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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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5.1.28


 オレからの要望は、ふたつとも了承してくれたようだ。


 学校を通すこと。

 現実世界で、サインを出すこと。


 オレ達の年代の9月18日前後に現れるらしきサイン。

 まずはそこから始めよう。


 話も終わったので、立ち去ろうと思っていた。

 学者先生達のわけの分からない雑談に付き合うのは嫌だ。

 ところがすでに遅く、オレを除いた3人は、すでにその雑談を始めていた。


 せめて日本語なら、まだ理解できそうだが。

 交わされている言葉は、知らない英単語の羅列。

 炭素の循環がどうとか。

 ナントカの予想を使ったらどうとか。

 いったい何の話をしているのか。


 もういい。

 ストームはここに置いて、オレだけ帰ろう。

 帰ったところで、なにもすることは無いが、ここよりはマシだ。

 なんだか、この部屋は、学校の職員室のような感じなのだ。


「ソウジ。こちらからもひとつ、条件を出していいかい?」

 ノイマンが、突然、オレに話を振った。

 顔だけ向けて、目線はまた、テーブルに落ちている。


「条件? なんの?」

「ミス・ストームの入試の件だよ。ひとつくらい、いいだろ?」

「まぁ、内容によるが。どんな条件だ?」


「9月18日のサインを受け取ったら、私にも知らせてくれないかな?」


 それは未来の知らせを、ノイマンにもたらすということ。

 オレはノイマンから、視線は外し、ストームを見た。


「いいのか、ストーム? 未来のことを教えることになるよな」

 ストームは口を閉じている。

 まばたきをするのも忘れているのか、ノイマンの方を眺めながら、考え込んでいるように見える。


 ノイマンが続けた。

「ああ、えっとね、なにが起きたかは知らせなくていいよ。

 受け取ったかどうか。それだけを聞きたい。

 ついでに、ミス・ストームの入試も兼ねたら面白いよね」


 面白いってなんだよ。

 って、そう感じているのはオレだけのようだ。

 ストームは、興味深そうに身を乗り出した。


「んん? どういうこと?」


「入試の課題は、論文の提出と、私達から出題する問題の解答。

 70年の時を超えた、私達からの入試問題だよ。

 これって、すごくエレガントな入試じゃないかな」


「なにそれ……おもしろそう!」


 ストームの表情が変わった。

 初めてログインデバイスを見せたときのあの顔。

 新作ゲームを、プレイする前の、オタクの目。


「おい待て……ストーム。入試は遊びじゃないだろ」

「いいじゃん。ワクワクが止まらないよ」


 なんなんだよ、こいつら。

 人生を何だと思ってるんだ。


「総司」

「なんだよ」

「帰ろう。明日が待ちきれない」

「はぁ?」


 ストームが立ち上がり、オレの腕を掴んだ。


「おい……本当にいいのか。解けなかったら、留学できなくっ」

 ストームがオレの腕を引っ張りながら、まくしたてた。

「いいって。いまは、ノイマンとノトウェンが何十年もかけて作る問題に挑戦する方が先。解けなかったら、その時はその時だけど、絶対に解く」


 ストームが、真っ直ぐオレの顔を見た。

 中二病で、嵐の支配者とのたまうときの視線を向けていた。


 まぁいいか。

 帰る切っ掛けができた。

 とっとと、この部屋を出よう。


 オレもソファーを立ち上がり、ストームに引っ張られるまま、部屋のドアへと向かった。


「それじゃ教授。今日は帰る。明日、楽しみにしてるね」

「ハハハ。私には70年以上先だけどね。がんばってね。ミス・ストーム」

「ん!」


「ノトウェン。送ってあげなさい」

「はい」


 部屋を出た。

 ノトウェンを先頭に、階段を下り1階へ。


 受付の前で、ノトウェンが振り返った。


「あの、ストーム。次はいつ来る?」

「ん? サインの有無を伝えに、たぶん……明日?」

「そ、そうか。じゃあまた明日。待ってるよ」

「うん」


 ノトウェンをその場に残し、オレとストームは建物を出た。


「あ、あの、ストーム?」

 またノトウェンの声。

 呼び止められて、後ろを振り向く。


「こんど、食事でもどうかな。教授も一緒に。ワインもあるよ」

「ん……ワインはいらない。お酒苦手」

「あ、そ、そう」

「じゃあね」

「うん、じゃあまたね。あっはは」


 オレは空気だった。

 いったい、なにを見せられたんだろう。


 今度こそ、研究所の中庭を抜ける。

 振り向くと、ノトウェンはまだそこにいて、オレ達を見送っていた。

 いや、見送るのは、オレ達ではなく、ストームだけかもしれない。


 研究所の敷地を出てから、ストームに尋ねた。


「ノトウェンて、いまいくつだっけ」

「うん? えっと、22歳って言ってなかった?」

「そうか」


 まぁ、どうでもいいか。

 オレの知ったことではない。


「総司」

「なんだよ」

「未希さんがメモリアから戻ったら、すぐログアウトね」

「ああ。わかったよ」



 どうやら、コイツも。

 どうでもいいみたいだ。



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