5.3.19
夕食のあと、ハンスが言った。
「今日は、だいぶ進んだよ。未希のスターライト・スコープのおかげで、地図に必要な資料は全部そろった」
それはよかった。
ストームが、聞き返した。
「んん? スターライト・スコープ? どういうこと?」
フィリスが、目を輝かせながら答えた。
「ミキさんに魔法かけてもらったのよ。すごいわね」
「え……使ったの?」
「オレがナイトビジョンの魔法を使わせた」
「おい、コラ、総司」
ストームが、オレを睨んだ。
むやみに魔法を行使するなと、何度も言われている。
「勝手に使わせて悪かったよ」
「ん……まぁ、いいけど……
山道だし、踏み外したらケガじゃ済まないもんね。
それで、あと、何日で終わりそうなの、ハンス?」
「地図は、今夜中に仕上げちゃうから。明日、帰還できるよ」
「そうなんだ。ならいいか」
ソフィアが、疲れたような言いぐさで言った。
「よかったわぁ。そろそろ朝陽が恋しかったところよ」
「ルカも連れて帰るのか?」
未希は湖を眺めていた。
「置いてったら、餓死しちゃうよ」
真っ暗で姿は見えないが、たまに羽音と水の跳ねる音が聞こえてくる。
飛ぶ鳥に、来るなと言っても、無駄だな。
置いていくにしても、勝手についてくるのだろう。
月が地平線の彼方に、完全に消えた。
ハンスは、大きなロール紙を広げて、焚火の明かりを頼りに、なにかを書き込んでいる。
地図の仕上げだろうか。
ストームは、ハンスの横から、質問を繰り返していた。
邪魔にならないのだろうか。
ハンスは手を動かしながら、質問に答えている。
未希とソフィアとフィリスは雑談。
めずらしく、ミラーとミケルのふたりが、賑やかにワインを酌み交わしていた。
明日帰還すると知って、今夜で、呑み切るつもりだろうか。
オレは、焚火越しに湖を眺めた。
バサバサと、なにかから逃れるような、水面を走る音がした。
どうやら、リュウタが戻ったようだ。
湖で水を飲んでから、離れた場所に寝そべり、大きなあくびをした。
あの様子なら、今夜も危険は無さそうだ。
見張りは、ストームとふたりで、1番になった。
わざわざ、ストームがオレを指名した。
なにか話でもあるのだろうか。
他の連中が寝静まった頃。
剣の手入れを始めた。
最近はサンダーソニアを抜くこともない。
こんなもの、使わないにこしたことはない。
まぁしかし、こういう作業は、嫌いじゃない。
無心で、鞘の表面に獣脂を塗り込み、中のゴミを落とし、鞘口の羊毛に油を染み込ませる。
剣は美しいままだ。
どこにも刃こぼれはない。
手入れを続けているおかげで、カイルや、アルクのことを忘れることもない。
手入れが終わり、剣を鞘に納めた頃。
ストームがオレの隣に座った。
「どうした」
「んん」
「なにか話があるのか」
じゃなきゃ、わざわざ指名しないよな。
ストームは、ゆっくりと口を開いた。
「ルカにも、意識を繋ぐ魔法使ったって聞いた」
「ああ……すまん」
なんだ、また小言か。
「いいよ。わたしも気になってたし。
みきさんやっぱ天才だね。すごい能力だと思う」
「そうだな」
パチパチと焚火の爆ぜる音。
小言じゃないなら、何を言いたがっているのか。
「ルミナス・コア。目指していいよね?
わたしたちなら、コアを見つけ出すことはできると思う」
ああ。
そういう話か。
「……オレは反対だけどな」
「ソフィアも一緒に来てくれると思うし」
「あいつを信用していいのか」
「うん。まだなにか、隠してるよね。ソフィアは」
「だろうな」
「もしかしたら、わたしたちの未来を知ってるのかな。ソフィアは」
「さぁ。どうだろうな」
オレには、最後に裏切られる未来しか見えない。
「ねぇ、総司」
「なんだよ」
「ソフィアに全て、話そうと思うんだけど」
「全てって、オレ達の目的のことか?」
「うん」
「…………」
「もし、ソフィアも賛同してくれたら、4人でコアを目指してもいい?」
「付き合い切れないって言われたら、どうするんだ」
「んん……言われちゃうかなぁ」
「そもそも、オレの許可は不要だが。なにがあろうと、コアを目指すことには、オレは最後まで反対だ」
「わたしとみきさんが、行くって言ったら……
反対してても、総司は、ついて来てくれるの?」
「行くよ。オレは保護者だ」
オレの知らないところで、ふたりだけで行かれるよりはいい。
「じゃあ、成功率を上げることを考えるよ。
知識を吸収して、準備して、仲間を揃える。
わたしと、みきさんと、総司。それとソフィア」
「まだ、足りないな」
「そうだね。近接の戦士、あとひとり欲しいなぁ」
ストームの中では、やっぱりゲームなんだろうな。
まぁでも、前に出て戦えるヤツは欲しい。
オレだけじゃ、対応しきれない。
「ミラーじゃだめか」
「ミラーには、目的のこと話せないよ。
他に誰か、信頼できそうなのいない?
アッシュバレルの守備隊の誰かとかさ」
「いないよ」
「んん……総司に、信頼できる人物を求めたのが間違いだった」
「ストーム」
「うん?」
「おまえがコアを目指したい理由はなんだ。未希のためか?」
「違う。わたしが知りたいだけ」
「そうか」
なんだか、少し。
ストームを信頼してもいいんじゃないか。
そう思ってしまった。
「とにかくさ、エレメント・ノードに戻ったら、ソフィアに全部話す。いいよね?」
「おまえの判断に任せるよ。隊長」
「ん。分かった」




