5.2.04 - ルミナス・ノード
エレメント・コアの緩い丘。
その場所は、丸太を組んだ壁に囲まれている。
壁は高く、3メートル以上はあるだろう。
壁の周囲では、常に複数人のプレイヤーが巡回しているのが見える。
南側には大きな2枚扉のゲート。
重そうなかんぬきが鎖で縛り付けられ、厳重に閉じられている。
その両脇に、門番らしきプレイヤーが4人。
ゲートの前に、荷駄隊の20人が集まると、アーネストから簡単な注意事項。
勝手にログインデバイスを出すな。
荷物を下ろしたらすぐに戻る。
勝手な行動もするな。
最後に、質問はあるかと問われたが、誰からも声はあがらなかった。
アーネストが門番に合図を出す。
鎖を解き、4人がかりで、かんぬきを下ろす。
そしてまた、4人がかりで扉を押し込み、地面を擦る音を響かせながら、分厚いゲートが開いた。
中は、ゆるい丘があるだけの空き地。
その中央に佇んでいるのは、エレメント・コアと呼ばれる石像。
噴水広場にあるものとおなじ、知恵の石像。
以前見た場所だ。
違うのは、高い塀に囲まれているということ。
広さは、空き地くらい。野球場の内野部分よりも広い。
まず最初に、副官のウェストンが中へ入る。
左手を叩いて、ログインデバイスを出現させた。
ウェストンの指が、デバイスの画面に触れる。
すると、知恵の石像から、半透明の虹の膜が出現した。
その膜は、これまで見たログインゲートとは、異なる形態だった。
知恵の石像を中心に、半円の球体の膜が、風船のように拡大していく。
それを見た荷駄隊のプレイヤーが、ヘラジカの尻を叩き、風船に向かって進んでいく。
虹の風船は拡大を続け、ヘラジカの荷車を次々と呑み込んでいった。
半透明なので、膜の先の丘も石像も見える。
なのに、呑み込まれた先から、荷車が次々と消滅していく。
風船の膜は、丸太の壁の少し手前まで拡大すると、霧散するように消えてしまった。
ヘラジカの荷車も、ウェストンも、そこにはいなかった。
空き地に残っていたのは、知恵の石像だけだ。
未希も、ストームも、ぽかんと口をあけたまま、その光景を眺めていた。
「……みんな、消えちゃった?」
「ルミナス・ノードに飛んだのかな?」
膜が出現していたのは、10秒前後だと思う。
その間に、膜に呑み込まれた荷車は3台。
次に中に入ったのは、ハートリーだ。
先ほどのウェストンと同じように、ログインデバイスを操作し、ふたたび膜を出現させた。
残った3台の荷車が、虹の膜に突入し、膜が霧散すると、その場所から消えてしまった。
まるで、大がかりな手品。
イリュージョンだ。
「最後は、私がデバイスを出す。全員、ログインゲートに駆け込め」
アーネストが、中へ入る。
同じ手順を繰り返すと、また虹の膜が膨らむ。
ソフィアが言った。
「走るわよ。入ったら目を閉じて」
オレ達は、虹の風船に向かって駆けた。
最初に未希。次にストーム。
オオカミのリュウタも未希の後を追って、膜に飛び込んだ。
ソフィアや、ミラーは、オレ達が駆け込むのを待ってくれている。
荷駄隊のメンバーの中で、ルミナス・ノードへ初めて渡るのは、オレ達だけなのだろう。
オレも膜に触れたが、なんの匂いもなく、感触も感じない。
触れた先から手や足の先が、消えていくだけ。
形は違うが、性質はログインゲートと同じものだ。
まもなく全身が、虹の膜に呑み込まれた。
光が迫る前に目を閉じる。
スポットライトを当てられたような光が、目蓋にのしかかる。
しかし、それは数秒でおさまった。
目を開けると、そこは夜だった。
視線の先には、灰色のレンガが積みあがった壁が、松明の灯りに照らされていた。
ガラガラと、荷車の車輪が回る音が聞こえる。
ふと空を見上げる。
斜め上の高いところに、煌々と輝く満月が浮かんでいた。
それ以外のソラに浮かぶのは、満天の星。
これがルミナス・ノード。
まだ夕方にも満たない時間だった。
にもかかわらず、エレメント・コアの先の世界は、真夜中だった。




