5.1.22
翌日。
ストームカレンダー、274日目。
朝陽が昇る前に、自分の敷地のテントで目を覚ました。
眠くはない。寝すぎた。
パン屋の黒ヒゲに、保存用のパンを焼いてもらった。
パクシマディという名前のパンだと黒ヒゲが言った。
ひと切れの大きさは、食パンの半分くらい。
それが、乾パンのように固い。
ラスクと呼ぶのに近いかもしれない。
まだ、焼きたてなので、すごくいい匂いだ。
それがゴロゴロと、2キロ分くらい。
いますぐ食べたい衝動に駆られたが、がまんしてズタ袋に放り込んだ。
革水筒には、アップルワイン。
そして、久々に臭いマントを羽織る。
まだ薄暗い司令部へと向かう。
辿り着くと、昨日の男達が旅支度をしていた。
「おはようございます。ソウジさん」
少し年上に見える二十代の男。
えーと……この男の名前は。
「ああ、おはよう。えーと……」
「僕は、ノトウェンですよ。覚えにくいですよね」
「スマン。オレは、名前覚えるのが苦手なんだ」
「あっはは。覚えやすい方法があるんです。実は逆さまに読むと、ニュートンなんですよ (Newton)」
「ニュートン? 逆さまによんだら、ンェウトノだろ」
「えぇ?」
ノトウェンの顔からチカラが抜け、ぽかんとした表情に変わった。
旅のメンバーは、オレとノトウェン。それと昨日の中年3人だけのようだ。
オオカミの群れに太刀打ちできる人数ではないが、2泊3日の旅には充分に耐えうる人数だ。
それにしても。
4人の足元に、複数の穀物袋のような大きなズタ袋。
いずれも、パンパンになにかが詰まっている。
こいつらの荷物か。
ずいぶん多いし、重そうだ。
オレも持たされるのかと、少し身構えたが、違ったようだ。
すぐ近くに、ヘラジカが2頭。
前に見たときよりも、かなり成長している。
頭を上げると、オレの身長と変わらない。
黒光りした胴体から伸びる、水風船のように垂れ下がった鼻ヅラ。
両目の上からは、ぶっといツノが、枯れ枝のように伸びている。
その2頭のヘラジカが、1台の荷車に繋がれている。
荷台の大きさは、畳2枚分程度。
中年の男3人が、その荷台に、荷物を積んでいく。
そうだった。
6ヶ月前とは違う。
旅の荷物は、成長したヘラジカによる運搬が当たり前になっていた。
荷物を積み込み終わると、ノトウェンが言った。
「それでは出発しましょうか」
その言葉に、中年の男達も声を揃えた。
「おう」
なんとも締まりのわるい出発の合図。
4人の中では、ノトウェンが最年少のようだが、彼がリーダーなんだろう。
向かう先は南西。
噴水広場だ。
思えば、戻るのは、半年ぶりか。
陽は、東から昇り始め、明るくなり始めた頃。
オレを含めた5人が、アッシュバレルの西ゲートへと歩き始めた。
3人の男に囲まれたヘラジカの荷車が先頭。
その後ろにノトウェン。
オレは最後尾についた。
西のゲートを抜けて、塀の外へ。
噴水広場への旅が始まった。
ヘラジカ2頭に引かれる荷車は、思いのほか早い。
普通に旅をする速度と変わらないし、まだ余裕がありそうに見える。
スピードを上げようと思えば、もっと出せるのだろう。
ノトウェンが横に並び、オレに話かけた。
「オオカミの縄張りを避けたいので、森を南に迂回していく予定です」
「そうか。ところで、あの荷物はなんだ」
「ルミナス・ノードで収集した標本です」
「標本?」
「採取した植物とか、石とか、土とか」
「おまえ達は、もう、ルミナス・ノードへ入ったのか?」
「はい。2日間ですけどね」
「植物や、土が、なんの役にたつんだ?」
「それは……いろいろです」
なんだよ。
オレに話したところで、どうせ分からないとでも思ってるのか。
その通りだ。
荷車の管理があるためか、中年の男達は軽装。
長剣をぶら下げた男が独りいるが、他の2人は手斧。
ノトウェンに至っては、短いナイフが1本、腰に括りつけられているだけ。
オオカミの群れに嗅ぎつけられたら、ヘラジカを置き去りにして、逃げるくらいしかできなさそうだ。
まぁ、逃げるのは賛成だ。
分かりやすくていい。




