5.4.07
オレは、いつログアウトしたらいいのか。
未希やストームの現実世界では、オレの運命はもう決定しているのだろう。
生きているのか、死んでいるのか。
頼みの綱のルシアも、音信不通じゃ、どうしようもない。
ああ……そういえば。
もしかしたら、ルシアは、この世界……ニフィル・ロードに来ているのでは?
そう思える疑惑があった。
現実世界で出会ったルシアより、何年も経っている姿のルシアだった。
あのルシアが、もう一度、オレの前に現れてくれれば、未来も分かるのだろうか。
あのとき、あのオンナは、なんて言ってたっけ。
ダメだな。
思い出せない。
もう90年くらい前に劣化している。
思い出せるはずもない。
言葉は思い出せないが、覚えていることもある。
ストームが使っているログインデバイスだ。
あのオンナから教えられた場所を掘って、見つけた。
そうだ。
オレはまだ、発掘したログインデバイスの経緯を知らない。
それを知る未来。
ルシアに似た女性に、それを話す未来。
それを知らないオレには、まだ未来が残っている。
そういうことにしておこう。
いちおう、聞いておく。
「オレはいつログアウトしたらいい?」
未希は首をかしげ、ストームは下を向いてしまった。
それでもしばらくすると、ストームが顔を上げた。
「ルシアさんからの返信は、7日の午前2時だった。
変な時間だから、その時刻の直前に何かが確定したんだと思う。
逆に言えば、その時間を過ぎたらダメだということにもなる」
「オレがログインしたのは、5日の午前5時頃。
ルシアに確保されるらしき時間が7日の午前2時か」
「ん……現実世界では45時間後になる。
つまり、ニフィル・ロードで過ごす目安は、4500時間」
っ……てことは。
「……おにいちゃん」
「ああ……どうやら次は、オレの番みたいだな。未希」
次のログアウトは、6ヶ月以上先。
オレは未希と同じように、ログアウトできない時間を6ヶ月過ごさなきゃならない。
ストームがつぶやいた。
「まあでも、まだ分かんないよ。ルシアさんからなにか連絡が来るかもしれないし」
「そうだな、そうだとありがたいな」
まさか、ストームに元気づけられる日が来るなんて。
未希は少し、嬉しそうだった。
「ちゃんとお風呂入って、歯も磨いて、健康に過ごさないとね、おにいちゃん」
そうか。
いままでは、再ログインすれば、病気や体調どころか、体臭もヒゲも現実世界の状態に戻っていた。
これからはこの世界で、6ヶ月間の生存を維持しなきゃならない。
「未希は6ヶ月過ごした経験者だもんな。いろいろ教えてくれ」
「うん」
やっぱり嬉しそうだ。
まぁいい。
未希も耐えたんだ。
オレも耐えよう。
未希は、たった一人だった。
それに比べたら、オレはマシだ。
傍には、未希がいて、ストームもいる。
ある意味、現実世界の孤独よりも、清々しいかもしれない。
「いま、どのくらい経ったの?」
ストームに言われて、オレはログインデバイスを出し、表示されている経過時間を見た。
「5分だ」
「ん……あと、540回、5分を繰り返せばログアウトできる」
「計算早いな、ストームは」
「計算は得意」
「でも、おにいちゃん、病気も、大ケガもできないね」
「んん。どうする? ルミナス・ノードいくのやめとく? エレメント・ノードなら危険はないし、病気もケガも病院行けば医者がいるから、どうにかなる」
「どうせ、なるようにしかならないんだろ?」
「まぁ、それはそう……だけど」
「未希とストームは、ルシアから、オレは安全だと聞いたんだよな。
オレにとって、それは未来の話だ。
これから何をしようと結果は同じで、その未来に進むだけ」
ルシアが言ったという「安全」の意味は不確定だ。
組織に救出されて、安全な場所に匿われているのかもしれない。
あるいは、部屋でたむろしている連中に拉致されるのかもしれない。
いずれにしろ、オレの未来はもう決まっている。
オレが、ニフィル・ロードでなにをしようが、それまで死ぬことも、殺されることもない。
逆に言えば、何をしようが無駄。
定められた未来に向かって、時間を過ごすだけ。
ただそれだけのこと。
だからオレは……
「オレはいま、無敵だ」
もう、こうなったら、とっとと終わらせよう。
この世界を。
「え? なに急に?」
無表情なストームが、真っ直ぐオレを見つめた。
未希はまた、首をかしげた。
「ストーム。ルミナス・ノードが攻略される平均時間は、何日だ?」
「えっと……1500日って言われてる。いま500日くらいだから、あと1000日」
「なら、あと6ヶ月で終わらせるぞ」
「え……やっぱり、どうしたの急に?」
ストームまで首をかしげた。
オレは未希の顔を見た。
口には出さず、心の中で未希に伝えた。
(未希、おまえもうすぐ誕生日だろ)
次の言葉は、聞こえるように言った。
「未希の欲しいもの。オレが取ってきてやるよ」




