5.1.31
オレ達3人は、ニフィル・ロードにログインした。
未希は興奮したまま。
ストームは寝不足のまま。
そしてオレは蚊帳の外。
ログインすると夜中だったので、ひとまず寝ることにした。
寝不足という身体異常は、そのまま引き継ぐらしく、ストームは泥のように眠ってしまった。
翌日。
ストームが、昼前に目を覚ました。
3人で、ニフィル・ロード研究所へと向かう。
歩きながら、ストームが言った。
「なんか、だんだん腹たってきた」
「えぇ、なんで?」
「相手のことも考えてよ。62歳となんて付き合えるわけないじゃん」
「でも、ノトウェンさんて、お金持ちで、まゆさんの憧れなんでしょ?」
「お金は、うちもあるし。憧れっていうのは、追い抜く存在でしょう」
「えぇ……それはどうかと思うけど」
「ライバル? みたいなやつ?」
「ふーん。じゃあ、どうするの?」
「学生として、言うべきことを言う」
おいおい……
「なにをするつもりだ。一応、大学に推薦してくれる相手なんだろ? 留学はいいのか?」
「大丈夫。たぶん、そうなることはすでに決まってる。ウィキペディアにも書いてあった。わたしはただ、事象に従うだけ」
「はぁ?」
また、わけの分からないことを。
研究所に辿り着くと、今日も若いプレイヤーが中庭でなにかをしている。
その中にノトウェンもいた。
オレ達の姿に気がつくと、こちらに駆け寄ってきた。
「こんにちわ。ストーム。それとみなさん」
そうだよな。オレ達はついでだ。
やっぱり、来る必要、なかっただろ。
ノトウェンが、ストームの顔を眺めながら続けた。
「メッセージは届いたの?」
「んん。届いたよ。だからそれを伝えにきた。ノイマン教授にも伝えといて」
「そっか! どんなメッセージだろう。気になるなぁ~」
「それでね、ノトウェン」
「うん? なに? ストーム」
「40年後に思い出して欲しいことがある」
「え、なんだろう? ずっと覚えておくよ」
「わたしからの返事」
「返事?」
「ごめんなさい」
「え? なにが?」
「それだけ」
「え? え?」
ストームが、ノトウェンに背中を向け、研究所の外へと歩き出した。
「あれ、帰っちゃうの? お昼食べていかない?」
ストームは、振り返らずに言った。
「今日はもう帰る」
「次はいつ会える? ストーム」
ストームが立ち止まって、振り返った。
「40年後に、がっつり会えるんじゃない?」
「そっか。そうだね。いつまでも、待ってるよ。ストーム」
「んん……勝手にしろ」
なんだか、オレに似てきたな。ストームも。
「ああ、そうだ」
歩き出そうとした、ストームがまた動きを止めた。
「40年後のメールで、わたしの通ってる学校教えるから。
それ届いたら、論文と、願書を取りに来てよね。わかった?」
「必ず行くよ! じゃあ、僕はその頃まで生きてるんだね。楽しみだな~」
楽しみって……おい数学者。40年だぞ。
本当に、計算が得意なのかよ。
ストームは無視して、スタスタと立ち去っていく。
さっきから、黙ってやり取りを見ていた未希が、棒立ちしているノトウェンに近づいた。
「ヘア、ノトウェン!」
未希が、両手をグッと握り、声援を送るように言った。
「ダウメン・ゲドリュックト! ふん~っ!」
( Daumen gedrückt! )
握った手は、親指を包み込んでいる。
ドイツ語で、がんばれとでも、言ったのだろうか。
「アー……? ダンケ?」
そうだな。
なんだか、オレもこいつを、応援したくなった。
だから、オレも近づいて、右手でポンとノトウェンの肩を叩いた。
「またな。ノトウェン」
「は……はい。また」
目の前のノトウェンは22歳。
今、この時。
なんの自覚もないまま、未来で送るラブレターの返事を受け取った。
ノトウェンは40年後。
断わられると知っているラブレターを送ることになるんだろうか。
でも、まだ終わったわけじゃない。
未来も過去も、なにも変わらなかった。
結果が分かるのは、まだもう少し先だろう。
だから、がんばれ。
ノトウェン。




