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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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336/363

5.1.25


 その日の夜。

 ニフィル・ロードのストームの家で、未希も含めた3人で夕食。


 旅の携行食として持ってきたが、食べきれなかったパクシマディというパン。

 それを玉ねぎとチーズで一緒に煮込んだ、オニオングラタンスープのようなものを未希が調理した。


 これが素晴らしく美味しい。

 パン屋の黒ヒゲが焼いたパンというだけでも美味いが、パクシマディは、それだけでも食べ応えがあり、小麦の味と香りが凝縮されている。

 そこに、玉ねぎの風味と、チーズが溶け込み、サクサクとシャキシャキのグラタンの食感を生み出していた。


「これおいしー!」

 作った本人の未希も喜んでいる。

 ストームも、勢いよくスプーンで口に運んでいる。


「総司は、明日、教授に会うの? 一応、話はしておいたけど」

「教授?」

「わたしを、ボストンの大学に推薦してくれる教授」

「ああ。そうだな。そのために、ここまで来たんだからな」


「じゃあ、明日案内するね」

「論文には、どんなことを書くんだ?」



「魔法の脆弱性評価。

 意識による送信プロトコルを利用したシステム侵入の仮説」



 お経か。

 ストームの言葉そのものが、オレには魔法の呪文だった。


「もっと分かりやすく頼む」


「んん……この世界の魔法は、この世界のバグ。つまり、セキュリティホールだという仮説」


「分からん……もっと、分かりやすくしてくれ」


「魔法を通じて、この世界。ニフィル・ロードをハッキングする」



 ハッキングってあれか。

 誰かのパソコンを好き勝手にいじくるやつか。

 やはり、オレには意味が分からない。


 まぁそれでも、明確なのことがひとつあった。

 やはり、この世界のストームは、輝いている。

 用水路の端でうずくまっていたあの少女とは、まるで別人だ。


「分かった。いや、分かってないが、とにかく明日、教授とやらに会おう」

「うん。よろしくね。お父さん」


「なんだよ、お父さんて」

「だって、明日は三者面談でしょ。教授とわたしと、わたしの保護者の総司」


「まぁ、なんでもいいが。その、教授ってのは何者なんだ」

「ノイマン教授。アメリカの高等研究所で、論文書きまくってるヒト」

「その肩書はホンモノなのか? ニセモノなんじゃないのか?」


「あんなすごい数学者は、世界でも、歴史上でも、数えるくらいしかいないと思う。ウソをつける領域じゃないし、どんなにすごい役者もで、アドリブであれを演じるのはムリだよ」


 言葉を口にしながら、ストームの視線が天井を向いていく。

 なんだか、憧れのアイドルを思い浮かべているような目だ。


「……そうか、それほどか」


 いまさらだが。

 そんなヤツに会って、オレはなにをするつもりなんだろう。

 行かなくても、よかったのかもしれないな。


 まぁ、いいか。

 これが、乗りかかった船ってやつだな。

 ポンポン船なのに、軍の港に招待された気分になってきた。


「おにいちゃんは、今夜どうするの? ここに泊ってくの?」

「オレの部屋はまだあるのか?」

「んん。もちろん。あのままだよ」


 ストームの家に用意された、オレの部屋。


 未希は自分の家に帰り、オレはストームの家に泊めてもらった。

 椅子とベッドしかない殺風景な部屋のままだった。

 だがまぁ、寝心地は悪くない。

 久しぶりに、静かな空間で寝た。




 そして、翌朝。

 早朝ではなく、少し遅い朝に、ストームの家を出た。

 未希は、まだメモリアで用事があると言って、ついてこなかった。


 教授に会いにいくのは、オレとストームのふたり。


 どこへ行くのかと、ストームに聞く。

 ストームは、『ニフィル・ロード研究所』だと答えた。




 聞いたことあるな。

 なんだっけ。



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