5.4.05
未希とストームは、ログアウトした。
再ログインは、6時間後。
することがないので、宿屋を出る。
外は朝だ。空気の色が青白い。
すぐ近くの、自分の敷地に立ち寄った。
中年の女性プレイヤーが、オレのベンチに座ってパンを食べていた。
知らない女性。
オレが近づいていくのに気が付き、怪訝な視線を向けてくる。
あいかわらず、柵もなにもなく、ベンチとテント、それと焚火の炉があるだけ。
公共施設だと思われている。
ここな、オレん家なんだよ。
たぶん、おまえが食べているパンの原料も、オレが運んで隣のパン屋に納品している穀物だ。
まぁいい。
好きに使ってくれていい。
女性の視線を無視して、敷地の中央にあるテントに近づく。
中から、すり鉢をこするような音がする。
テントをめくると、小汚い男がイビキをたてていた。
無論、知らない男だ。
ログインしたばかりだというのに、オレも眠い。
そういや、徹夜明けだった。
カラダは健康だが、眠いし、腹も減っている。
明け方に、衝動で買った缶コーヒーが飲みたい。
ズボンのポケットに入れたままだ。
しかし、この世界に缶コーヒーは存在しない。
することもないし、行きたいところもない。
司令部にいったら、用事を頼まれるかもしれないから行きたくない。
他に、知り合いは……
リュウジも、ティナも、もうこの世界から退場していた。
メモリアに行くかと、ログインデバイスを取り出した。
『 ELAPSED 00:01 』
現実世界は、まだ1分しかたっていない。
いまログアウトしたら、部屋に侵入してきた連中に袋叩きにされるのだろうか。
とにかく情報がほしい。
連中が誰なのか。誰の指示で動いているのか。
オレになんの用があるのか。
6時間後に未希とストームが戻る。
それまで少し寝よう。
だが、ここは居心地が悪いので、オレはメモリアへ渡るゲートを呼び出した。
オレが虹色に輝きだすと、ベンチに座っていた中年の女性が、ぎょっとしていた。
メモリアへ渡れるのは、噴水広場と自宅の敷地だけ。
そうだよ、ここはオレん家なんだよ。
「いいよ、好きにくつろいでくれ」
それだけ言い残して、オレはメモリアへ飛んだ。
膜につつまれる直前、見知らぬ中年女性が微笑みながら手を振っているのを見届けた。
飛んだ先は、ヴィルゴ王国。
モルウェナの屋敷の別宅で、目蓋を開けた。
ふと、気になって、ポーチからストームカレンダーを取り出した。
木札の表面に「336」という数字が浮き出ている。
この世界での日々も、ずいぶん経過した。
10歳だったモルウェナも、先日、誕生日を迎えて11歳になったらしい。
パーティーに参加しなかったオレは、いろんなヤツらから、ひどく文句を言われた。
他の住人に見えないように、そっとカーテンを閉め、寝室のベッドに横になった。
眠い。
腹も減っているが、起きてからでいいだろう。
腹が減ったからと言って、すぐに食べ物が手に入るわけでもない。
この世界には、コンビニも冷蔵庫も、無いんだからな。
6時間で起きられるだろうか。
まぁいいか。
目を閉じると、泥のように意識が沈んでいった。




