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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
シェイプシフトデバイス
388/457

5.4.07


 オレは、いつログアウトしたらいいのか。



 未希やストームの現実世界では、オレの運命はもう決定しているのだろう。

 生きているのか、死んでいるのか。

 頼みの綱のルシアも、音信不通じゃ、どうしようもない。



 ああ……そういえば。

 もしかしたら、ルシアは、この世界……ニフィル・ロードに来ているのでは?

 そう思える疑惑があった。


 現実世界で出会ったルシアより、何年も経っている姿のルシアだった。

 あのルシアが、もう一度、オレの前に現れてくれれば、未来も分かるのだろうか。


 あのとき、あのオンナは、なんて言ってたっけ。


 ダメだな。

 思い出せない。


 もう90年くらい前に劣化している。

 思い出せるはずもない。


 言葉は思い出せないが、覚えていることもある。

 ストームが使っているログインデバイスだ。

 あのオンナから教えられた場所を掘って、見つけた。


 そうだ。


 オレはまだ、発掘したログインデバイスの経緯を知らない。

 それを知る未来。

 ルシアに似た女性に、それを話す未来。

 

 それを知らないオレには、まだ未来が残っている。

 そういうことにしておこう。



 いちおう、聞いておく。

「オレはいつログアウトしたらいい?」


 未希は首をかしげ、ストームは下を向いてしまった。

 それでもしばらくすると、ストームが顔を上げた。


「ルシアさんからの返信は、7日の午前2時だった。

 変な時間だから、その時刻の直前に何かが確定したんだと思う。

 逆に言えば、その時間を過ぎたらダメだということにもなる」


「オレがログインしたのは、5日の午前5時頃。

 ルシアに確保されるらしき時間が7日の午前2時か」


「ん……現実世界では45時間後になる。

 つまり、ニフィル・ロードで過ごす目安は、4500時間」


 っ……てことは。


「……おにいちゃん」

「ああ……どうやら次は、オレの番みたいだな。未希」


 次のログアウトは、6ヶ月以上先。

 オレは未希と同じように、ログアウトできない時間を6ヶ月過ごさなきゃならない。


 ストームがつぶやいた。

「まあでも、まだ分かんないよ。ルシアさんからなにか連絡が来るかもしれないし」

「そうだな、そうだとありがたいな」

 まさか、ストームに元気づけられる日が来るなんて。


 未希は少し、嬉しそうだった。

「ちゃんとお風呂入って、歯も磨いて、健康に過ごさないとね、おにいちゃん」


 そうか。

 いままでは、再ログインすれば、病気や体調どころか、体臭もヒゲも現実世界の状態に戻っていた。

 これからはこの世界で、6ヶ月間の生存を維持しなきゃならない。


「未希は6ヶ月過ごした経験者だもんな。いろいろ教えてくれ」

「うん」


 やっぱり嬉しそうだ。


 まぁいい。

 未希も耐えたんだ。

 オレも耐えよう。

 未希は、たった一人だった。

 それに比べたら、オレはマシだ。


 傍には、未希がいて、ストームもいる。

 ある意味、現実世界の孤独よりも、清々しいかもしれない。



「いま、どのくらい経ったの?」

 ストームに言われて、オレはログインデバイスを出し、表示されている経過時間を見た。


「5分だ」


「ん……あと、540回、5分を繰り返せばログアウトできる」

「計算早いな、ストームは」

「計算は得意」


「でも、おにいちゃん、病気も、大ケガもできないね」


「んん。どうする? ルミナス・ノードいくのやめとく? エレメント・ノードなら危険はないし、病気もケガも病院行けば医者がいるから、どうにかなる」


「どうせ、なるようにしかならないんだろ?」

「まぁ、それはそう……だけど」


「未希とストームは、ルシアから、オレは安全だと聞いたんだよな。

 オレにとって、それは未来の話だ。

 これから何をしようと結果は同じで、その未来に進むだけ」



 ルシアが言ったという「安全」の意味は不確定だ。


 組織に救出されて、安全な場所に匿われているのかもしれない。

 あるいは、部屋でたむろしている連中に拉致されるのかもしれない。


 いずれにしろ、オレの未来はもう決まっている。


 オレが、ニフィル・ロードでなにをしようが、それまで死ぬことも、殺されることもない。

 逆に言えば、何をしようが無駄。

 定められた未来に向かって、時間を過ごすだけ。

 ただそれだけのこと。


 だからオレは……


「オレはいま、無敵だ」


 もう、こうなったら、とっとと終わらせよう。

 この世界を。


「え? なに急に?」

 無表情なストームが、真っ直ぐオレを見つめた。

 未希はまた、首をかしげた。


「ストーム。ルミナス・ノードが攻略される平均時間は、何日だ?」

「えっと……1500日って言われてる。いま500日くらいだから、あと1000日」


「なら、あと6ヶ月で終わらせるぞ」

「え……やっぱり、どうしたの急に?」


 ストームまで首をかしげた。


 オレは未希の顔を見た。

 口には出さず、心の中で未希に伝えた。

(未希、おまえもうすぐ誕生日だろ)



 次の言葉は、聞こえるように言った。



「未希の欲しいもの。オレが取ってきてやるよ」





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