5.4.11 - 言葉の奴隷
翌朝。
未希とソフィアは、朝の早い時間から、出かけて行った。
オレとストームだけ、まだ残っていた。
噴水おじさんに会う前に、言っておきたいことがあるという。
つまり、あれだろう。
未希には聞かせたくない話。
ストームが話始めた。
「カウント24は、1950年。つまり、わたし達の時代では、このカウントの結末はもう決まっていて、それを知っている人間が存在するんだよね」
「まぁ……そうだろうな。噴水おじさんは、それを知ってるのか」
「分からない。っていうか、知っていても、誰も教えてくれないと思う」
「なぜ?」
「言わなければ問題は起きないから。
前にさ、競馬の話をしたの覚えてる?」
「たしか……当たり馬券の番号を知ってる人物が、過去から来ている人物に教えれば、簡単に稼げる。そんな話だったか」
「ニフィル・ロードの絶対のルールは、過去も未来も変わらない。言おうが、言うまいが、その人物に降りかかる出来事は、なにも変わらない」
「だったら、教えてもいいんじゃないか?」
「それってさ、すごく怖いことだと思わない?」
「なぜ?」
「わたしは、何月何日に、総司に会った。そう聞かされたら、どうなる?」
「それが、本当なら、そうなるんだろう?」
「この世界での未来の言葉は、予言なんかじゃない。
本当に起きること。起こさせること。
言ったら最後。逃れることのできない呪縛になる。
生まれる必要のなかった、蝶が生まれる。
未来を知ることに、幸福なことなんてないよ。
知ることは呪い。そうとしか思えない」
呪い……
分からない。
大げさな話にしか聞こえない。
「でもそのおかげで、オレ達はソフィアに出会ったんだろ?」
「そうだけど……」
なにが言いたいんだ?
ストームは?
「ストーム」
「んん……」
「おまえはもう、知っているのか? カウント24の結末を?」
ストームが顔を伏せた。
間が空いた。
そんなに長い時間じゃない。
それでも、会話の途中の沈黙にしては、やけに長い。
普段から無口なオレとストームじゃなきゃ、耐えられないかもしれない長い時間。
ストームが顔を上げた。
「……実は、ちょっと知ってる」
「全部話せ」
「んん……」
たぶん、コイツが、クリアを急ぐ理由。
そうだろ?
前にもこんなことがあった。
未希の救出に失敗するかもしれないから。
そう言って、肝心なことを伏せていた。
ストームが、ウソをついたことは、覚えている限り、いちどもない。
その代わり、不必要なことを言わない。
だが、聞けば答える。
それが、必要なことなら、コイツは話す。
「カウント24は、全崩壊でクリアされる……らしい……」
らしい……か。
「それは誰だ?」
「誰がクリアしたのかは、不明。
カウント24は、誰も知らないところで突然、世界が崩壊したらしい」
「不明って、どういうことだ?」
「わたしが話すのは、ノトウェンから聞いたことだよ?
本当かどうかは分からないよ?」
「構わないよ」
「軍も研究所も、カウント24のクリア者が誰なのか。
それは、わたし達の時代でも、わたし達の未来でも、誰も知らないんだって」
また、間が空く。
こんどは、オレが質問するのを待っている。
「オレ達である可能性は?」
「少なくとも……ゼロじゃない。でも違うかもしれない」
「急ぐ理由はそれか」
「んん……」
「でも、未来はもう決まっていて、なにも変わらないんだろ?」
「うん……」
「なら急ぐ必要あるのか?」
「うん……無い……かも」
なるほどな。
未来を知っても、ロクなことにならないって、こういうことか。
自分の足で歩いているようで、ダレかの言葉に振り回されている。
自分の人生なのに、まるでダレかの言葉の奴隷。
「ストーム」
「ん」
「行くか、噴水おじさんとこ」
「うん」
明日終わろうが、来年まで続こうが、どうでもいい。
考えるのも、めんどくさい。
オレは元々、流されっぱなしの人生だ。
なにも変わらない。
流され、巻き込まれるだけの未来。
それでいい。
もうオレは、あきらめている。
まずは、1分先の景色。
それが続く限り、順番に見に行こう。




