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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
シェイプシフトデバイス
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5.2.18


 6時間が過ぎても、目覚めないリュウジを眺めていた。


 異変に気付いた他の連中も集まり、焚火の横で眠るリュウジに視線を落とした。


 その場でオレは、2つのルールを教えてもらった。


 6時間ルール。

 ログアウトしたプレイヤーが、6時間で戻らない。

 それが意味するもの。

 それは、2度とログインしてこないということだった。

 リュウジはカウント24から退場したということ。

 なんとも分かりやすく、救いようのないものだった。


 ふたつ目は、1000日ルール。

 ログアウト後、ログインしないまま1000日が経過すると、そのカウントから強制BAN。

 ログインデバイスのカウントが1つあがり、前のカウントにログインすることができなくなる。

 それが1000日ルール。


 このルールは、未希も知っていた。

 未希が初めて、ニフィル・ロードにログインしたのは、母親の死からおよそ3年後。

 小学校3年生の頃だ。

 未希は、1000日ルールの適用で、母親の遺品であるログインデバイスから、カウント23にログインした。


 つまりリュウジは、ログアウトしてから1000日以上、ログインできなかったということだ。


 足元に転がっているリュウジは、いわば死体。

 そういうことになる。


「リュウジのヤツ……刑務所いったのか」


 横にいたソフィアに聞こえたようだ。

「え? 何か言った?」


「いや、なにも。どうするんだ。これは?」

「どうするって。埋める? 野ざらしは嫌でしょ」

「埋めるって……埋めていいのかよ、これ」


 リュウジのカラダは、ログアウト状態のままだ。

 呼吸はしてないが、生きているように見える。


 ふと、リュウジの腰のポーチに目が留まる。

 開けると、乾燥してコチコチになったバナナの皮が2本。


 これを咥えて、バカみたいに笑っていたリュウジの顔が、脳裏を過る。

 なんだか少し、寂しい気持ちを覚える。

 夕べの話しが本当なら、無期懲役でも安い。


 それにしても、あれが最後か。

 やっぱり、少し、悔いがある。


 まぁいいか。

 なんだか、また、会えるような気もする。


 オレは、消えかけた焚火の灰をひっくり返した。

 いまだ燻る火の粉を集めて、バナナの皮に火を点けた。


 勢いよく吸い込み過ぎて、少しむせた。


 口の中に広がる煙は、ただの煙。

 それでも、吐き出す煙は、ほんのりと甘ったるい匂い。



「おら、ソウジ。ぼーっとしやがって。帰り支度すんぞ」


 呼ばれたので、視線を向けると、ミラーが睨みつけていた。

「ああ、すまん」


 ミラーとセルヒオは、ソリを組み上げていた。


 このソリは、ずっと昔に見たことがある気がする。

 いつのことか、もう思い出せない。


 2本の太い木を並べ、間に枝を何本も渡してツタで縛り、梯子のようなものを作った。

 しかしそれは、梯子ではなく担架だ。

 なぜかオレは、それを知っている。


 その担架にエルハムをのせて縛りつける。

 そのまま、地面を引きずられるよりはマシだろう。

 でも、大して変わらないかもしれない。

 乗り心地は、たぶん最悪だ。



 リュウジは、結局埋めた。

 深くは掘らない。

 めんどくさいし、時間もない。

 盛土の隙間から、ズボンやベストの一部がはみ出ていた。


 焚火の石炉は、墓標代わりにそのまま。



 オレ達は9人で、キャンプ地を離れた。

 このまま、アッシュバレルを目指す。


 道は、ずっと下りの斜面らしく、明日の昼には、着くだろうとセルヒオが言った。



 歩き始めてしばらくすると、背後で、遠吠えがあがった。

 驚いて振り返ると、石炉の傍らで空を見上げていたのは、リュウタだった。


 その遠吠えは、長く、どこまでも長く。

 晴れ渡る朝の空に、響き渡っていた。

 今まで聞いた、どの遠吠えよりも美しいと思った。


 ああ。そうだ。

 そうだよな。


 リュウタにとって、リュウジは第二の父親。

 そうか。

 おまえはまた、父親を失ったのか。


 思えば、リュウタって、リュウジの子供の……



 いや、いい。

 やめよう。


 どうでもいい。

 リュウジも話さなかったことだ。

 そのくだりを、考えるのはやめよう。



 じゃあな。

 あばよ、リュウジ。



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