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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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5.1.18


 タクシーで、ストームの家へ。


 送り届ける途中で、何年何組なのかだけ聞いた。


 ストームが足を引きずりながら、豪邸の親子ドアを開ける。

 そこで一度、手を振って、扉を閉めて家の中に消えた。


 雨は本降りになっていた。


 オレは、そのままアパートに戻る。

 スマホを出して、ヨシヒロに電話をかける。


「どうも。ヨシヒロです。お疲れ様です」

「わるい、ヨシヒロ。おまえに頼みたいことがある」

「なんですか? なんでも言ってください」


「人を集めてほしいんだが、その前に、どこかで会って話せるか?」

「もちろんです。今からでもいいですよ」

「おまえんとこに、大和女子に通ってる女っているか? 3年生がいいんだが。いるなら連れてきてほしい」

「いたかなぁ……聞いてみます。姉とか、妹とかでもいいですか?」

「ああ、それでも構わない。よろしく頼む」



 夕方。

 未希から、メッセージが届く。

『今日は、ログインするの中止だって。雨だからかな?』


 ストームと連絡は取っているようだ。

 未希はまだ、何も知らないのだろうか。


 その後、ヨシヒロから電話。


「ヨシヒロです!

 すいません、大和女子に通ってる女はいませんでした。

 でも、妹が通ってるっていうメンツを3人集めました。

 今夜でもいけますけど。どうしますか?」



「ありがとう。助かる。今から集めてもらっていいか?」

「分かりました。そしたら朝日田のファミレスとかでいいですか?」

「ああ、かまわない」

「それじゃあ2時間くらいもらえますか」

「分かった」

「あざっす! それじゃ、後ほど」


 電話を切った。

 サイフを広げる。

 20万くらい入っている。充分だろう。

 ヒトを動かすには、カネがいる。

 と言っても、ガキの小遣いだ。このくらいで足りるだろう。



 2時間後。

 時計を見ると、19時過ぎ。

 店の前に、見た顔のガキが立っている。

 リョウスケだ。


「総司さん、お疲れ様です!」


 いちいち、大げさな挨拶。

 そろそろ、暑苦しい。


 リョウスケの案内で、店の奥のテーブル席へ。

 集まったのは、ヨシヒロとリョウスケ。それと3人のガキ。


 そこにオレが合流して6人。

 みんな、オレを見て目がキラキラしている。

 オレってそんな有名人なのか。


 適当に挨拶を済ませながら、ハイボールを注文。

 呑むつもりはない。ドリンクバーがめんどくさいだけ。


 残念ながら、ストームと同じクラスの身内はいなかった。

 それでも、3人とも3年生に身内がいるらしい。

 生徒会の役員が妹だというヤツもいた。

 それなら、話も早そうだ。


 オレは、単刀直入に説明をした。


「オレの妹の友達がな、嫌がらせを受けている」

「マジっすか。どこのどいつですか」

「大和女子の3年2組だが、念のため、学校全体をシメあげてほしい」


 3年2組。

 そのあたりで、5人の表情が、崩れた。

 もしかしたら、笑いを堪えているのかもしれない。

 お嬢様学校のモメごとなんて、些細なハナシ。

 こいつらから見たら、笑い話だ。


 まぁいい。

 オレはサイフを出して、万券の束を抜き取る。

 たぶん、20枚くらい。

 それをヨシヒロの前に、パンと音をたてて置いた。

 5人の目の色が変わる。

 これで、少しは伝わるだろう。


「オレの要求は単純だ。

 妹の友達が、毎朝、学校へ行く。

 そしてなにもされずに家に帰る。

 たったそれだけだ」


「え? ボディガードですか? 主犯を見つけ出して、ボコるとかは?」


「そんなことはしなくていい。

 ボディガードも不要。

 仲良くしてもらう必要もないし。うわべだけの友達も不要。

 なにもされずに、ただ家に帰る。それだけだ。

 主犯がだれかなんてのも、どうでもいい」


「えっと……じゃあ、自分らは、なにをすれば?」


「今回は警告だ。

 クラスと学年と、学校全体に脅しをかけてほしい。

 妹の友達がダレかになにかされたら、次はソイツの番だ。

 なにかされた証拠も、なにもしてない証拠も不要だ。

 引き金は、学校でなにかされたという本人の証言だけ。

 その証言がウソかホントかも関係ない。

 なにかされて、名前が上げられたら、次はそいつが地獄に落ちる。

 いいか。名前が上がったらだ。

 それだけでそいつは、問答無用で、地獄行きだ。

 それを、大和女子の連中に伝えてほしい」



 久々に、長くしゃべった。

 呑むつもりのなかった、ハイボールに口をつける。

 たいして美味くもない。


 ヨシヒロが言葉を返した。

「警告だけでいいんですか? ダレかを、さらうとかでもなくて?」

「今回は、警告だけでいい。とくに、3年2組。そこは重点的にやってくれ。あとは適当でいい」


「重点的にってどの程度ですか?」

「夜も眠れなくなるくらい、脅かしてやってくれ」


「なるほどぉ。面白そうですね」

 リョウスケが言った。


「まぁ、面白いかどうかはともかく、徹底的に頼む。

 ただし……加減は、おまえらに任せるが、さらったりボコったりはなしだ。

 タツが不在のあいだに、だれかがパクられるようなことはするな。

 言葉と、その厳つい顔だけでいい。

 大和女子のメスガキ共を震え上がらせろ。

 できるか」


 リョウスケは釈然としてなさそうだが、うなずきながら言った。

「そんなの簡単っスよ」


 そのあとから、ヨシヒロがまた、質問した。

「……で、そのお友達の名前は?」


 名前か……

 言いたくないな。


 あれ、そういや、こいつらも知ってるよな?

 ストームは、元々、達郎の紹介だった。


「ヨシヒロ、おまえ、ストームって知ってるよな?」

「ああ、あの1日中パソコンばっかりやってるっていう、変な奴ですか」

「なんで、ストームのこと知ってるんだ?」


「会ったことないっスけど、元々は、タツさんのネトゲ友達?

 自分らって、ネットとかパソコンとか疎いですからね。SNSで炎上したとか、詐欺に引っかかったとかで、助けてもらってます。で、そのストームとなにか関係あるんすか?」


「ストームのな…………妹だ」

「え、マジっすか。だったらもう、身内じゃないっすか」

「そうだな。やってくれるか?」

「もちろんですよ! そしたら、カネもいらないですよ」


 ヨシヒロが、札束に手を触れて、突き返そうとした。


「それは諸経費だ。おまえら5人で好きに使え。タツなら黙って受け取るぞ。おまえも黙って受け取れ」


「わ、分かりました! あざっス!」


 それでいい。

 カネで動かせば、次もカネで動く。

 有ると知れば、カネ欲しさに勝手に情報を唄う。

 オレの知らないところで、オレのために動いてくれる。



 その後は、簡単な打合せ。

 というか、線引き。

 どこまでやっていいのか。

 なにをやったらダメなのか。


 基本的に警察の目につくようなのは、NGだ。

 恐喝も、狩るのもダメ。さらうのは論外。

 脅かすだけ。それなら好きにやっていい。


 ただし、情報だけは上げてくれと頼んだ。

 いくら脅したところで、その線を踏み越えるヤツは必ずいる。

 そのときには、予告通り、地獄を見せなきゃならない。

 ストームが卒業するまで、あと半年。

 たった半年。あいつが、穏やかに過ごせればいい。

 それまで、脅しが効いてくれればいいんだが。


 まぁいい。

 その時はその時だ。

 自分のやったことに、責任を取ってもらおう。


 話が終わり、ファミレスを出たのは、夜の10時。

 あとは、あいつらが、うまいことやってくれるだろう。


 なんの解決にもなっていないのは分かっている。

 というか、オレも。たぶん、ストームも。

 最初から、解決なんて望んでいない。


 ストームが、学校へ行き、なにもされずに家に帰る。

 友達は作れなくなるが、それでも、いいよな?


 友達? ああ。そうだ。くだらないよな。

 誰も彼もが、歪んで見える。

 それは、ストームも同じなんじゃないか。



 まぁいい。

 カネがなくなった。

 だから、アパートへは、電車で帰った。



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