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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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5.1.11


 未希に、校門に着いたとメッセージを送る。

 手が離せないので、調理実習室まで来てくれと返事がきた。


 いや、どこだよ。

 とにかく、門を抜けて校内に入る。


 ルシアが地味な格好なのに、やたら目立っている。

 フランス人の美少女を見て、男子生徒が高確率で振り返る。

 女子生徒も興味深そうに眺めている。

 あちこちで、女子生徒がルシアに視線を向け、ペチャクチャと喋っている。


 そしてオレの存在に気がつき目を逸らす。

 オレと目を合わせようとする生徒は、誰もいない。

 ちなみに、ストームは完全にオレの影に隠れている。



 それでも、独りだけ、オレに声を掛けてきたガキがいた。


「あれ、総司さんですか? なんでこんな学校に?」


 短くツンツンとした髪だが、背が高く、日焼けした肌。

 ケンカ自慢な顔つきで、エセ外国人みたいな風貌。

 シャツのボタンを無造作に外し、銀色のネックレスを下げている。


 進学校にもいるんだな、こんなやつ。

 達郎ギャングのたまり場に顔を出しているガキだろうか。

 悪いが、オレはこんなガキ知らん。


「うるせぇよ。近寄ってくんな」

「す、すんません。あ……でも、総司さんっ。夕方、講堂でダンスやるんです。時間あったら見に来てください」


 いかねーよ。

 ダンスなんて1ミリも興味ない。


 でも、まぁいい。丁度いい。


「おい。おまえここの生徒か」

「はい!」

「調理実習室ってどこだ」

「ちょうり、じっしゅう、しつ……?」


 なんだよ、その顔。

 この学校に通ってるんじゃねーのかよ。


 そのガキはしばらく考え込んだが、通りかかった男子生徒を捕まえて尋問した。

 ひょろっとしたジャージ姿の生徒が、迷惑そうに答えている。


「場所、分かりました。北校舎の1階です」

「だから、どこだよそこは」


「ご案内しまっス!」


「おまえ名前は」

「リョウスケです!」

「タツんとこのガキか?」

「ハイ! でも達郎さん、懲役行くみたいで、今はヨシヒロさんが仕切ってます」


 そういや、聞いたな。そんなハナシ。


「……まぁいい。リョウスケ、案内頼めるか」

「ハイ! あざッス! こちらでス!」


 リョウスケが歩き出した。

 そのあとを、ついていく。

 ルシアとストームも、後ろをついてくる。


 歩きやすくなった。

 オレ達だけで歩いていたときよりも、道が開けていく。

 この学校の生徒らしき人影は、みんな脇に避ける。

 ときどき、先頭のリョウスケに頭を下げる生徒。

 道を変えて廊下からいなくなる生徒。


 ルシアがオレの横に並び、声をかけた。

「なに? あの子? ギャング?」

「しらねーよ」

「なんか慕われてるように見えるけど」

「しらねーって、あんなガキ」

「ふーん。まぁいいけど」


 後ろを確認する。

 大丈夫だ。ストームはオレの影にいる。

 確認しないと、コイツだけ置き去りにしてしまいそうだ。



 リョウスケの後をついていき、建物や体育館を横切っていく。

 屋根のある通路を歩き、校庭の端にある建物へ。

 中に入ると、リョウスケが振り向いた。


「この廊下の突き当りです」


 リョウスケが腕を上げて指を向ける。

 廊下の先に『日焼け食堂』と書かれた三角看板が見える。


「リョウスケ」

「はいっ!」

「ありがとう。もういいよ」

「え……あ、はい、じゃ失礼しまス!」


 日本語も分からず、なにも分かってないルシアが言った。

「メルシィ。リョウスケ」

 どこからだしたのか、右手にアメの包みを持っている。


「えぇ、あ、イェス! センキューメルシー!」

 ルシアからアメを貰ったリョウスケが、浅黒かった顔を赤黒くしながら建物から出て行った。



 廊下を歩き、調理室に近づく。

 店舗は調理室ではなく、その隣の教室だった。

 開けっ放しのドアを抜ける。


 ファンシーな飾り付けがされた教室。

 ピンクのピクニックシートが被せられたテーブルが、無造作に並んでいる。

 目に映ったのは、主婦のような集団や、家族連れ。

 半分ほどの席が埋まっていた。

 思いのほか、盛況のようだ。


 すぐに、眼鏡をかけたエプロン姿の女子生徒に声を掛けられた。


「いらっしゃ……ぃませ……」


 どんどん声が小さくなっていく。

 外国人女性と、悪人ヅラの日本人。

 楽しい高校の文化祭模擬店に訪れた、得体の知れない男女。

 その後ろにも、青白い影が潜んでいる。


 オレ達を俯瞰する女子生徒の、おどおどとした顔。

 言葉を続けようか、先生を呼びにいったほうがいいのか。

 そんな判断を繰り返しているのかもしれない。


「うわぁ~いい匂い。なにが食べられるの? すっごくお腹すいてきたわ」

 ルシアが踏み込み、英語でまくしたてた。


 すると、女子生徒の目つきが変わった。

 眼鏡の端を、くっと上げてから、ルシアに英語で話かけた。


 さすが進学校だ。

 仮想世界で覚えた、乱暴なオレの英語とは違い、ビジネスの空気を纏った精度の高い英語。


 オレは一言も喋らないまま、女子生徒がルシアを先導し、テーブル席に案内した。

 オレとストームも、それに続く。


 オレがルシアの正面に座り、ストームはオレの隣に座る。

 女子生徒が、メニューとおぼしきクリアケースをルシアに手渡した。

 内容を英語で説明している。

 オレとはもう、目を合わせるつもりがないらしいく。

 ストームに至っては、おそらく認識すらされていない。


 説明が終わったのか、ルシアが注文している。

 その会話が終わってから、オレも女子生徒に話しかけた。


「田心未希はいるか?」

「え……?」

 女子生徒が顔を向けて、一瞬オレの顔を見た。

 目が合うと、スッと、視線だけ逸らした。


「未希は妹なんだけど、兄が来たと伝えてくれないか」

「ええっ……! 未希の……」


 女子生徒が、やっとオレとまともに目を合わせた。

 そのまま怪訝そうな表情に変わる。

「お兄さん……?」


 悪かったな。似てなくて。


「忙しいようだったら、伝えなくてもいいから」

「は、はい。分かりました。聞いてきます。ゼッタイ伝えます」


 女子生徒は、走り去っていった。

 オレとストームは、まだ、なにも注文してないぞ。


 見渡すと、黒板にもメニューのようなもの。

 「世界の食べ物」と大きく書かれた下に、いろんな国の旗と、食べ物の挿絵が描かれている。

 フランス、ドイツ、アメリカ、中国、ベトナム。

 他のテーブルを見渡すと、ガレットやソーセージ、ホットドッグ。

 肉まん、生春巻き。



 なるほど。

 看板にウソはないようだ。




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