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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
シェイプシフトデバイス
386/463

5.4.05


 未希とストームは、ログアウトした。

 再ログインは、6時間後。



 することがないので、宿屋を出る。

 外は朝だ。空気の色が青白い。



 すぐ近くの、自分の敷地に立ち寄った。

 中年の女性プレイヤーが、オレのベンチに座ってパンを食べていた。

 知らない女性。

 オレが近づいていくのに気が付き、怪訝な視線を向けてくる。

 あいかわらず、柵もなにもなく、ベンチとテント、それと焚火の炉があるだけ。

 公共施設だと思われている。


 ここな、オレん家なんだよ。


 たぶん、おまえが食べているパンの原料も、オレが運んで隣のパン屋に納品している穀物だ。


 まぁいい。

 好きに使ってくれていい。


 女性の視線を無視して、敷地の中央にあるテントに近づく。

 中から、すり鉢をこするような音がする。

 テントをめくると、小汚い男がイビキをたてていた。

 無論、知らない男だ。



 ログインしたばかりだというのに、オレも眠い。

 そういや、徹夜明けだった。


 カラダは健康だが、眠いし、腹も減っている。


 明け方に、衝動で買った缶コーヒーが飲みたい。

 ズボンのポケットに入れたままだ。

 しかし、この世界に缶コーヒーは存在しない。

 


 することもないし、行きたいところもない。

 司令部にいったら、用事を頼まれるかもしれないから行きたくない。


 他に、知り合いは……

 リュウジも、ティナも、もうこの世界から退場していた。



 メモリアに行くかと、ログインデバイスを取り出した。


『 ELAPSED 00:01 』


 現実世界は、まだ1分しかたっていない。

 いまログアウトしたら、部屋に侵入してきた連中に袋叩きにされるのだろうか。


 とにかく情報がほしい。

 連中が誰なのか。誰の指示で動いているのか。

 オレになんの用があるのか。


 6時間後に未希とストームが戻る。

 それまで少し寝よう。


 だが、ここは居心地が悪いので、オレはメモリアへ渡るゲートを呼び出した。


 オレが虹色に輝きだすと、ベンチに座っていた中年の女性が、ぎょっとしていた。


 メモリアへ渡れるのは、噴水広場と自宅の敷地だけ。

 そうだよ、ここはオレん家なんだよ。


「いいよ、好きにくつろいでくれ」

 それだけ言い残して、オレはメモリアへ飛んだ。

 膜につつまれる直前、見知らぬ中年女性が微笑みながら手を振っているのを見届けた。

 



 飛んだ先は、ヴィルゴ王国。

 モルウェナの屋敷の別宅で、目蓋を開けた。


 ふと、気になって、ポーチからストームカレンダーを取り出した。

 木札の表面に「336」という数字が浮き出ている。

 この世界での日々も、ずいぶん経過した。


 10歳だったモルウェナも、先日、誕生日を迎えて11歳になったらしい。

 パーティーに参加しなかったオレは、いろんなヤツらから、ひどく文句を言われた。



 他の住人に見えないように、そっとカーテンを閉め、寝室のベッドに横になった。



 眠い。

 腹も減っているが、起きてからでいいだろう。

 腹が減ったからと言って、すぐに食べ物が手に入るわけでもない。

 この世界には、コンビニも冷蔵庫も、無いんだからな。


 6時間で起きられるだろうか。

 まぁいいか。



 目を閉じると、泥のように意識が沈んでいった。




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