↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント24
35/461

3.3.08


 陽が落ち、辺りが暗くなったころ。


 シラスが裏口から顔を出した。

「水はまだ必要だが、疲れたろう。少し休め」


 シラスの眼にも、疲労の影が滲んでいる。

 ドアの先の台所から、下町の酒場のような酒の匂いが溢れ出していた。

 ガスコスの姿も見えるが、テーブルも床も血まみれだった。


「まだ、状況は深刻だ。3日か、4日。そこを過ぎて生きていれば、ガスコスは助かる。また明日、様子を見に来い」

 言い終わると、シラスは台所に戻りドアを閉めた。


 間もなく、陽も完全に落ちそうだ。

 裏口から、建物の正面に周る。

 あちこちの民家から漏れる生活の灯りが、道がある場所をうっすらと照らしていた。


 すると、ゴトゴトと、薪を積んだ台車を引くクラゲが通りかかった。

「よう、ソウジ。ガスコスはどうだ?」


「さぁな。それより、世話になったなクラゲ。ありがとう」

「いいってことよ。お互い様だ。ソウジはこれからどうすんだ? 泊まるとこあんのか?」

「いや。無い」

「じゃあ、今夜はおれんち来るか。泊めてやるぞ」

「すまない、助かる」

「じゃあソウジ、宿泊代の前払い代わりに、後ろから台車押してくれ」


 この世界は地獄だ。

 なのに、出会うヤツはイイ奴ばかりだな。


 台車を押して、クラゲの家に案内された。

 暗くて分かりにくいが、クラゲの家は小ぶりの民家だった。

 クラゲが、暗闇からドアを探り当てて押し開けた。


「残念ながら独り身だ。まぁ入れや」


 クラゲが火打ち石をカツンと何度か打ち鳴らし、蝋燭に火を灯した。

 中に入ると、カビ臭くホコリ臭く、その2つを上回るワキガ臭に襲われた。


 住居の中は窯とテーブル、2脚の椅子。

 奥には、藁のベッドがひとつ見える。

 長方形の部屋に、生活設備の全てが備わっていた。


「腹減ってんだろ? ちょっとまってろ」

 クラゲが、窯に火を灯す。鍋でなにかを作ろうとしている。


 オレは、テーブルの椅子を引いて腰を下ろした。

 左手を叩いて、ログインデバイスを呼び出す。

 『ELAPSED 00:22』

 ニフィル・ロードに来て、36時間半が経過したようだ。



「お……ソ、ソウジ……お、おまえ」


 視線を向けると、クラゲが眼を丸くしていた。

「お札かそれ? え、ソウジは……わたしびと様か」


「ああ……そういえば、そうだったな」


 クラゲは、言葉を放ったまま口を開けている。


「ま……まぁいいや」

 クラゲはまた背中を向け、固そうなパンと豆を鍋に入れて、ぐつぐつと煮込み始めた。


「タダもんじゃねぇだろうとは思ってたが、まさか我が家に、わたしびと様かよ」


「クラゲ。おやしろって知ってるか?」


「おお、もちろん知ってるよ。村の北西のはずれにある。

 明日……も、仕事あるから案内はできないな……

 だから明日、酒場の場所を教えてやる。そこでお札を見せれば、誰か案内してくれるんじゃねぇか」


「渡し人様は、そんなに特別なのか」

「そりゃソウジ、この村の創始者で救世主様だ。そうかソウジは、おやしろを探しに来たのか。なるほどな」


 クラゲは、うんうんと、頷きながら、鍋をかき回している。


「おやしろはどんな所だ?」

「村の者は、中に入れないから中身までは知らないが、敷地の中に石造りの家がある」


「入れない?」

「そうだ。なんか幕みたいのがあってな、入ろうとしても入れない。お札を持つ者しか入れないって言われてる。ソウジなら入れるんじゃないか?」


 クラゲが、木のボウルに鍋のシチューを掬い、テーブルまで運んだ。

「ほら、喰え。言っとくが不味いぞ」

 クラゲが木のスプーンをオレに手渡す。

「ありがとう」

 クラゲが窯に戻り、自分のシチューを掬う。

 それからテーブルに戻り、オレの向かいに腰かけた。


 ボウルに注がれているのは、豆を溶かし、ふやけたパンの切れ端が浮いた、どろどろのシチューだった。

 そして、ところどころに、草が浮いている。

 口に運ぶと食感は粘土のようで、ダシも何も無く、不味い以前に味がしない。

 残る風味は、この部屋と同じワキガ臭だけだった。


「ソウジが、わたしびと様とはなぁ。それならガスコスが命張ったのも分かるよ」

「まぁ、あれは半分オレのせいだな」


「そうなのか? 聞いた話でしかないが、あいつのオフクロ、ガロムだったか。この村で、わたしびと様に命救われてんだよな」


 シチューを口に運びながら、クラゲは続けた。


「まぁ、救われたのはガロムだけじゃなくて、村中のやつらが救われているらしい。って言っても、もう50年前の話だな。おれも含めて、若いやつは何も知らねぇ」


 とにかく……明日、おやしろに行ってみよう。

 なにか分かるはずだ。


「とりあえず、今夜はゆっくり休め。疲れてんだろ?」

「ああ、そうさせてもらう」


 クラゲと2人で、シチューを食べ終わる。


「ソウジはこっちだ」

 クラゲは、梯子の上を指さした。

 昇ると、中二階のようになっていた。

 ズタ袋や壺が乱雑に並んでいる。

 横になれるスペースはあるが、布団になるようなものは無い。

 オレは板の上に寝ころび、マントをくるむ。


 ログアウトしようかと思ったが、それだとまた現実世界で30時間待たされる。

 あと何日か、このまま過ごそう。


 起きたら、ガスコスの様子を見て……


 そのあとは酒場で「おやしろ」の場所を聞いて……



 それから……



 ……




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。