5.4.04 - 業務連絡
アッシュバレルの宿屋で目を開けた。
オレは逃げた。
他に選択肢が無かった。
いつ戻れば安全なのか。
襲撃してきたのが何者で、誰に雇われ、なんの理由でオレを襲ったのか。
まったく分からない。
それより、急いで伝えなくてはならない。
だからオレは、食堂で未希とストームがログインしてくるのを待った。
ふたりは数分で、食堂に姿を現した。
「あ、おにいちゃんいた!」
「んん。総司どこ行ってたの。連絡取れないから、心配した」
「おまえ達がログインしたのは、何日だ?」
「11月6日だけど?
おにいちゃん、来るの待ってたのに来ないし、メッセージの返事も無いし、電波も届かないし。ログインしたらいるかなって思ってログインしたら、いた」
「なんかあったの? 総司?」
オレがログインしたのは、11月5日。
未希とストームの現実時間は、オレより1日進んでいることになる。
ひとつ、ホッとした。
ここにいるということは、ふたりにはなにも起きていない。
「オレのアパートには、近づくな。悪いやつらが沢山いる」
「ん? 悪いやつらって?」
「誰だかは知らないが、危険な連中だ。絶対に近づくなよ」
未希も、ストームも、緊迫感の無い顔。
こんなんじゃ、ダメだ。
好奇心で、近づくことも、避けてほしい。
援軍を呼ぼう。
「おまえら、ルシアの連絡先、知ってるよな?」
「ルシアさんて、一緒に花火見た、フランス人の女の人?」
「そうだ。彼女に伝言を頼みたい」
「いいけど……どんな伝言?」
「オレから、ルシアへ、コードホワイトとだけ伝えてくれればいい」
「コードホワイト……って、病院とかのやつ? 総司の安全が脅かされてるの?」
「そんなとこだ。仕事でミスをしたから、ルシアに後片付けを頼みたい」
「そっかぁ。ルシアと総司って仕事の同僚だったっけ」
「それって、急ぎ? だよね?」
「急いでくれると助かる」
「で、総司はどうするの?」
「オレはしばらく、この世界に隠れる」
「隠れるって、どのくらい?」
「そうだな……、おまえ達がログインしたのは、6日の何時だ?」
「お昼前だから、11時くらいだったっけ?」
「11時25分だよ」
オレがログインしたのは、5日の朝5時頃だ。
なら、30時間くらいの時差があるということ。
最速で、ルシアが組織にアラートを上げたとして、アパートの安全が確認できるのは何時間後だろうか。
35時間後……だとして、ニフィル・ロードで過ごさなきゃならない時間は、3500時間。
「ストーム。3500時間って、何日だ」
「ん……145日くらい」
「エエッ、そんなに長い期間、ニフィル・ロードに隠れるの?」
「未希の6カ月よりは短いだろ」
「それはまぁ……そうだけど」
オレは、5ヶ月近く、この世界で待つのか。
ちょっとした懲役刑じゃないか。
まぁいいか。
監獄じゃないだけマシだな。
ここは、ニフィル・ロードだ。
「未希、ストーム」
「うん?」
「ん?」
「なるべく早く、ルシアと連絡をとってくれ」
「わかった」
「ん、まかせろ。1時間の遅れが、こっちだと4日以上だもんね」
「おまえ達は、オレの部屋には絶対に近づくなよ。
それと、ルシアになにか言われたら、その指示に従え。いいな?」
「うん」
心配だ。
だが、これでいい。
これしか方法がない。
未希とストームが部屋に近づくことだけは、避けたい。
もし、何週間も前から監視され、準備されていたのだとしたら。
このふたりの顔も、知られていると考えるべきだ。
オレの部屋に、のこのこ近づいたら、なにをされるか分かったものではない。
「じゃあ、部屋に戻ってログアウトするね」
「未希」
「うん?」
「借りひとつだと、ルシアに伝えてくれ」
「わかった。じゃあ、クリスマスケーキは、おにいちゃんのおごりね。じゃ、また6時間後にね」
「ああ。ここで待ってる。また6時間後に……」
ケーキでもスシでも、なんでもいい。
とにかく、未希とストームを。
ふたりを、守ってくれ。
頼んだぞ。
ルシア……




