5.4.06
(ソウジさん……ソウジさん)
まだ寝足りないのに、誰かがオレの肩を揺すっている。
「ソウジさん、起きてください」
目蓋を開ける前に呟いた。
「誰だ……いま、何時だ……」
「何時? はて?」
男の声。誰だ。
木板の天井。
ホコリと、土と草の匂い。
ああ、そうか。
ここはメモリア。モルウェナの屋敷の別邸か。
オレの肩を揺すっていたのは、アルクだった。
「なんだ、アルクか。久しぶりだな」
「呑気ですねぇ。いつからおられたのですか? いらっしゃってるなら、教えてくれてもいいじゃないですか」
カラダを起こし、寝床から立ち上がる。
アルクの装いがいつもと違う。
羽の付いたフェルト帽を被り、厚手のマントを羽織っていた。
「どこか行くのか?」
「ええ。戦争が近いので、ウルス皇国へ外遊に向かいます」
「戦争?」
「同盟関係にあるウルス皇国が、隣国と戦争することになり、我が国も援軍を派兵することになりました。
ソウジさんも肯定派で1枚嚙んでいたはずですよね……?」
そうだっけ……
そういや、そんな件もあったような。
「肯定派の代表として、ソウジさんにも、協力していただきたいのですが」
「オレがなにかしなくても、勝てるんだろ」
「まぁ、十中八九、負けることはないでしょうが……」
「で、おまえの外遊も、戦争の件か」
「はい。援軍の規模や、物資に関する最終調整です。アルカイド様と直接会談できる機会を得たので、ウルス皇国へ向かいます」
「アルカイド……聞いたことあるな」
なんだっけ……
忘れたらいけない名前だったような。
「なにを仰るんですか。
アルカイド様は、ウルス皇国の現皇帝ですよ。
ソウジさんも、ご協力ください。セレン様も会いたがっておられますよ」
セレンは覚えている。
ウルス皇国に嫁いだ、ローウェンナ女王の妹。
「いや……すまん、オレもちょっとゴタゴタしててな」
「さようですか。残念です」
「モルウェナはどうしてる」
「気になりますか? 今日も、リノン様のところでお勉強ですよ」
「そうか」
「お会いになって行かれますか?」
「いや、悪いが、もう行く」
「そうですか……」
アルクは、無表情だが、なんだか名残惜しそうだな。
オレは左手を叩いて、ログインデバイスを取り出した。
「じゃあ、またな」
エレメント・ノードへ渡るための、虹色のゲートが出現する。
ゲートに包まれる前に、オレは目を閉じた。
あ、思い出した。
アルカイド。
ストームが予言した、ヴィルゴ王国の最後のキーワード。
たしか……
『アルカイドが出てくるとしたら、シナリオの終盤』
ヴィルゴ王国の結末か。
気になるが。
自分から関わるつもりもない。
そもそも、オレがそれどころじゃない。
目蓋を開けると、アッシュバレルのオレの敷地。
空を見上げると、陽の高さは、ちょうど昼くらい。
隣のパン屋から、胃袋を掻き乱す芳醇な匂い。
腹が減った。
「ああ! おにいちゃんだ!」
「総司……」
未希とストームだ。
ベンチに座って、トーストを食べていた。
「よかったぁ。ここに来れば、おにいちゃんに会えるんだね」
「うん? なんだ、なにを言ってる」
どうした。未希が涙ぐんでいる。
それより……
「オレのパンはあるか?」
「もう……なに言ってるの、おにいちゃん!」
「腹がペコペコだ」
「じゃあ……わたしの半分あげる」
ストームが食べかけのトーストを、そのままオレに向けた。
それを受け取って、口に入れる。
外はサクサク、中はもっちり。
相変わらず、いい仕事をしているな。黒ヒゲは。
「総司はね、いま行方不明なんだよ。どこ行っちゃったの?」
「え? 行方不明? オレが?」
そう言われてもな。
現実世界のオレの時間は、仕事上がりの朝で止まっている。
ストームに尋ねた。
「ルシアと連絡はついたのか?」
「総司に頼まれたメッセージは、すぐに送ったよ」
「それで?」
「次の日に、総司は安全だから安心してって、メッセージが返って来たよ」
そうか。
本当に安全なのか。
それとも安心させたかっただけなのか。
「それからどうした」
「それ以来、総司ともルシアさんとも、音信不通」
「それ以来って、何日だ?」
その質問に、未希が答えた。
「もう1週間だよ」
え……1週間?
音信不通?
オレはいったい、どうなってしまったんだ?




