5.4.09 - 成功条件
キャンプ場に辿り着く前に、日が暮れた。
最近は、ルミナス・ノードに入り浸るおかげで、夜道を歩くのにも慣れていた。
歩いているのは、噴水広場までの安全な街道。
尚更問題は無い。
なにかあれば、リュウタが駆けつけて、未希が教えてくれるだろう。
オレ達は、焚火で夜道を照らして、歩くだけでよかった。
辿り着いたキャンプ場では、すでに幾らかの旅人が焚火を灯していた。
オレ達も焚火を囲む。
それから、果物とパンだけの簡単な食事。
その後、ソフィアも交えて、今後の予定を共有した。
ルミナス・コアに関する情報を集めること。
確度の高いスケジュールを組むこと。
可能なら必要な人員を集めること。
無論、遠回しな言葉で。
ニフィル・ロードで、現実世界のバカンスの計画を立てるように。
「でも、そんなに慌てる必要あるの?」
ソフィアの最初の疑問。
「わたしたちの計画は、普通の旅行じゃない。待っていても、他に出し抜かれるか、最悪、別の誰かに先を越される」
「先を越されるって、他のルートとか?」
「それもあるけど……
同じ目的の人物が、他にいないはずがない。わたしたちが、いちばん最初に辿り着けば、だれかに邪魔されることもない」
「同じ目的……そうね、どこかにいるでしょうね……」
なんだ。
引っかかる。
オレがソフィアに向けている疑惑。
……まさかな。
まぁいい。
ソフィアがオレ達を利用しているのだとしても、オレ達も、同じように、ソフィアを利用する。
それだけのこと。
善意が前提の計画はストームが立てればいい。
オレは、陰謀と裏切りに備える。
それも、いつものこと。
「それで、まずはなにをするんだ?」
「情報収集。地図の延長。方角の特定。
可能なら、あと数人、仲間が欲しい。
その上で、必要なものを揃えて、確実なプランを組み上げる。
組みあがったら、最後の旅に出発する」
「仲間か。それは難しいな」
「ログインデバイスを海外オークションで買って、増やすとか」
「買えるのかよ……あれ……」
「うん。買える。500万円くらい」
「ちょっ、誰が出すのよ、そんなお金……」
「え? そのくらいなら出せるよ?」
「は……?」
「ソフィア。そいつのカネの感覚は、聞き流せ」
「え、ええ……その方がよさそうね……」
「オレには、誘えるような友達は、いないぞ」
「みきにも、いないなぁ……」
「ん……わたしもいない」
「あなたたち……お金よりも大切なモノって知ってる?」
「ねぇ。ルシアさんは?」
「ん、ルシアさんなら誘ったらOKしてくれそう」
「だれ? それ?」
「いや……あいつはダメだ」
「なんで?」
「とにかく、ダメだ」
「なになに? ルシアって、ソウジの彼女?」
「違うし、その名前は忘れろ。ここに誘うのはダメだ」
「じゃさ、ミラーはどう? たぶん手伝ってくれるわよ?」
ソフィアが、飲み友達を紹介するように言った。
「あいつは、軍属だろ?」
「あら、違うわよ。アーネストの部下みたいに見えるけど、彼は退役軍人で、今は趣味で参加してるんだって。だから給料は貰ってないわ」
「そうだったのか」
「ん、ミラーは候補だね。荷物にお酒が増えるけど。
それとハンスとフィリス。あの二人も、わたしと同じような研究目的だから、好奇心を揺さぶれば、話に乗ってくれるかも」
「戦闘できない2人が、役に立つのかよ」
「フィリスはともかく、地図無しの旅に、ハンスの地形学と測量工学があるのは心強いよ。
急がば回れって言うじゃん。ハンスがいれば、回る近道を科学的に推測できるから」
「なるほど。船の測量士みたいな存在か」
「それにさ。
リュウタの五感。ルカの眺望。
わたしたちには、困難な旅に挑戦できる条件が揃ってる。あとは情報と計画と準備。これが揃えば、成功率はかなり高い……と思う」
「なんだか、うまくいきそうな気がしてくるわね」
どうだかな……
そういう時こそ、最悪しか思い浮かばない。
翌日。
かなりのハイペースで、噴水広場を目指した。
荷物は、すべてヘラジカのルルが背負っている。
オレ達は、ただ、道沿いを歩くだけだ。
そして、陽が沈み始めた頃。
歩いていると、遠くから、1羽の渡り鳥の姿。
ピュウピュウという、鳴き声でわかった。
雁のルカだ。
未希を迎えに来たのか。
「どれだけ遠くから、未希を見分けるんだ、ルカは」
「みきの姿なら、10キロくらい先の空からでも、わかるみたいだよ」
「10キロ? すごいな……」
「あ、リュウタの姿も見つけたみたい。でも、みきたちからずいぶん離れてるなぁ」
ルカの持つ、10キロ四方の視力。
リュウタの持つ、同じく10キロ四方の聴覚と嗅覚。
そして、オレ達人間の頭脳。
ストームの言う、困難な旅を乗り越える条件。
確かに、これなら。
どんな旅でもどうにかなりそうな気がする。




