理的に干渉することはできないね」


「創造神は、いつの時代から来たんだ」

「わかんないよ。開発者だとしたら、うんと先の未来だと思うけど」


「同じカウントにログインできないのは、なぜだ」

「それはたぶん、都合? 自分がふたりいたら、やりにくいでしょ?」

「それもそうだな。ケンカになりそうだ」


「いや……違うかも……むしろ、システムの都合?」

「うん?」


「本当は、もっといろいろ組み込みたかったけど、バグが多くなるから入れなかった。ゲーム開発では……よく……ある……」


「また、ゲームかよ」


 まずはその、ゲームっていう発想から切り離したらいいんじゃないのか?

 って、ストームが、机に視線を落としたまま、喋らなくなった。


「ストーム?」


 反応しない。

 深く考え事でもしているんだろう。


 なにか、閃いたのか。

 なら、もういいだろう。

 ほっとこう。



 ガタンと、ドアの開く音。


「ただいまー」

 未希の声。

 その後ろにはソフィア。


 ドアの向こうの景色が、夕暮れの色に染まり始めている。


 また、ガタンと音。

 ストームが勢いよく立ち上がった。

 ふたりの出迎えかと思ったが、視線はテーブルに落としたままだった。


「ゲーム……デバグ……開発、テストモード」


 ストームは、左手を叩き、ログインデバイスを出現させた。


「どうした? ストーム?」


 未希とソフィアも、テーブルに歩み寄って来る。

「はぁ、お腹すいたわ。ミキ、ご飯つくりましょう」

「うん。おにいちゃん、モモとメロン買ってきたよ」

「ああ。そうか。美味しそうだな」

「ねぇ見てソウジ。スパークリングワイン。やっと炭酸が飲めるわよ」


 ソフィアの両手には、ワインボトル。

 未希は果物を積んだカゴを提げている。


 おまえら、何しに出かけてきたんだ。


 呑気な会話の横で、ストームは、ログインデバイスを眺めていた。


「ごめん、ログアウトしたい」


「え?」

「えーっ」


 台所に向かおうとしていた、未希とソフィアが立ち止まり、困り顔を向ける。

 ストームは、下を向いたまま、言葉を続けた。


「ノトウェンに聞きたいことができた」

「研究所にもいるだろ。明日じゃダメなのか」


「ちがう。用があるのは、学生のノトウェンじゃなくて、現実世界の62歳のほう」


 ソフィアが言った。

「もう。せめて、ご飯食べてからにしなさい」


 どこの母親だ、おまえは。


「うん……そうだね。急いでもしょうがないね」



 以外と聞き分けがいいな。

 




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