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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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389/448

5.4.08


 無表情のストームが言った。

「さすがに6カ月は……無理だと思う、けど」


「けど、なんだ」


「早く終わらせるのには賛成。なにより、いままでノリ気じゃなかった総司がやる気出したのは嬉しい」


「ええっ、おにいちゃん、やる気なかったの?」

「……」



「とにかく……本格的に計画を立てたいんだけど。

 でもここじゃ話せないから、いちど噴水広場まで戻らない?」



「おまえの家で計画を練るのか」

「そう。それと、経験者に話を聞く」


「経験者? って、誰だ?」

「ああっ、わかった! 噴水おじさんだ」


「そう。あのおじさん、ほかのカウントのことは、なにも話してくれないみたいだけど……どうにかして聞き出す」


「そうか。あの爺さん、クリア経験者だったか」


「前にも言ったかもだけど、噴水おじさんは、カウント17を全崩壊でクリアしたプレイヤー。過去に3人しか存在しない大罪人のひとり」


「大罪人……ってなんだっけ」


 ストームのめんどくさそうな顔。


 ストームが、声のトーンを落とした。

「……ここで、この話はヤメ。続きは、噴水広場のわたしの家で話そ。誰かに聞かれたくない」


「うん」


「そういやソフィアはどうした」

「まだ宿屋で寝てたよ」


 もう昼だぞ。

 牧場娘のくせに、こんな時間まで寝てるのか。


「ねぇ、総司」

「なんだ」

「総司がログアウトできないことは、ソフィアに話す?」


 それは、オレの弱みにしかならない。


「話さないでくれ」

「んん。分かった。みきさんも、総司の件はソフィアには内緒ね」


「えーっ、もうっ! どうしてすぐ疑うの」

「時期が来たらオレから話す。それまでは黙っていてくれ」

「……うん、わかった」


「そういや未希、おまえ、カイルからもらった剣はどうした」


 未希は、カイルの愛刀だったバックソードを譲り受けていた。

 しかし、あれ以来、未希が剣を腰に吊っているのを見ていない。


「おうちに置いてあるよ」

「おうちって、噴水広場のか? 手入れしないと錆びるぞ」

「え……そうなの? 1ヶ月くらい大丈夫でしょ? 持ち歩いたら汚れちゃうし」


「汚れるっておまえ、剣は持ち歩くものだろ。それに、油が乾いたら、あっという間に錆びる」

「ええ……錆びてたらどうしよう」


「じゃあ、ソフィア起こしてすぐ出発ね」

「今からか? もう昼だぞ」

「いちばん近いキャンプ場までは行けるでしょ」


 最初の頃は、体力不足で、半日でバテたクセに。

 今ではストームも、すっかり旅慣れていた。


「じゃあ、みきが、ソフィア起こしてくるね」

「あ、まって。ソフィアはわたしが起こしてくるから、みきさんと総司は、ルルの旅支度して。30分で西のゲートに集合」


 ストームの隊長っぷりも板についてきた。





 そして、およそ30分後。

 ヘラジカのルルに2日分の食糧を積み込み、西のゲートに集合した。

 ルルは、また少し大きくなっている。

 そろそろ、未希を乗せて走るくらいなら、できるかもしれない。



 旅のメンバーは、ソフィアを加えた4人。

 男がオレだけだ。


「夕方までにキャンプ場まで行かなきゃだから、急ごう」



 ストームの声掛けで、オレ達はアッシュバレルを発った。

 目指すは南西、噴水広場の街。



 かつては、オオカミが潜む森を抜ける危険な旅だった。

 街道が整備された今では、安全な行程だ。

 明かりさえあれば、夜道でも危険は無い。


 行き交うプレイヤーも多く、日中であれば、どこかしらに人影も見える。


 リュウタの姿は見えないが、近くにいるらしい。

 あまり古巣の森には、近づきたくないようだと、未希が説明した。


 それと、もう1匹の所在を未希に尋ねた。

「渡り鳥のルカはどうしたんだ」

「みきのおうちの近くの池にいるよ。寂しがってるだろうから、早く帰ってあげなきゃ」


 ああ……あの池か。

 あの池には魚はいないが、雁は草食だ。

 水草だけの池なら、天敵が寄り付くことも無いし、安全なのだろう。



「で、ソフィアは、どうしたんだ」

 ソフィアは、呆けたように地面を見続けながら歩いていた。

 さっきから、喋ることも、ほとんど無い。


 この質問にも、未希が答えた。

「明け方近くまで、ミラーさんとかと呑んでたんだって」


「ああ、そういう……おまえら、すっかり呑み友達だな」

 ソフィアは、顔を上げずに答えた。

「お昼まで寝ていられる時間ができて助かったわ……」


「得意の微粒子魔法で、二日酔いは消せないのか」

「この状態で魔法使ったら、なにが起きるか分からないわ」

「そんなんで、大丈夫なのかよ。キャンプ場まで辿り着けるのか」


「歩けなくなったら、総司が負ぶってあげて」

「おい、なんでオレが」


「大丈夫よ、私軽いから。だからいますぐ負ぶって」


 いや……

 どう見ても、未希やストームの倍はあるだろ。


「早く、馬車が欲しいな」


 先頭を歩くストームが、振り返らずに言った。


「それも、軍の本部に聞いてみようと思う。

 ヘラジカをあと2~3頭増やして、馬車を手配したい。人が乗れなくても、荷物の運搬で、長旅には絶対に必要になる」


「長旅か」

「ん。ルミナス・コアの中心まで、推定600キロ。食糧が補給できない世界を1カ月くらい旅することになる」


「そうか……そうだな」


「交代で再ログインすれば、プレイヤーの生存は維持できるけど……」


 オレはログアウトできない。

 1カ月分の食料が必要……ということか。


「なるほどな。たしかに、計画が必要だな」

「ん、そういうこと」


 ストームは、先のことを、よく考えてくれている。

 現実世界では、引きこもりのオタク女子高生なのに。


「おまえは、頼りになるな。これからも頼むよストーム」


「な、ぜ、ぜんぶ、ゲームで得た経験則だよ……っ」

 ストームが詰まりながら、早口で答えた。

 なにを焦っているんだろう。

 この世界でもフードを被っているので、後ろからでは表情も見えなかった。

 それでも少し、背筋が伸びたように見えなくもない。


「ねぇ……ちょっと、歩くの速くなってない?」

 ソフィアがついてこれない。

 旅のペースもあがった。



 計画の土台にあるのは、ストームがゲームで培ったもの。

 そうだったな。

 それに頼ろうとしている。



 オレは、また少し。


 不安になった。



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