表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
シェイプシフトデバイス
344/363

5.2.02


 先頭を歩くのは、アーネストとハートリー。


 その後ろから、未希とストーム、ソフィアが続く。

 オレは、前を行く5人の背中を眺めながら歩いている。


 オオカミのリュウタだけが、隊列から少し離れたところを、トコトコと歩く。

 ときおり姿が見えなくなるが、気がつくとまた見える場所に戻っていた。

 周囲を警戒してくれているのだろうか。

 あるいは、自分だけおやつでも食べているのか。

 それとも、ヘラジカに気を使っているのか。


 真後ろには、ガタガタと車輪を鳴らす荷駄隊が続く。

 荷車は6台。左右をプレイヤーに守られた状態で、一列に伸びている。


 少し奇妙に感じるのは、ヘラジカのツノ。

 ツノの生えたヘラジカは、先頭の荷車を引く2頭のうちの1頭だけだった。

 残りの11頭のヘラジカには、すべてツノが生えていない。


 ソフィアに聞いたら、11頭はすべてメスらしい。

 1頭のオスは、ヘラジカの群れのリーダーなのだそうだ。

 群れがパニックを起こさないための工夫らしいが、オレには、さっぱり分からない。




 遠く、最後尾を歩くのは、副官のウェストンとミラー。

 荷駄隊の列は長く、たぶん30メートル近く離れている。


 それにしても、未希とストーム。

 以前と比べて、だいぶ旅慣れていた。


 初めて、この道を辿ったときは、半日で疲れが滲み、夕方になると歩けないほど疲労した。

 未希が疲労を誤魔化す魔法をかけて、めちゃくちゃにしたのが懐かしい。


 最初の調査遠征に参加した日から、9カ月くらい経過している。

 あの頃は、すべての他人が険悪に見えたものだが、今では知り合いも増えた。

 ミラーやソフィアには、何度も命を助けられ、逆にオレ達が助けることもあった。

 アーネストも頼れる指揮官だ。


 まぁだからといって、信用するつもりはない。

 だが、信頼はしている。


 いつかの果てに、裏切るか、裏切られたとしても、積み重ねてきた関係は、確かに存在している。


 裏切りで得られる利益とは、積み重ねてきた信頼の対価そのもの。

 代償の大きさは想像もつかないが、どう転んでもいいように、心の準備だけは常に胸のうちにある。


 そう留めておくだけで、この世界の旅も気楽だ。




 今回の旅も、順調に進んだ。

 何日か前に、ノトウェンと旅をした逆のルート。

 キャンプ場で野営をしながら、深い森や、オオカミの縄張りを南側に迂回する。



 途中で、オオカミのリュウタが、特大の遠吠えをしたのにだけは驚いた。


 オレ達だけでなく、荷駄隊の20人全員がぎょっとした。

 普段滅多に鳴き声を上げないヘラジカの群れも混乱し、法螺貝のような鳴き声をそこかしこから上げていた。


 どうしたんだと未希に尋ねてみると、リュウタはただ、挨拶をしただけだと答えた。

 この森に住む、数十という数のオオカミの群れ。

 もちろん、オレ達の存在を把握し、警戒しているだろう。

 オオカミとはそういう生き物だ。


 そしてその群れは、リュウタの母親の古巣でもある。

 だが、リュウタはすでに、別の群れ。

 しかも人間と共に暮らしている。

 縄張りに踏み込んだら、確実に殺されるだろう。


 だからリュウタは、挨拶をした。

 無断で、近くを通り過ぎないために。

 ただ近くを通っただけだと伝えるために。


 しかし返答の遠吠えらしき音は、なにも聞こえて来なかった。

 リュウタは未希の傍を離れず、ときおり森の奥を眺めながら、遠巻きにオレ達の荷駄隊に並走していただけだ。


 人間には理解しえないルールが、自然の中には存在する。

 なぜかは分からないが、少しだけ身震いを覚えた。

 まぁ少しだけだ。



 旅の間に目立つ出来事といえば、それだけ。


 旅立って、3日目の昼。

 オレ達は、前哨基地であるアッシュバレルに到着した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ