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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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354/372

5.2.12


 オレ達の足は、完全に止まった。


 ストームは、考えを整理すると言ったまま静かになった。

 未希は、リュウタを抱きかかえたまま、灰色の首元に顔を埋めている。


 ときおり、遠くから、オオカミの遠吠えが聞える。

 その距離は遠いままだ。

 ミラーとミケルは、周囲に目を配り、警戒した。


 オレは未希のところまで歩み寄り、近くに腰を下ろした。


「おにいちゃん……」

「うん?」

「オオカミの群れが、リュウジさんたちに追いつきそう」


 群れが向かっているのは、セルヒオ達のところ。

 オオカミの数は分からないが、あいつらは5人。


 ミラーが言った。

「助けに行ける距離じゃねぇな。遠吠えの感じでも10キロはある」


 ストームが顔をあげた。

「潜伏してるエルハム達がオオカミに偽装している理由ってさ、自分達が襲われないためかな?」


 ソフィアが苛立たしそうに言った。

「なによそれ。オオカミのフリして、オオカミの縄張りを隠れ家にしてるってこと?」


 もしそれが出来るのだとしたら。

 何カ月も見つけられなかった理由にもなる。

 縄張りに踏み込んで、オオカミの遠吠えが聞こえたら、大抵のプレイヤーはそこから立ち去る。

 まさか、そこに潜んでいるなんて、考えるはずもない。


「おい、ミラー。エルハムってどんな魔法を使うんだ?」

「俺もよく知らねぇが、ストームの嬢ちゃんみたいな万能型だって聞いてるぜ」


「おまえは同じことができるか? ストーム?」


「んん。みきさんみたいに、友達になるのは無理だけど……

 オオカミの知識が深ければ、偽装くらいならできるかも」


 リュウタに抱きついていた、未希も顔を上げた。


「リュウタとはね、違うオオカミみたいだよ。

 カラダが小さいみたいで、匂いもなんか違う。

 リュウタのほうが綺麗好きかな。

 あとね、灰色オオカミよりも、縄張りが狭いかも」



「種類の違うオオカミか」


「もしかしてさ、イベリアオオカミかな?」

 ミケルが言った。


「それは、どんなオオカミだ」


「灰色オオカミより一回り小さくて、縄張りも小さい……って、狭くしたのは人間なんだけどね。

 いつのまにか、農場の隣に縄張りがあったりするから、家畜を襲うし、近寄る人間を威嚇してくるんだよ。

 だから、イベリアオオカミに詳しいスペイン人は少なくないよ。農場の経営者なら、マーキングの匂いでも分かっちゃうかも」


 誰ともなく、顔を上げて質問した。

「エルハムは、アメリカ人だが、他の2人はスペイン人だよな」

 ソフィアも、それに続いた。

「そのふたりも攻撃魔法職だけど、3人で知識も、技術も、持っていたと考えていいかもしれないわね」


 ミラーが珍しくため息をついた。

「ってことはだ。

 車輪の跡は、討伐隊をオオカミの縄張りに誘い込むための罠。

 自分たちは、オオカミに偽装して、縄張りそのものを隠れ蓑にしていた。

 最悪な筋書きだが、繋がるっちゃ、繋がるな」



 最悪だ。言葉もない。

 行方不明の討伐隊も、同じ仕掛けで全滅したのだろうか。


「あ……終わった、みたい」

「え?」


 未希が、俯いていた。

「あのね、プレイヤーの動きは、遠すぎてわかんないけど、オオカミの動きは分かる。駆け回る振動がおさまったから、たぶん終わった」


 終わったとはつまり。

 セルヒオ達が全滅したか、逃げたか。

 簡単にやられる連中じゃないとは思うが。

 リュウジもいよいよ、年貢の納め時か。


「これからどうする。ストーム」


「んん。みきさんに聞きたいことが2つ」

「なぁに?」


「リュウタは、この先に進んでも大丈夫?」

「森の先からオオカミのおしっこの匂いがするから、途中から縄張りに入ると思う。リュウタだけじゃなく、みきたちが入っても襲ってくるんじゃないかな」


「みきさん、エルハムまでの距離はわかる?」

「この森を抜けた丘の上だと思う。たぶん2キロか、2キロはない」


 ミラーが、頭を掻きむしった。

「かーっ、まいったな。

 3人中、2人ログアウトしてるとしても、俺達が入ったら、オオカミが襲ってくる。

 その前に襲うにしたって、あいつらは銃を持ってるんだよな。丘を駆け上がるなんて、いい的だぜ」


 ストームが言った。

「大丈夫。手はある。エルハムとスペイン人を、罠で嵌め返す」


「あん? どうやって?」

「わたしの論文……ハッキングを試すいい機会」


 オレを含め、ストーム以外の全員が声を揃えた。

「はぁ?」


 ストームに集まった視線だけが、語っていた。


 (なに言ってんだコイツ)



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