5.2.03
アッシュバレルには、明朝まで留まると告げられた。
荷駄隊のメンバーは、いったん司令部前で解散。
未希達とは宿屋の前で別れ、オレは久々に自分のテントへと戻った。
テントと焚火とベンチしかないが、そこがこの世界の、オレの家だ。
公共施設だと思われているので、今日も知らない男が、ベンチに座って焚火にあたっていた。
もう慣れたので、とくに驚くような光景ではない。
好きに使ってくれて構わない。
とにかくオレは、自分の敷地に入り、ログインデバイスを出す。
そして、メモリアのヴィルゴ王国へ飛んだ。
飛んだ先は、モルウェナの屋敷。
昼間だったせいか、モルウェナもアルクも不在だった。
オレは、屋敷を出て、王城へと向かう。
なんだか、城も町も活気がなく、重苦しい雰囲気があった。
城内に入ると、あちこちでヒソヒソと話す声。
身分の高そうな男達が、隅の方で会話をしている。
無視して、近衛騎士の詰所へ。
女王の側近とは、だいたい顔見知り。
ローウェンナとの面会を取り付け、広間へと足を運ぶ。
広間では、人払いもしないまま、女王ローウェンナと会話をした。
もともと、多くを語らう間柄ではないが、今日は珍しく、外交訪問に参加してくれないかと懇願された。
残念ながら、今はオレも、それどころではない。
どうやら、ヴィルゴ王国は、外交圧力に揺れている最中だった。
ウルス皇国に嫁いだセレンの影響で、軍事協力の要請が届いているらしい。
要するに、戦争参加と軍事支援だ。
国としては、戦争には関わりたくない。
派兵すれば、勝っても負けても国民が死ぬ。
勝っても、ウルス皇国の評価が上がるだけ。
負けたら、莫大な賠償を突き付けられることになる。
得することはなにもない。
しかし姉としては、ウルス皇国にいる妹を喜ばせたい。
ローウェンナは、いつも妹のセレンを気にかけている。
よって、ローウェンナは、戦争参加肯定派。
この国の女王は、他国に嫁いだ妹の保身のために、ウルス皇国への軍事支援を推しているのだ。
まぁ……そんなもんだろう。
民衆の命の消耗なんて、政治家から見れば、数字でしかない。
国のためだなんだのと御託を並べてはいるが、根底にあるのは自分勝手なわがまま。
そして、ローウェンナがオレに期待するのは、世論の操作。
戦争参加の機運を高めること。
そのために、英雄の名声を使いたい。
あいかわらず、狂っている。
民衆のために英雄が立ち上がるとするならば、この国を潰すことなんじゃないだろうか。
まぁ、いずれにしても御免だ。
そういうのは、25年後。
次のプレイヤーに任せよう。
オレには、興味がないし、巻き込まれたくもない。
オレは、ゲストナイトとしての俸禄である穀物とワイン。
それを受け取って、アッシュバレルに戻った。
外交の件は、きっぱりと拒否。
穀物50キロは、すべて、黒ヒゲパン屋に降ろす。
すぐ隣だから、運ぶのにも時間はかからない。
ワインは16本。
うちワイン12本は司令部に運ぶ。
司令部では、ウィリアムとアーネストが、なにやら話し合っているところだった。
オレに気がついたウィリアムが立ち上がり、ツカツカと歩み寄ると、酒臭い口を開ける。
守備隊の任務を放棄して、何日も不在だった件の文句をまくし立てる。
悪いなんてこれっぽっちも思ってないが、住み心地を悪くしたくない。
だから、ワインを持ち込む。
アッシュバレルの名の通り、ここでは酒が、なによりも説得力のある通貨だ。
ウイリアムも、ワインを見せたら静かになった。
オレが持ち込むアップルワイン=ヴァージンヴェールは、10日に一度だけ持ち込まれる最高級ワイン。
この基地でも、人気最上位のワインに格付けされていた。
オレはそのワインを、無償で司令部に卸している。
酒が持ち込まれて、よろこぶ司令官。
コイツが、いつクビになるかも分からないが、おかげで、どれだけ好き勝手にしていても、文句を言われずに済んでいる。
だから、また明日からも、好きにさせてもらう。
オレも今夜は、宿屋に泊る。
顔なじみの店主に、宿賃の代わりにワインを2本渡す。
残った2本のワインは、オレ達の今夜の晩酌となって、腹に流し込まれた。
翌朝。
荷駄隊は東の森へと出発した。
ウィルコープスの脅威は、もはや皆無。
エレメント・コアまで続くと思われる車輪の跡が、森に向かって続いている。
荷駄隊はその道を辿って、森へと入った。
この森を歩くのも、数カ月ぶり。
ウィルコープスの死体はどこにもなく、この森で殺戮があったという面影も、綺麗に消滅している。
森の奥へと続いているのは、別の荷駄隊が踏み荒らした足跡と車輪の跡だけ。
オレ達もその道を辿り、エレメント・コアへと旅を続けた。
ウィルコープスが徘徊していた頃のこの森は、やけに広く、どこへ行くにも遠く感じたが、脅威が無くなった今となっては、たいした距離ではなかった。
こんなに近くにあったのかと思うほどに、それは近かった。
荷駄隊は、夕方にもならないうちに、森を抜けた。
伐採されまくった切り株だらけの平地。
たぶん、森だった場所の成れの果て。
進む先に、丸太を組んだ木造の壁。
小さな丘を取り囲んでいる。
その丘を中心に、森は広く切り開かれ、何十軒ものバラックやテントが建ち並んでいた。
ざっと見渡した感じでは、ニュースで見る、難民キャンプのような光景だった。
違うのは音だ。
近づくにつれ、その雰囲気は、大規模な建設現場そのもの。
多くの人影が行き交い、甲高い掛け声を上げている。
絶え間なく聞こえてくるのは、木槌を打ち込む音や、ノコギリを引く音。
中央の丘付近にだけ、何軒かの2階建ての木造建物が存在していた。
オレ達の荷駄隊は、そこに向かって進んでいく。
それにしても、驚いた。
この地を征服したのは、ほんの2カ月前だ。
あのとき、この場所には、森と丘しかなかったのだ。
それがどうだ。
エレメント・コアの様相は、まるで違うものだった。




