5.2.02
先頭を歩くのは、アーネストとハートリー。
その後ろから、未希とストーム、ソフィアが続く。
オレは、前を行く5人の背中を眺めながら歩いている。
オオカミのリュウタだけが、隊列から少し離れたところを、トコトコと歩く。
ときおり姿が見えなくなるが、気がつくとまた見える場所に戻っていた。
周囲を警戒してくれているのだろうか。
あるいは、自分だけおやつでも食べているのか。
それとも、ヘラジカに気を使っているのか。
真後ろには、ガタガタと車輪を鳴らす荷駄隊が続く。
荷車は6台。左右をプレイヤーに守られた状態で、一列に伸びている。
少し奇妙に感じるのは、ヘラジカのツノ。
ツノの生えたヘラジカは、先頭の荷車を引く2頭のうちの1頭だけだった。
残りの11頭のヘラジカには、すべてツノが生えていない。
ソフィアに聞いたら、11頭はすべてメスらしい。
1頭のオスは、ヘラジカの群れのリーダーなのだそうだ。
群れがパニックを起こさないための工夫らしいが、オレには、さっぱり分からない。
遠く、最後尾を歩くのは、副官のウェストンとミラー。
荷駄隊の列は長く、たぶん30メートル近く離れている。
それにしても、未希とストーム。
以前と比べて、だいぶ旅慣れていた。
初めて、この道を辿ったときは、半日で疲れが滲み、夕方になると歩けないほど疲労した。
未希が疲労を誤魔化す魔法をかけて、めちゃくちゃにしたのが懐かしい。
最初の調査遠征に参加した日から、9カ月くらい経過している。
あの頃は、すべての他人が険悪に見えたものだが、今では知り合いも増えた。
ミラーやソフィアには、何度も命を助けられ、逆にオレ達が助けることもあった。
アーネストも頼れる指揮官だ。
まぁだからといって、信用するつもりはない。
だが、信頼はしている。
いつかの果てに、裏切るか、裏切られたとしても、積み重ねてきた関係は、確かに存在している。
裏切りで得られる利益とは、積み重ねてきた信頼の対価そのもの。
代償の大きさは想像もつかないが、どう転んでもいいように、心の準備だけは常に胸のうちにある。
そう留めておくだけで、この世界の旅も気楽だ。
今回の旅も、順調に進んだ。
何日か前に、ノトウェンと旅をした逆のルート。
キャンプ場で野営をしながら、深い森や、オオカミの縄張りを南側に迂回する。
途中で、オオカミのリュウタが、特大の遠吠えをしたのにだけは驚いた。
オレ達だけでなく、荷駄隊の20人全員がぎょっとした。
普段滅多に鳴き声を上げないヘラジカの群れも混乱し、法螺貝のような鳴き声をそこかしこから上げていた。
どうしたんだと未希に尋ねてみると、リュウタはただ、挨拶をしただけだと答えた。
この森に住む、数十という数のオオカミの群れ。
もちろん、オレ達の存在を把握し、警戒しているだろう。
オオカミとはそういう生き物だ。
そしてその群れは、リュウタの母親の古巣でもある。
だが、リュウタはすでに、別の群れ。
しかも人間と共に暮らしている。
縄張りに踏み込んだら、確実に殺されるだろう。
だからリュウタは、挨拶をした。
無断で、近くを通り過ぎないために。
ただ近くを通っただけだと伝えるために。
しかし返答の遠吠えらしき音は、なにも聞こえて来なかった。
リュウタは未希の傍を離れず、ときおり森の奥を眺めながら、遠巻きにオレ達の荷駄隊に並走していただけだ。
人間には理解しえないルールが、自然の中には存在する。
なぜかは分からないが、少しだけ身震いを覚えた。
まぁ少しだけだ。
旅の間に目立つ出来事といえば、それだけ。
旅立って、3日目の昼。
オレ達は、前哨基地であるアッシュバレルに到着した。




