5.2.16
エルハムは、すぐに口を割った。
厳密には、右手の枝で地面に文字を書いた。
エレメントは4つある。
知恵、正義、信頼、勇気。
当初の予想では、スパイの所属は正義だと考えられていた。
しかし、エルハムは、正義であることを否定した。
本人の主張は無所属。
強いて言うなら、信頼のエレメントだと、地面に綴った。
もちろん、信じるわけではない。
エルハムが素直に答える必要は、どこにもないし、それを裏付ける手段も、ここには無い。
それでも、信憑性を上げたのは、潜伏理由だった。
エルハムは、主神ルートクリアのためだと書き綴った。
主神ルートは、すべてのエレメントから1名。
合計4人がルミナス・コアに集結し、コアを再生するのが目的だ。
再生に成功すると、エレメント・ノードは全て破壊される。
この世界は、ルミナス・ノードとメモリアを残し、崩壊するのだ。
そして、次のカウントに進む。
ワールドカウント25で、新たなエレメント・ノードが4つ出現する。
たしか、そんなルールだ。
エルハムの証言では、知恵エレメントに潜伏したのは3人。
他にも複数の仲間が、それぞれのエレメントに潜伏していると文字を綴った。
オレも、聞きたいことを1つ尋ねた。
「そこまでして、主神ルートにこだわる理由はなんだ?」
エルハムが、枝で地面に文字を綴る。
疲労か、痛みか。腕の走りは遅い。
(正義エレメントの連覇を阻止する)
それがエルハムの回答だった。
その文字に、セルヒオとミラーは、深く頷いた。
「どういうことだ?」
セルヒオが答えた。
「正義エレメントの3連覇って、どういうことか分かるか?」
「わからん」
「知恵のエレメント・ノードはまだ1年だが、正義のエレメント・ノードは存続150年。文明のレベルが、他のエレメントとは、まったく違うんだよ」
「文明レベル? よく分からないな」
「例えば馬だ。俺達の馬は。ようやく1歳だが、正義のエレメントは繁殖を繰り返し、それこそ全員が乗れるくらいの馬がいるだろう。
町や要塞も、俺達のように、新しく作る必要がない。
それどころか、拡張と強化を繰り返している。
喩えるなら、俺達の文明はレベル1。
正義エレメントの文明はレベル150。
これでどうだ。少しは理解したか?」
「……なるほど」
ピンとはこないが、なんとなく分かる。
「それだけじゃねぇぞ。あとは人数だ」
「正義エレメントの方が多いのか」
「あたりめぇだろ。勝てる可能性のあるチームに加わったほうが、おこぼれが拾える可能性も高くなる。
軍の推測だと、正義には、4倍から5倍の人数がいるだろうってハナシだ」
信じられない。
知恵エレメントは8000人くらいだと聞いている。
だとしたら、正義だけで3万から4万のプレイヤーがいるってことかよ。
産業の差と、人数の差。
「それは、確かに、勝てないな……」
「だろう」
「でも、勝つつもりなんだろ? どうやって?」
「そこで今回は、知恵と信頼で同盟を結び、正義を叩こうってハナシも進んでるらしい」
「へぇ……」
外交、ってことか。
話がデカすぎて、オレにはイメージできないな。
まぁ、4倍以上の敵と戦うんだから。
同盟くらいしか、縋るものも、ないのだろうな。
「そんなわけでよ。正義の連覇を止める手段としては、最悪、主神ルートクリアもアリってことになる。
主神ルートだと、エレメントはぜんぶ負けちまうが、正義も負ける。最後の手段だな」
「なるほどな」
「まぁ、エルハムの言ってることも、ただの言い逃れかもしれねぇし。本当は正義のスパイの可能性もある。とっとと軍に突き出して、真実を吐かせちまおう」
「エルハムの証言の裏付けは取れるのか?」
「まぁな……」
「どうやって?」
「どうやってって、取れるに決まってんだろが。
ここがどういう世界か、まだ分かってねぇのか?」
分からん。
分からんが、エルハムの尋問は、終わったようだ。
本人も、少しホッとした顔をしている。
それでも、食事を与えることは禁止された。
なぜなら、猿ぐつわの布を解くことができない。
その布を水で湿らせて、水分だけは与える。
優先すべきは、エルハムを生かした状態で、軍に引き渡すこと。
それから、オレ達は食事。
食糧はたっぷりある。
酒もたっぷりだ。
心配なのは、リュウジだった。
ケガが重く、飯を食べるのも辛そうだ。
オレも、セルヒオも「ログアウトしろ」と勧めた。
しかし、リュウジは「まだいいよ」とはぐらかした。
食事を済ませてから、見張りの当番を決めた。
今夜の見張りは、2人体制になった。
焚火の番と、エルハムの監視。
オレは寝不足なので、ストームとペアで1番にしてもらった。
ストームも、かなり眠そうだった。
「わたしは、エルハムのところに行ってる。ソウジは焚火を見てて」
そう言い残し、エルハムが縛られているところへ歩いていった。
そういや、聞きたいことがあるとか言ってたっけ。
オレは、ストームとエルハムが見える角度で、焚火の傍に座った。
すぐ横では、仰向けのリュウジが呻き声を上げている。
ケガの重いリュウジは見張り免除。
「リュウジ、ログアウトしろ」
「おぅ。こんな傷どうってことねぇよ。唾つけときゃなおる」
頭の包帯はどす黒く染まっている。
滲みだした血が垂れたのか、地面の上にも黒い染みができていた。
とても、そんなやわな傷には見えない。




