5.4.15
なんでもいいから、質問をしろと。
ストームが言った。
聞きたいことは、いくつかある。
まず、ひとつめ。
「創造神ってなんだ?」
「開発者? かな?」
「おまえは、なにか知ってるのか。開発者について」
「なにもしらない。今日、初めて聞いた」
「爺さんの話では、カウント1にログインして、過去にログアウトしたと言っていた。そんなこと、可能なのか」
「現代の科学じゃ不可能だね。でも……」
「うん?」
「理屈は通ってる。ニフィル・ロードの疑問が、ひとつ解ける」
「なんだ?」
「MMOゲームとしての初期プレイヤー」
「えむえむおー?」
「最初のデバイスが、どうやって出現したのか。
ログインデバイスは、どう見ても未来の産物。
そんな超科学のアーティファクトが、中世の14世紀に発生した理由」
「開発者の過去のログアウトで、その理由につながるのか」
「うん」
「その辺の詳しいことは、誰も知らなかったと思う。
資料として残っているものは、カウント1から6までは、ずっと同じエレメントが勝利したらしいってことだけ」
「いまの正義3連覇みたいなやつか」
「うん。エレメント勝利ルート、しかも連覇なら、ログインデバイスが爆発的に増える。ニフィル・ロードのプレイヤー人口も、最初の段階で膨れ上がったと思う」
「いきなり全崩壊はしなかったんだな」
「その時代のヨーロッパの宗教観を考えれば、それもうなずけるよ。
これは、研究所の仮説だけど、最初の頃はおそらく宗教戦争が、ニフィル・ロードで繰り広げられていたんじゃないかって」
「カウント1のプレイヤーは、何人くらいだったんだ?」
「研究所の資料では、1008人まで確認されてる」
「中途半端だな」
「だよね。研究所でも、似たようなこと言われてる。
わたしの新しい推測だけど……開発者が配ったエスコートデバイスは、たぶん1000台」
「なら、あと8人は?」
「創造神が1人。残りの7人はおそらく……
シェイプシフトデバイスで未来からログインしたプレイヤーじゃないかな。
噴水おじさんも、そのうちの1人」
「物好きな連中だな。なんで、わざわざそんな時代に」
好き好んで、1000人しかいないニフィル・ロードに行きたがる理由。
オレには、さっぱり分からないし、共感もできない。
「決まってるじゃん。アニメで言ったら、最初の1話だよ。わたしもログインしてみたいよ」
分からん……
「創造神に合うとしたら、カウント1しかないんだよな?」
「ん。シェイプシフトデバイスを手に入れるしかない」
「手に入れるには、爺さんの情報が必要なんだろ?」
「噴水おじさんに喋ってもらうには、創造神を連れてこなきゃいけない」
「どうやって連れてくるんだ」
「それを……今、考えてる」
ストームが、考え込んでしまった。
家の中は静かだ。
音がしない。
次の質問しよう。
「ストーム」
「うん?」
「ゴーズオン・リグレッド……だったか。どういう意味だ?」
「論文のタイトルだけど、わたしの造語。意味はね…」
――変わることの無い、未来と過去の繋がり
――人生とは、定められた後悔の道
「なんだか、哲学的だな……」
「過去に干渉できる世界なのに、未来も過去も変えることができない。わざと、それができないように、制限をかけているようなところもあるけどね」
「制限?」
「同じカウントにログインできないとか。自分の寿命を超えた時代のカウントには、ログインできないとかさ」
うん。わからん。
「わたしや総司が、ログインできるのは……
それまで生きていられればだけど、あと60年か70年先まで。
カウント28か、29くらいまでじゃないかな。
カウント29のリリースは、西暦2075年だからね。そこが限界」
まぁ、寿命じゃしょうがない。
「そこまで、続いてるのか? ニフィル・ロードは?」
「さぁね。もっとうんと未来からログインするプレイヤーに会えれば、分かるかもしれないけど」
「そうか。過去にはログインできるんだもんな」
「ん、そう。そのカウントにログインできるデバイスさえあれば」
「で、次のカウントに入るには、そこまで生きてなきゃならない?」
「未来からログインしてきた子孫から、話を聞いたり、言葉を伝えることはできるけどね。未来を見たり、物理的に干渉することはできないね」
「創造神は、いつの時代から来たんだ」
「わかんないよ。開発者だとしたら、うんと先の未来だと思うけど」
「同じカウントにログインできないのは、なぜだ」
「それはたぶん、都合? 自分がふたりいたら、やりにくいでしょ?」
「それもそうだな。ケンカになりそうだ」
「いや……違うかも……むしろ、システムの都合?」
「うん?」
「本当は、もっといろいろ組み込みたかったけど、バグが多くなるから入れなかった。ゲーム開発では……よく……ある……」
「また、ゲームかよ」
まずはその、ゲームっていう発想から切り離したらいいんじゃないのか?
って、ストームが、机に視線を落としたまま、喋らなくなった。
「ストーム?」
反応しない。
深く考え事でもしているんだろう。
なにか、閃いたのか。
なら、もういいだろう。
ほっとこう。
ガタンと、ドアの開く音。
「ただいまー」
未希の声。
その後ろにはソフィア。
ドアの向こうの景色が、夕暮れの色に染まり始めている。
また、ガタンと音。
ストームが勢いよく立ち上がった。
ふたりの出迎えかと思ったが、視線はテーブルに落としたままだった。
「ゲーム……デバグ……開発、テストモード」
ストームは、左手を叩き、ログインデバイスを出現させた。
「どうした? ストーム?」
未希とソフィアも、テーブルに歩み寄って来る。
「はぁ、お腹すいたわ。ミキ、ご飯つくりましょう」
「うん。おにいちゃん、モモとメロン買ってきたよ」
「ああ。そうか。美味しそうだな」
「ねぇ見てソウジ。スパークリングワイン。やっと炭酸が飲めるわよ」
ソフィアの両手には、ワインボトル。
未希は果物を積んだカゴを提げている。
おまえら、何しに出かけてきたんだ。
呑気な会話の横で、ストームは、ログインデバイスを眺めていた。
「ごめん、ログアウトしたい」
「え?」
「えーっ」
台所に向かおうとしていた、未希とソフィアが立ち止まり、困り顔を向ける。
ストームは、下を向いたまま、言葉を続けた。
「ノトウェンに聞きたいことができた」
「研究所にもいるだろ。明日じゃダメなのか」
「ちがう。用があるのは、学生のノトウェンじゃなくて、現実世界の62歳のほう」
ソフィアが言った。
「もう。せめて、ご飯食べてからにしなさい」
どこの母親だ、おまえは。
「うん……そうだね。急いでもしょうがないね」
以外と聞き分けがいいな。




