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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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387/461

5.4.06


 (ソウジさん……ソウジさん)


 まだ寝足りないのに、誰かがオレの肩を揺すっている。

 


 「ソウジさん、起きてください」


 目蓋を開ける前に呟いた。


 「誰だ……いま、何時だ……」

 「何時? はて?」


 男の声。誰だ。


 木板の天井。

 ホコリと、土と草の匂い。


 ああ、そうか。

 ここはメモリア。モルウェナの屋敷の別邸か。


 オレの肩を揺すっていたのは、アルクだった。

「なんだ、アルクか。久しぶりだな」


「呑気ですねぇ。いつからおられたのですか? いらっしゃってるなら、教えてくれてもいいじゃないですか」


 カラダを起こし、寝床から立ち上がる。

 アルクの装いがいつもと違う。

 羽の付いたフェルト帽を被り、厚手のマントを羽織っていた。


「どこか行くのか?」

「ええ。戦争が近いので、ウルス皇国へ外遊に向かいます」

「戦争?」

「同盟関係にあるウルス皇国が、隣国と戦争することになり、我が国も援軍を派兵することになりました。

 ソウジさんも肯定派で1枚嚙んでいたはずですよね……?」


 そうだっけ……

 そういや、そんな件もあったような。


「肯定派の代表として、ソウジさんにも、協力していただきたいのですが」

「オレがなにかしなくても、勝てるんだろ」

「まぁ、十中八九、負けることはないでしょうが……」

「で、おまえの外遊も、戦争の件か」


「はい。援軍の規模や、物資に関する最終調整です。アルカイド様と直接会談できる機会を得たので、ウルス皇国へ向かいます」


「アルカイド……聞いたことあるな」


 なんだっけ……

 忘れたらいけない名前だったような。


「なにを仰るんですか。

 アルカイド様は、ウルス皇国の現皇帝ですよ。

 ソウジさんも、ご協力ください。セレン様も会いたがっておられますよ」


 セレンは覚えている。

 ウルス皇国に嫁いだ、ローウェンナ女王の妹。


「いや……すまん、オレもちょっとゴタゴタしててな」

「さようですか。残念です」


「モルウェナはどうしてる」

「気になりますか? 今日も、リノン様のところでお勉強ですよ」

「そうか」

「お会いになって行かれますか?」

「いや、悪いが、もう行く」

「そうですか……」

 アルクは、無表情だが、なんだか名残惜しそうだな。


 オレは左手を叩いて、ログインデバイスを取り出した。

「じゃあ、またな」


 エレメント・ノードへ渡るための、虹色のゲートが出現する。

 ゲートに包まれる前に、オレは目を閉じた。



 あ、思い出した。

 アルカイド。

 ストームが予言した、ヴィルゴ王国の最後のキーワード。

 たしか……


 『アルカイドが出てくるとしたら、シナリオの終盤』

 

 ヴィルゴ王国の結末か。

 気になるが。

 自分から関わるつもりもない。

 そもそも、オレがそれどころじゃない。




 目蓋を開けると、アッシュバレルのオレの敷地。

 空を見上げると、陽の高さは、ちょうど昼くらい。


 隣のパン屋から、胃袋を掻き乱す芳醇な匂い。

 腹が減った。


「ああ! おにいちゃんだ!」

「総司……」


 未希とストームだ。

 ベンチに座って、トーストを食べていた。

「よかったぁ。ここに来れば、おにいちゃんに会えるんだね」

「うん? なんだ、なにを言ってる」


 どうした。未希が涙ぐんでいる。

 それより……


「オレのパンはあるか?」

「もう……なに言ってるの、おにいちゃん!」


「腹がペコペコだ」

「じゃあ……わたしの半分あげる」


 ストームが食べかけのトーストを、そのままオレに向けた。

 それを受け取って、口に入れる。

 外はサクサク、中はもっちり。

 相変わらず、いい仕事をしているな。黒ヒゲは。


「総司はね、いま行方不明なんだよ。どこ行っちゃったの?」

「え? 行方不明? オレが?」


 そう言われてもな。

 現実世界のオレの時間は、仕事上がりの朝で止まっている。


 ストームに尋ねた。


「ルシアと連絡はついたのか?」

「総司に頼まれたメッセージは、すぐに送ったよ」

「それで?」

「次の日に、総司は安全だから安心してって、メッセージが返って来たよ」


 そうか。

 本当に安全なのか。

 それとも安心させたかっただけなのか。


「それからどうした」

「それ以来、総司ともルシアさんとも、音信不通」


「それ以来って、何日だ?」

 その質問に、未希が答えた。

「もう1週間だよ」


 え……1週間?

 音信不通?



 オレはいったい、どうなってしまったんだ?



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