5.4.08
無表情のストームが言った。
「さすがに6カ月は……無理だと思う、けど」
「けど、なんだ」
「早く終わらせるのには賛成。なにより、いままでノリ気じゃなかった総司がやる気出したのは嬉しい」
「ええっ、おにいちゃん、やる気なかったの?」
「……」
「とにかく……本格的に計画を立てたいんだけど。
でもここじゃ話せないから、いちど噴水広場まで戻らない?」
「おまえの家で計画を練るのか」
「そう。それと、経験者に話を聞く」
「経験者? って、誰だ?」
「ああっ、わかった! 噴水おじさんだ」
「そう。あのおじさん、ほかのカウントのことは、なにも話してくれないみたいだけど……どうにかして聞き出す」
「そうか。あの爺さん、クリア経験者だったか」
「前にも言ったかもだけど、噴水おじさんは、カウント17を全崩壊でクリアしたプレイヤー。過去に3人しか存在しない大罪人のひとり」
「大罪人……ってなんだっけ」
ストームのめんどくさそうな顔。
ストームが、声のトーンを落とした。
「……ここで、この話はヤメ。続きは、噴水広場のわたしの家で話そ。誰かに聞かれたくない」
「うん」
「そういやソフィアはどうした」
「まだ宿屋で寝てたよ」
もう昼だぞ。
牧場娘のくせに、こんな時間まで寝てるのか。
「ねぇ、総司」
「なんだ」
「総司がログアウトできないことは、ソフィアに話す?」
それは、オレの弱みにしかならない。
「話さないでくれ」
「んん。分かった。みきさんも、総司の件はソフィアには内緒ね」
「えーっ、もうっ! どうしてすぐ疑うの」
「時期が来たらオレから話す。それまでは黙っていてくれ」
「……うん、わかった」
「そういや未希、おまえ、カイルからもらった剣はどうした」
未希は、カイルの愛刀だったバックソードを譲り受けていた。
しかし、あれ以来、未希が剣を腰に吊っているのを見ていない。
「おうちに置いてあるよ」
「おうちって、噴水広場のか? 手入れしないと錆びるぞ」
「え……そうなの? 1ヶ月くらい大丈夫でしょ? 持ち歩いたら汚れちゃうし」
「汚れるっておまえ、剣は持ち歩くものだろ。それに、油が乾いたら、あっという間に錆びる」
「ええ……錆びてたらどうしよう」
「じゃあ、ソフィア起こしてすぐ出発ね」
「今からか? もう昼だぞ」
「いちばん近いキャンプ場までは行けるでしょ」
最初の頃は、体力不足で、半日でバテたクセに。
今ではストームも、すっかり旅慣れていた。
「じゃあ、みきが、ソフィア起こしてくるね」
「あ、まって。ソフィアはわたしが起こしてくるから、みきさんと総司は、ルルの旅支度して。30分で西のゲートに集合」
ストームの隊長っぷりも板についてきた。
そして、およそ30分後。
ヘラジカのルルに2日分の食糧を積み込み、西のゲートに集合した。
ルルは、また少し大きくなっている。
そろそろ、未希を乗せて走るくらいなら、できるかもしれない。
旅のメンバーは、ソフィアを加えた4人。
男がオレだけだ。
「夕方までにキャンプ場まで行かなきゃだから、急ごう」
ストームの声掛けで、オレ達はアッシュバレルを発った。
目指すは南西、噴水広場の街。
かつては、オオカミが潜む森を抜ける危険な旅だった。
街道が整備された今では、安全な行程だ。
明かりさえあれば、夜道でも危険は無い。
行き交うプレイヤーも多く、日中であれば、どこかしらに人影も見える。
リュウタの姿は見えないが、近くにいるらしい。
あまり古巣の森には、近づきたくないようだと、未希が説明した。
それと、もう1匹の所在を未希に尋ねた。
「渡り鳥のルカはどうしたんだ」
「みきのおうちの近くの池にいるよ。寂しがってるだろうから、早く帰ってあげなきゃ」
ああ……あの池か。
あの池には魚はいないが、雁は草食だ。
水草だけの池なら、天敵が寄り付くことも無いし、安全なのだろう。
「で、ソフィアは、どうしたんだ」
ソフィアは、呆けたように地面を見続けながら歩いていた。
さっきから、喋ることも、ほとんど無い。
この質問にも、未希が答えた。
「明け方近くまで、ミラーさんとかと呑んでたんだって」
「ああ、そういう……おまえら、すっかり呑み友達だな」
ソフィアは、顔を上げずに答えた。
「お昼まで寝ていられる時間ができて助かったわ……」
「得意の微粒子魔法で、二日酔いは消せないのか」
「この状態で魔法使ったら、なにが起きるか分からないわ」
「そんなんで、大丈夫なのかよ。キャンプ場まで辿り着けるのか」
「歩けなくなったら、総司が負ぶってあげて」
「おい、なんでオレが」
「大丈夫よ、私軽いから。だからいますぐ負ぶって」
いや……
どう見ても、未希やストームの倍はあるだろ。
「早く、馬車が欲しいな」
先頭を歩くストームが、振り返らずに言った。
「それも、軍の本部に聞いてみようと思う。
ヘラジカをあと2~3頭増やして、馬車を手配したい。人が乗れなくても、荷物の運搬で、長旅には絶対に必要になる」
「長旅か」
「ん。ルミナス・コアの中心まで、推定600キロ。食糧が補給できない世界を1カ月くらい旅することになる」
「そうか……そうだな」
「交代で再ログインすれば、プレイヤーの生存は維持できるけど……」
オレはログアウトできない。
1カ月分の食料が必要……ということか。
「なるほどな。たしかに、計画が必要だな」
「ん、そういうこと」
ストームは、先のことを、よく考えてくれている。
現実世界では、引きこもりのオタク女子高生なのに。
「おまえは、頼りになるな。これからも頼むよストーム」
「な、ぜ、ぜんぶ、ゲームで得た経験則だよ……っ」
ストームが詰まりながら、早口で答えた。
なにを焦っているんだろう。
この世界でもフードを被っているので、後ろからでは表情も見えなかった。
それでも少し、背筋が伸びたように見えなくもない。
「ねぇ……ちょっと、歩くの速くなってない?」
ソフィアがついてこれない。
旅のペースもあがった。
計画の土台にあるのは、ストームがゲームで培ったもの。
そうだったな。
それに頼ろうとしている。
オレは、また少し。
不安になった。




