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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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342/365

5.1.31


 オレ達3人は、ニフィル・ロードにログインした。


 未希は興奮したまま。

 ストームは寝不足のまま。

 そしてオレは蚊帳の外。


 ログインすると夜中だったので、ひとまず寝ることにした。

 寝不足という身体異常は、そのまま引き継ぐらしく、ストームは泥のように眠ってしまった。


 翌日。

 ストームが、昼前に目を覚ました。

 3人で、ニフィル・ロード研究所へと向かう。


 歩きながら、ストームが言った。

「なんか、だんだん腹たってきた」

「えぇ、なんで?」

「相手のことも考えてよ。62歳となんて付き合えるわけないじゃん」

「でも、ノトウェンさんて、お金持ちで、まゆさんの憧れなんでしょ?」


「お金は、うちもあるし。憧れっていうのは、追い抜く存在でしょう」

「えぇ……それはどうかと思うけど」

「ライバル? みたいなやつ?」

「ふーん。じゃあ、どうするの?」

「学生として、言うべきことを言う」


 おいおい……


「なにをするつもりだ。一応、大学に推薦してくれる相手なんだろ? 留学はいいのか?」


「大丈夫。たぶん、そうなることはすでに決まってる。ウィキペディアにも書いてあった。わたしはただ、事象に従うだけ」


「はぁ?」


 また、わけの分からないことを。



 研究所に辿り着くと、今日も若いプレイヤーが中庭でなにかをしている。

 その中にノトウェンもいた。

 オレ達の姿に気がつくと、こちらに駆け寄ってきた。


「こんにちわ。ストーム。それとみなさん」


 そうだよな。オレ達はついでだ。

 やっぱり、来る必要、なかっただろ。


 ノトウェンが、ストームの顔を眺めながら続けた。

「メッセージは届いたの?」

「んん。届いたよ。だからそれを伝えにきた。ノイマン教授にも伝えといて」


「そっか! どんなメッセージだろう。気になるなぁ~」

「それでね、ノトウェン」


「うん? なに? ストーム」

「40年後に思い出して欲しいことがある」

「え、なんだろう? ずっと覚えておくよ」

「わたしからの返事」

「返事?」


「ごめんなさい」


「え? なにが?」

「それだけ」

「え? え?」


 ストームが、ノトウェンに背中を向け、研究所の外へと歩き出した。


「あれ、帰っちゃうの? お昼食べていかない?」

 ストームは、振り返らずに言った。

「今日はもう帰る」

「次はいつ会える? ストーム」


 ストームが立ち止まって、振り返った。

「40年後に、がっつり会えるんじゃない?」


「そっか。そうだね。いつまでも、待ってるよ。ストーム」

「んん……勝手にしろ」


 なんだか、オレに似てきたな。ストームも。


「ああ、そうだ」

 歩き出そうとした、ストームがまた動きを止めた。


「40年後のメールで、わたしの通ってる学校教えるから。

 それ届いたら、論文と、願書を取りに来てよね。わかった?」


「必ず行くよ! じゃあ、僕はその頃まで生きてるんだね。楽しみだな~」


 楽しみって……おい数学者。40年だぞ。

 本当に、計算が得意なのかよ。


 ストームは無視して、スタスタと立ち去っていく。

 さっきから、黙ってやり取りを見ていた未希が、棒立ちしているノトウェンに近づいた。


「ヘア、ノトウェン!」

 未希が、両手をグッと握り、声援を送るように言った。


「ダウメン・ゲドリュックト! ふん~っ!」

( Daumen gedrückt! )


 握った手は、親指を包み込んでいる。

 ドイツ語で、がんばれとでも、言ったのだろうか。


「アー……? ダンケ?」


 そうだな。

 なんだか、オレもこいつを、応援したくなった。

 だから、オレも近づいて、右手でポンとノトウェンの肩を叩いた。


「またな。ノトウェン」

「は……はい。また」


 目の前のノトウェンは22歳。


 今、この時。

 なんの自覚もないまま、未来で送るラブレターの返事を受け取った。


 ノトウェンは40年後。

 断わられると知っているラブレターを送ることになるんだろうか。


 でも、まだ終わったわけじゃない。


 未来も過去も、なにも変わらなかった。

 結果が分かるのは、まだもう少し先だろう。



 だから、がんばれ。

 ノトウェン。




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