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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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5.2.05 - 光が主役


 ルミナス・ノードは、夜だった。


 エレメント・ノードと同じような空き地。

 こちら側の広場の中央にも、知恵の石像が佇んでいる。


 違うのは、広場を囲う壁。

 こちら側は、灰色のレンガを積み上げた石壁に囲まれている。


 石壁もそうだが、ゲートはさらに厳重だ。

 鉄の割合が多い。

 地下牢の鉄格子に、分厚いオークの板を嵌め込んだようなゲート。

 そのゲートが、横にスライドして、半分開いている。


 外には、数軒の木造の小屋が建ち並んでいた。

 あちこちで焚火や、かがり火が炎を上げ、地面や建物を照らしている。

 夜空には薄い煙が立ち昇り、パンやシチューの匂いが漂っていた。


 荷駄隊の連中は、きびきびと動き回り、荷車から荷物を降ろしている。

 それを手伝っていたミラーが、オレを睨んだ。

「おらぁ、ソウジ。おまえも手伝え」


 ……わかったよ。


 オレも荷下ろしを手伝う。

 荷車の荷物を担ぎ上げ、それを倉庫のような建物の近くまで運ぶ。


 物資は、穀物や野菜といった食糧。

 斧やハンマーといった鉄製の工具。

 釘や、砥石。油や、塩。


 ミラーに問いかけた。

「ここにも、要塞を建てるのか」


「おぅ。知恵の石像見たろ。

 あれが壊されたら、俺達の負けだからな。

 まずはここに、防衛できる城を建てる。

 守りを固めて、攻め込んで来る連中を追い払う。

 そんで俺達も、他のエレメントの城に攻め込む」



 ……またその話か。


 ルミナス・ノードは、4つあるエレメント同士で戦争をする世界。

 オレ達、知恵のエレメント以外にも、3つのエレメントが存在するらしい。

 他の3つのコアが壊されて、残ったコアを守り続けたエレメントが勝利。


 だったか?

 その勝利を目指すアーネストも、ミラーも、荷駄隊も。

 それだけじゃなく、数千人か数万人のプレイヤーも、みんな、エレメントの勝利を目指している。


 オレには、分からない。


 だからミラーに尋ねた。

「ひとつ聞きたいんだが」

「あん?」


「なんで、勝利にこだわる? 知恵のエレメントが勝つことに、どれだけの価値があるんだ?」


 ミラーは、荷下ろしの手を休めることもせず、迷いなく言った。

「しらねぇよ」


「は?」

「俺ぁ、今回で3度目の参加だが、まだ勝ったことがねぇからなぁ。勝つことになんの意味があるかなんて、しらねぇ」


「知らないのに、こんな重労働を、文句もいわずにやってるのか」

「じゃあ聞くけどよぉソウジ。おまえはなんで、ここにいるんだ?」


「え?」

「なんでソウジは、いまここで、こんな重労働をしてるんだっての」


「……なんでだろうな?」


 ミラーが、鼻で笑う。

「ックク。ほらな」



 たぶん、未希の願いを叶えるため……

 だと、思うが、少し違うかもしれない。


 考えてみたが、答えが見つからない。


「おらソウジ、手が止まってんぞ。とっとと終わらせようぜ」

「……ああ」



 荷下ろしが終わると、休む間もなく、帰還が告げられる。


 また夜空を見上げながら、ゲートへと向かった。

 キラキラと、よく輝いている。


 いずれは、このルミナス・ノードの中心にある、ルミナス・コアを破壊しにいくんだよな。

 それは、どこにあって、どれだけ遠いのか。

 ルミナス・コアは、どんな形をしているのか。


 ここからじゃ、なにも分からないな。



 カラになった荷車と、ヘラジカの群れが、ゲートの前に集まる。


 戻るのも、入ってきたときと同じだった。

 ログインデバイスで呼び出した、風船のような虹の膜に呑み込まれる。


 ルミナス・ノードに滞在していたのは、10分くらいだろう。

 オレ達は、夜中の世界から、昼下がりのエレメント・ノードに戻った。

 急に昼間の世界に戻ったので、日差しが少しヒリついた。



 今日は、ここで野営。


 オレ達も、割り当てられた焚火の火を起こし、ぐつぐつと鍋で湯を沸かす。

 囲むのは、未希とストーム。それとソフィア。

 ソフィアが、トイレの芳香剤のような香りのハーブティーを煎れた。

 匂いは気になるが、リラックスできる。

 受験勉強がはかどりそうな味だ。


 ひと息ついたところで、ストームに尋ねた。

「オレ達はどうするんだ? 噴水広場に戻るのか?」


「このままルミナス・ノードを探検しに行きたいんだけど、その前にもっと知識が欲しいよ。なんにも分からないから」


「そうだな。だれかに聞くしかないか」


「ねぇ、ソフィアは知ってる? ルミナス・ノードのこと」

 ソフィアは鍋に視線を落とし、ハーブの出汁で豆や干し肉を煮込んでいる。


「私も、深くまで入ったことはないわよ。馬の世話とかでちょっと行き来しただけ」

「そっか。次は、明るい時間に行きたいんだけど。いつ行けば、ルミナス・ノードは朝なの?」


「あら、なんにも知らないのね?」

「んん?」


「ルミナス・ノードは、常夜の世界。いつ行っても夜よ」


「え……? ルミナスって光るとか、輝くって意味だよね?」

「その通り。だからこそ、ルミナス・ノードは、光が最も輝く常夜の世界。この世界を造った誰かさんは、ずいぶんロマンチストみたいね」


「じゃあずっと夜で、星と月の明かりしかないの?」

「そうね。昼間のルミナス・ノードは、見たことも、聞いたこともないわ」


「ルミナス・ノードって神様がいるんだよね。神様はずっと夜の世界で過ごしてるの?」


「神様って言ってもねぇ……

 いるのかどうかも分からないし。っていうか、あんな真っ暗な世界にいるんだから、ひょっとしたら悪魔なんじゃない?」


 背後で足音がした。

 振り向く前に、男のだみ声が流れた。

「神様も、悪魔もいやしねぇよ」


 振り向くとミラーの姿。

 その後ろにも、壮年の男。

 今回の荷駄隊の隊長、アーネストだった。


「この世界にいるのはなぁ、敵と味方、それと裏切者だけだ」

 気が合うな。ミラー。

 オレもそう思う。


 ソフィアが、ふんと、顔をそむけた。

「なによミラー。なにか用?」


 ミラーではなく、アーネストが答えた。

「おまえ達に、仕事の依頼だ」



 ああ。

 またかよ。



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