5.2.19
翌日。
ストームカレンダー、290日目。
昼過ぎにアッシュバレルに到着した。
予定通りだ。
リュウタは、街には近寄らず、近くの雑木林に消えた。
餌も水も、自分でどうにかするだろう。
アッシュバレルに入り、まずは司令部へ。
エルハムの身柄は、ウィリアムに預けた。
衰弱しているが、まだ生きている。
この先、エルハムにどんな試練が待っているのか。
それはもう、どうでもいいし、興味もない。
これで、任務は完全に終わった。
セルヒオら、アッシュバレルの面々とも、そこで解散。
あとで、呑もうと誘われたが、オレは断わった。
ミラーと、ソフィアと、ミケルの3人が、あとで顔を出すと言っている。
「オレ達は、これからどうするんだ、ストーム」
「ん……未定」
腕組みをするソフィアが答えた。
「アーネストから、報酬とか貰えるんじゃない? 結構いい仕事したわよね」
「なら俺は酒だ。アーネスト秘蔵のスコッチを要求しよう」
「僕は、別になにもいらないよ。暇だったし」
ミラーと違って、ミケルは無欲だった。
そのふたりに、ストームが尋ねた。
「ミラーとミケルはどうするの? 隊に戻るの?」
「なぁんにも言われてねぇな。戻るとしたら、軍の本部か」
「僕は自由だよ。でも今夜は、ログアウトしたいな」
「そうだね。今日は宿でログアウトして、それから考えようか」
「みきも、お風呂はいりたい」
ふと、気になって、ログインデバイスを出した。
『 ELAPSED 2:26 』
なんだかんだで、10日くらい過ごしたようだ。
「ならオレは、穀物を貰いにメモリアへ行く。夜には戻る」
「んん。じゃあ、わたし達は宿で休もう。疲れたよ」
「みきも疲れたし、寝不足」
「まずは、ご飯ね。お昼食べましょう」
未希が言った。
「ルルは、どうなるの?」
ヘラジカのルル。
呼ばれたのが分かっているのか、耳を動かしながら、未希に顔を向けた。
未希が勝手に名付けてしまったが、そもそもこのヘラジカは、オレ達が自由に使っていい家畜ではない。
アーネストから一時的に借りているだけだ。
「とりあえず、厩舎に預けておきましょ」
「うん」
厩舎か。どこにあるんだ、そんなもの。
なにげなく、基地を見渡す。
小汚いバラックのところで視線が止まる。
リュウジのことを、すっかり忘れていた。
あのバラックは、リュウジが寝起きしていたボロ小屋だ。
そうか。
あのバラックにも、アッシュバレルにも。
この世界のどこにも、リュウジはいない。
リュウジだけじゃない。
もともと少ない知り合いが、少しずつ減っていく。
まぁべつに、死んだわけじゃないんだよな。
退場しただけだ。
現実世界のどこかの場所で。どこかの時代で。
残りの人生を続けているだろう。
その残りが数秒なのか、数十年なのか。
オレには、どうでもいいことだ。
忘れよう。
どうせ、ログアウトで、記憶も薄れる。
そもそも、あいつはヤクザ。
しかも、おそらく、死刑囚。
冗談じゃない。
現実世界で関わるなんて、バカげてる。
すっぱり忘れよう。




