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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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5.1.19


 9月14日、火曜日。


 ヨシヒロ達は、今日から動き出していることだろう。

 あいつらに任せているので、なにをするかは分からないが、お嬢様学校の生徒には、さぞ貴重な体験になると思う。


 せいぜい、警察沙汰にならないように、うまくやってほしいものだ。



 夕方になる少し前。

 オレは、ストームの豪邸を訪れた。

 ニフィル・ロードへログインするからと、呼ばれている。


 チャイムを鳴らし、しばらく待つ。

 トストスと靴下で廊下を歩く音。

 ガチャリと音をたて、ノロノロとドアが開く。

 暗がりで取っ手を押さえていたのは、未希だった。


「おにいちゃん、いらっしゃい」

「なんで、おまえなんだよ」

「まゆさんね、足、ケガしてるから、未希が代わりに出た」


 なるほど。それもそうだな。


 玄関で靴を脱ぎ、未希の後を追って階段を昇る。

 ストームの部屋のドアは半開き。

 未希の後から、その部屋に入る。


 水色のジャージを着たストームが、湿布を貼った右足を伸ばして座っていた。

 右手に持ったスマホを眺めながら、スナック菓子を口に運んでいる。


 ストームは今日も、学校へ行かなかったようだ。

 今日はサボりではなく、正規の欠席。

 理由は、右足首の軽い捻挫。


 昨日は、取り乱していたが、いまは無表情だった。

 何事もなかったかのような顔。

 昨日のアレも、ストームにとってはよくあることだと言いたげな顔。


 ストームが、スマホに視線を落としたまま言った。

「なんか、うちの学校が大変なことになってるみたい」


「うん?」

「え?」


 ストームが、菓子で汚れた指をジャージで拭く。

 そのあとに、スマホの画面をこちらに向けた。


「ほら、見てこれ」

 表示されていたのは大手のSNSサイト。


 大和女子の生徒が撮影し、投稿したのだろうか。

 学校周辺の道端や、近くのコンビニにたむろす、汚らしいヒップホッパーなガキ共を写した写真。

 それが複数枚。


 記事には大量のコメントがついている。

 反社だなんだと、ガキ共を非難するコメント。

 警察に相談しろというコメント。

 学校そのものを非難するようなコメント。


 とにかく、酷くバズっていた。


 あいつらは、ただたむろしているだけ。

 なにか事件が起きたわけでも、起きるわけでもない。

 ただ、そこにいて、時間を潰しているだけだ。

 にもかかわらず、見た目には明らかに治安が悪化していた。

 


 それでも、いちばん迷惑しているのは、学校だろうか。

 生徒から、保護者から。そして近隣から。

 理由も分からずに、突き上げを喰らっていることだろう。

 タチの悪い台風が来たようなものなのに、学校のせいにされる。


 今頃は、その理由も、校内の生徒間で駆け巡っていることだろう。

 その理由で、生徒が騒げば騒ぐほど。

 教師が混乱すればするほど。

 傷が深くなっていく。


 あいつらがたむろす理由はなんだろうな?

 その理由を投げ込めば、日本中がガキを擁護するかもしれない。


 だって、その理由は、ひとりの少女のためだ。

 虐げられている生徒が、安全に学校に通うため。

 迷惑なのは無論だ。明らかだ。

 だが、それを招いたのは生徒自身。

 そして学校そのもの。


 もう、こうなってしまうと簡単だ。

 主犯を地獄に落とすのも一瞬。

 モザイクの無い顔写真を1枚、そこにつなげればいいだけ。

 証拠もなにも必要ない。

 いくら反論されようとも、事実は、世間のイメージだけで、でっちあげられていく。


 恐ろしい世の中だよ、まったく。



 ストームのスマホに、未希も視線を落としている。

「なんか、怖いね……」


 まぁそうだよな。怖いよな。普通。


「ん……なんかこのひと、見たことある」

「え? どれぇ?」

「このひと。あ、このひともだ」

 ストームが、次々と、写真に映っているガキを指していく。


「ねぇ総司。このひと、タツロウの友達じゃない? なんでこんなとこにいるんだろう?」


「さぁな。オレは知らないよこんなガキ」


 本当に知らない。

 忘れているだけかもしれないが、オレの記憶にはない。

 なんだかんだで、2~3百人くらいの規模のギャングだ。

 オレが覚えているのは、せいぜい数人。


「はぁ……明日は学校行かなきゃ。やだなぁ」

「えっ、こんなところに? あぶないよ」


「出席日数やばいから。行きたくないけど、行かなきゃ」

「そっかぁ……怖いね」


 未希とストームが肩を寄せて、スマホに映ってるガキ共の写真を眺めている。


 その心配は、必要ないだろう。

 あいつらは、ただあの場所にいるだけ。

 ストームはもちろん、女子生徒に危害が及ぶこともない。

 挑発したらどうなるかは知らないが、手を出すなと、厳命してある。


 それでもこの有様じゃな。

 事情を知らなければ、不安だよな。

 ちょっとやりすぎだなこれは。


 ストームが、スマホのボタンに触れ、画面を消した。

「まぁいいや。今日のログインは1時間ね」

「うん、わかった」


「ストームは、その足で大丈夫なのか。捻挫してログインしたら、ニフィル・ロードでも捻挫したままだろう?」


「大丈夫。魔法で痛みは消せるし。戦闘したりもしないよ。

 わたしはね、面接してくる予定」


「面接? なんの?」

「アーネストの紹介でね、アメリカの大学に推薦してくれる人と会うんだ」


 オレと未希が、ほとんど同時に、同じ質問をした。

「どういうこと?」

「どういうことだ?」




「わたしね。留学するかも。アメリカに」




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