5.4.14
ストームの家に戻った。
未希とソフィアは、まだ戻っていない。
1階の長テーブルに離れて座り、噴水おじさんとの会話を振り返る。
「爺さんは、オレの名前を知っていた。お前たちが教えたのか?」
「みきさんは分からないけど、わたしは、教えてないと思うよ?」
「オレも教えた記憶はない」
「総司も会うんじゃないの? 未来で。この世界の過去で。噴水おじさんが覚えていたのは、そのときの記憶の断片」
「ストームは名前を知られていなかった。名乗ってないのか? あの爺さんに?」
「名乗ったよ。ストームって。たぶん2~3回。でも、忘れてるみたい」
「それは最近の話だよな? それも忘れたのか」
「これは、仮定。推測だけど……
忘れたのは、もっと昔。
噴水おじさんにとっては、何百年も前の記憶。
わたしの顔があっても、名前が思い出せない。
抜け落ちた記憶が邪魔をしているのかな。
わたしが何度、ストームだと名乗っても、わたしの顔を見て思い出すのは、名前を思い出せないという記憶」
なんだそれは。
「やっぱり、ボケ老人か」
「そうだね。はたから見ると、そうだよね」
「カウント1から23まで、どれだけの記憶を詰め込んだんだ。あの爺さんは」
「平均4年としても……
ニフィル・ロードで過ごした時間は92年。
圧縮された記憶は、9200年分」
「……それは壊れるかもな」
「壊したのは、もしかしたら、わたし……かも」
「なんで。なぜだ?」
「あそこで、待ってろって言ったのが、未来のわたしだったのなら、噴水おじさんの記憶をめちゃくちゃにしたのは、わたし……」
ストームが、思い出したように、肩を震わせた。
そこまで、自分を責める必要があるのか。
なにをそんなに悲しむのか。
顔を落とし、すすり泣く声。
「ゴメンね。ゴメン……」
違う。
それは違う。
「違うぞ、ストーム。それは違う」
「だって……」
「断片的な、推測だけですべてを決めつけるな」
「……でも……」
「まだ、なにも決まっていない。
分からないことだらけだ。
もっと、大きな理由。
もっと大きな目的のため。いや違うな……
おまえは、たぶん、事象に従っただけだ」
オレを見つめるストーム。
オレはそのまま、話しを続けた。
「未来も過去も変わらない世界で、賢くて慎重なおまえが、そんなくだらないミスをするはずがない。
おまえが、なにかを壊したわけじゃない。
おまえは、すべて計算済み。
今はまだ、おまえが用意した、計算式の途中なのだろう。
その先にあるのは、思いもつかない答え。
だれもが納得する、フィナーレが待っているはずだ」
「フィナーレ……?」
結末は、まだ、ずっと先にあるんだろう。
そんな気がする。
それでも今日。
予言の断片を、オレ達は確かに聞いた。
ボケ老人の妄想かもしれない。
それでも、ストームの背中を押すには、充分な言葉。
「あの爺さんが言ってただろ。
爺さんの記憶の断片。
ストーム……まゆの未来は、豊で、輝いている」
頭がいいといっても、コイツは孤独で、オタクで、引きこもりで。
しかも無口で、生きることをあきらめかけた、いじめられっ子。
なら支えてやる。
それくらいなら、オレでもできる。
それしかできない。
ストームが顔を上げた。
涙を払い落しながら、仄かな笑顔を浮かべた。
「そうだね……そうだよね。
だとしたら、総司がいっしょにいて、励ましてくれることも。
未来の私は、計算済み。
今はまだ、その長い計算の途中。
答えは、どんなだろうね」
「今は、身近にある問題を解け。最初になにをするんだ」
「うん……創造神を連れてくる」
「オレに、できることはあるか?」
「わたしの、話し相手」
「は?」
「総司ってさ、質問上手だよね」
「え?」
「総司と最初に会ったときもそうだった。
死にたいと思った雨の日も。
進む先が分からなくなったときも。
それと、今日も。
分からないことは、ぜんぶ総司が質問して、いつのまにか答えがでてる」
また、わけのわからないことを。
それは、オレじゃなくて、おまえの能力だろ。
「分かったよ。オレから質問するから。それに答えくれ。いいか?」
ストームが、こくりと頷く。
そのあと、ニコッと、また笑顔を作った。
またコレか。
さて、どこから始めようか。




