5.1.20
久々のログインだ。
オレは、前哨基地のアッシュバレルにいる。
未希たちは、噴水広場へと戻ったので、この地にはいない。
オレの役目は、数日おきにメモリアの王城に顔を出すこと。
そして、穀物50キロを受け取り、前哨基地のアッシュバレルに運び込む。
それを繰り返しているだけだ。
やることがない日は、昼寝をするか、だれかの世間話に付き合う。
この地の情勢や、うわさ話を聞いて、情報を集めるのもオレの役目。
ルミナス・ノードへの開通まで、あと20日くらいらしい。
日々、無駄に過ごしているので、エレメント・コアの征服から何日経ったのかも把握していない。
ストームカレンダーに「272」という数字が浮き出ているので、たぶん3週間くらいかな。
アッシュバレルは騒がしいが、平和そのものだった。
ときどき、エレメント・コアに向かう大規模な荷駄隊が通過していく。
ヘラジカに引かれた複数台の荷車。
それに、十数人のプレイヤーの警護がついていた。
エレメント・コアの周辺には、まだ僅かなウィルコープスが徘徊しているらしいが、今に至っては、遭遇するのも難しいくらいの数に減少しているようだ。
周辺の脅威は、森で縄張り争いをしている、オオカミやクマに変わった。
今回のログインでも、とくにこれといった出来事はなかった。
あっという間に、予定していた4日が過ぎた。
向かいの宿屋の部屋を借りて、ログアウトした。
ログアウト後、ストームの部屋に戻る。
目を開けると、部屋にはダレもいない。
経過した現実時間は58分だった。
ニフィル・ロードでの4日間の体験が圧縮され、現実世界の記憶に塗り替わっていく。
数秒も待たずに、ログインゲートが現れる。
ログアウトしてきたのは、ストームだった。
「痛っ……っ!」
姿を現したストームが、右の足首の湿布を押さえがら、座り込んだ。
湿布の匂いが、オレに鼻にも届く。
しばらく「いててて」と、足をさすったあと、顔を上げてオレを見た。
「ねぇ、総司。あれって総司がなんかしたの?」
「うん? あれってなんだ?」
「わたしの学校のやつ」
ああ……そうだな。
ストームには、言っておいたほうがいいよな。
説明不足で不安なのは、オレも仕事で身に覚えがある。
「オレが、達郎んとこのギャングに依頼した」
「そっか。わたしはどうなったの? どうなるの?」
「どうだろうな。
学校に行くかどうかは、おまえ次第だが……
あのギャング連中が、ストームや生徒に手を出すことはない。
それでも困ったことがあったら、オレに教えてくれ。
間に合わなかったら、ガキがたむろしているところまで逃げろ」
「そっか。わかった」
まだ、不満そうな顔をして、俯いている。
「ありがとう」
小さくて、聞き取りにくい声。
でも、次の言葉は、聞き取りやすかった。
「だけど、ちょっと、やりすぎ」
「っフフ。そうだな。やりすぎたな」
また、ログインゲートが出現し、未希もこの部屋に戻った。
「みきさん、おかえり」
「えへへ。ただいま。まゆさん、面接どうだった?」
未希と目を合わせたストームの緊張した表情がゆるんだ。
「ボストンの大学に、推薦してくれるって言ってた。今月中に出願したいから、論文書けって」
「へえ~すごいね」
仮想世界で、大学の推薦……って。
どういう次元の話だよ。
「ちょっと待て、ストーム。
そんなの、本当に信じられるのか?
アーネストって75年前の人間だよな?
大学って、どっちの世界の大学だよ」
「大学は、現実世界にあるボストンの大学。だから、論文もこっちで書いて、今月の24日に推薦してくれる人に渡す」
「どこで?」
「羽田の第3ターミナルだって」
心配だ。
騙されているとしか思えない。
「おい、ストーム」
「んん?」
「次のログインで、オレもそいつに会わせろ」
ストームの青白い口元が歪み、白い歯を覗かせた。
皺をつくり目元を緩ませる。
現実世界で見たのは、いつぶりだろう。
ストームの笑顔を、久々に見た。
上手い話に、騙されている人間の顔にしか見えない。
「んん。わかった」




