5.3.20 - 仲間
翌日。
オレ達は帰路へ。
月が昇るとすぐに、荷物をまとめて湖を離れた。
向かう先は北。
北極星を目指して歩くだけ。
簡単な旅だ。
途中で野営し、エレメント・コア拠点に到着したのは2日目。
ソフィアとフィリスは、早く陽射しを浴びたがっていた。
拠点連中との挨拶を適当に済ませ、オレ達はゲートを抜けた。
そして、エレメント・ノードへと戻った。
久しぶりの太陽は、沈みかけた夕陽だった。
それでも、オレ達にとっては6日ぶり。
長い夜明けの太陽は眩しく、そして強烈だった。
夕方でよかったのかもしれない。
昼間だったら、目を開けていられなかっただろう。
ソフィアが西の空を見上げて、両腕を広げた。
「夕陽だけど……やっぱり、気持ちがいいわね。空が綺麗だわ」
「わたしは慣れてるから、ずっと夜でもいい」
ストームは普段通りだ。
「あら、ちゃんと日光を浴びないとダメよ」
「オタクに、日光なんて必要ない……」
「私も、どっちでもいいかな。普段は研究室に閉じこもってるからね。どっちかと言えば、静かな夜のほうがいいね」
ハンスも普段通りだった。
人間とは、日光を浴びなくても生きていけるのか。
なんにしても、久しぶりの陽射しを浴びた。
太陽が当然のように、西の空を明るく染めているのを見て、妙な気分になる。
当たり前のようにあるべきものが、存在しない世界。
そこから戻ると、こんな気分になるのか。
森も大地も、大空も、赤く染まっている。
夕陽を見て、存在してくれてよかったと思う気持ちが湧きだす。
バカバカしい感覚だ。
「あー! ルカがいなーい!」
未希が大声を出した。
そういえばいないな。
ゲートを通過するときは、オオカミも含めて全員一緒だった。
臆病なルカが、近寄れるはずもなかった。
「ちょっと、ルカを連れてくるから。待ってて」
「え、おいちょっ……まて」
未希は、ログインデバイスを出現させ、エレメント・コアの広場から消えた。
オレは慌てたが、未希は数分で戻った。
未希に抱えられたルカが、ピュウピュウと、鳴き続けている。
「ごめんねルカ。ごめん。ごめん。またあとでね」
未希が、ルカを空へ放り投げると、そのまま翼を広げ、バサバサと飛んで行ってしまった。
どこへ向かうのだろうか。
このまま、帰ってこないのではないかと思う勢いで、空の彼方へと消えてしまった。
その晩は、エレメント・コアの宿営地に泊った。
「差し入れ、手に入れてきたぞ」
ミラーは、片手にスコッチの瓶を掴んでいた。
「おまえ、まさか盗んできたのか」
「やるじゃないミラー。今夜ばかりは、褒めてあげるわよ」
酒盛りが始まった。
オレも少し呑んでみたが……
スコッチの刺激は、喉の奥で、針を出したままの蜂が暴れ回るようだった。
この世界のスコッチは試練だ。
ひと口で充分だった。
未希とストームは、少し離れた場所に下がり、早々に眠ってしまった。
ルカの姿はない。
どこへ飛んで行ってしまったのだろうか。
リュウタの姿も消えていた。
エレメント・ノードには、草もあるし、ウサギやリスもいる。
今頃どこかで、たらふく食事をしているのかもしれない。
翌日。
オレ達8人は、アッシュバレルに到着した。
ハンスとフィリスとは、司令部で別れた。
ミラーとミケルも、どこかへ行ってしまった。
そうだ。護衛の任務が終わったのだ。
依頼主であるアーネストと、報酬の話をしたかったのだが、アーネストは見当たらない。
どうやら何日か前に、噴水広場の本部に戻ってしまったらしい。
その日の夜。
宿屋に残ったのは4人。
オレと未希とストーム。そしてソフィア。
宿泊の個室の扉を閉め、オレ達は、ソフィアと向かい合った。
そこでストームは、予告通り、ソフィアに全てを話した。
シェイプシフトデバイスを求めているということ。
全崩壊を促す、大罪人ルートを目指していること。
その理由は、未希の願いを叶えるため。
幼い頃に死別した両親と、再会するためだということ。
シェイプシフトデバイスを狙うということは、この世界で活動する全てのプレイヤーを裏切り、敵に回すということでもある。
ストームは、それをソフィアに話した。
ソフィアは動じなかった。
ときおり頷くだけ。
相槌も入れず、ただ静かに、ストームの話を聞いていた。
ストームが最後に付け加えた。
「ねぇ、ソフィア……私達を助けてくれる?」
いつからか。
ソフィアの瞳に、涙が浮いていた。
「うん、うん」
ソフィアは頷くだけだ。
話を聞きながら、目に涙を浮かべ、頷くだけ。
ソフィアはいま、なにを考え、なにを思っているのか。
分からない。
判別できない。
だから、聞いた。
「おまえがまだ、隠していることはなんだ?」
「……ごめん。まだ言えないわ」
「いいよ、総司。聞かなくても。いつか話してくれるんでしょ?」
「ええ、話す……話すわよ。カウント24の全てが終わったら。必ず」
質問を続けた。
「なら、ソフィア。ひとつ教えてくれ。
ストームはいま、おまえに全員を裏切れと頼んだ。
オレ達のために、全てを敵に回せと頼んだんだ。
それを承諾したおまえに、なんの得がある」
「あるわ……あるのよ。いいわ。ひとつだけ教えてあげる」
ソフィアが顔を上げた。
視線は、未希とストームに向いていた。
「ミキとストームを手助けすることで、私も救われるの。
いや……違うわね。
私じゃなくて、私の大切なものが救われる。
だからね、私からもお願いするわ」
ストームが尋ねた。
「大切なものってなに? それは未来の話?」
「それはいまは、言えないわ」
「なぜ?」
ソフィアが顔をオレに向けた。
「いいから……私を一緒に連れていきなさい。
ソウジに私を信用しろとは言わない。
私が手助けしたいのは、ミキとストーム。
私にとって、この子たちは、大切な存在なの。
その意味では、私もソウジと同じでしょ?
この世界を破壊するミキとストームを、最後まで守り抜くこと。
それは、私も、ソウジも同じ。
そうでしょ?」
「……そうだな。それは同じだ」
こんな気分も、生まれて初めてだ。
信用できない。
信頼するつもりもない。
裏切りの対価は、積み重ねた信頼。
その対価が、未希であってはならない。
オレがソフィアに、気を許すことはない。
警戒を解くつもりもない。
だが、ソフィアは、必要だ。
「分かったよ。ソフィア」
ソフィアの目を見た。
ソフィアもオレの目を見ている。
「これからも、よろしく頼むよ」




