5.1.25
その日の夜。
ニフィル・ロードのストームの家で、未希も含めた3人で夕食。
旅の携行食として持ってきたが、食べきれなかったパクシマディというパン。
それを玉ねぎとチーズで一緒に煮込んだ、オニオングラタンスープのようなものを未希が調理した。
これが素晴らしく美味しい。
パン屋の黒ヒゲが焼いたパンというだけでも美味いが、パクシマディは、それだけでも食べ応えがあり、小麦の味と香りが凝縮されている。
そこに、玉ねぎの風味と、チーズが溶け込み、サクサクとシャキシャキのグラタンの食感を生み出していた。
「これおいしー!」
作った本人の未希も喜んでいる。
ストームも、勢いよくスプーンで口に運んでいる。
「総司は、明日、教授に会うの? 一応、話はしておいたけど」
「教授?」
「わたしを、ボストンの大学に推薦してくれる教授」
「ああ。そうだな。そのために、ここまで来たんだからな」
「じゃあ、明日案内するね」
「論文には、どんなことを書くんだ?」
「魔法の脆弱性評価。
意識による送信プロトコルを利用したシステム侵入の仮説」
お経か。
ストームの言葉そのものが、オレには魔法の呪文だった。
「もっと分かりやすく頼む」
「んん……この世界の魔法は、この世界のバグ。つまり、セキュリティホールだという仮説」
「分からん……もっと、分かりやすくしてくれ」
「魔法を通じて、この世界。ニフィル・ロードをハッキングする」
ハッキングってあれか。
誰かのパソコンを好き勝手にいじくるやつか。
やはり、オレには意味が分からない。
まぁそれでも、明確なのことがひとつあった。
やはり、この世界のストームは、輝いている。
用水路の端でうずくまっていたあの少女とは、まるで別人だ。
「分かった。いや、分かってないが、とにかく明日、教授とやらに会おう」
「うん。よろしくね。お父さん」
「なんだよ、お父さんて」
「だって、明日は三者面談でしょ。教授とわたしと、わたしの保護者の総司」
「まぁ、なんでもいいが。その、教授ってのは何者なんだ」
「ノイマン教授。アメリカの高等研究所で、論文書きまくってるヒト」
「その肩書はホンモノなのか? ニセモノなんじゃないのか?」
「あんなすごい数学者は、世界でも、歴史上でも、数えるくらいしかいないと思う。ウソをつける領域じゃないし、どんなにすごい役者もで、アドリブであれを演じるのはムリだよ」
言葉を口にしながら、ストームの視線が天井を向いていく。
なんだか、憧れのアイドルを思い浮かべているような目だ。
「……そうか、それほどか」
いまさらだが。
そんなヤツに会って、オレはなにをするつもりなんだろう。
行かなくても、よかったのかもしれないな。
まぁ、いいか。
これが、乗りかかった船ってやつだな。
ポンポン船なのに、軍の港に招待された気分になってきた。
「おにいちゃんは、今夜どうするの? ここに泊ってくの?」
「オレの部屋はまだあるのか?」
「んん。もちろん。あのままだよ」
ストームの家に用意された、オレの部屋。
未希は自分の家に帰り、オレはストームの家に泊めてもらった。
椅子とベッドしかない殺風景な部屋のままだった。
だがまぁ、寝心地は悪くない。
久しぶりに、静かな空間で寝た。
そして、翌朝。
早朝ではなく、少し遅い朝に、ストームの家を出た。
未希は、まだメモリアで用事があると言って、ついてこなかった。
教授に会いにいくのは、オレとストームのふたり。
どこへ行くのかと、ストームに聞く。
ストームは、『ニフィル・ロード研究所』だと答えた。
聞いたことあるな。
なんだっけ。




