5.1.05
山下公園の外れで待ち合わせをした。
小さな噴水のある広場。
オレとルシアも、そこへ向かう。
人が多くて歩きにくい。
思っていたより、距離があった。
そして蒸し暑い。
ルシアが、シュッシュと黒髪にスプレーを吹きかけている。
雑踏の中に、清潔感のあるムスクの香りが漂う。
猛暑で夕暮れの山下公園の中を、10分近く歩いたと思う。
未希とストームは、すでに辿り着いていた。
チョロチョロと、膝の高さにも満たない小さな噴水。
その近くに立ち、並んでこちらに視線を向けている。
未希はリボンのついたワンピースを着ていた。
オレを見つけて、手を振っている。
「もしかして、あの子が妹?」
「そうだよ。仕事の話はするなよ」
「オララ~、カワイイ~」
ルシアが駆け出していく。
未希に近寄り、口を開いた。
「コニチワ。ワタシワー、ソウジの、トモダチ。カワイイ」
宇宙人かおまえは。
「こんばんわ。未希です」
未希が目を丸くしながら、ちょこんとおじぎした。
「……まゆ……です」
ストームは、下を向いている。
人見知りのストームを、久しぶりに見た。
暑いだろうに、頭からフードを被っている。
黒い半袖パーカーとスウェットズボン。
大金持ちのくせに地味でちぐはぐ。
未希の横に立つと存在感ゼロ。
あれでは、ストームと言うより、未希のシャドウだ。
「おい、みんな英語で会話できるぞ」
「あらぁ、そうなの?」
未希がオレの腕を掴んだ。
「おにいちゃん、ちょっとこっちきて」
「なんだよ……」
「この美人のお姉さんはなに? なんかいい匂いするし? ホントに会社の人? どこの国の人?」
「自称フランス人だ」
未希が、ルシアに視線を向ける。
「……ぼんじゅーる?」
「アァ! ボンジュー!」
そのまま、未希とルシアが会話を始めた。
オレの分からない言語。おそらくフランス語。
なにを会話しているのか分からない。
分からないので、気にならなくなった。
ストームも、話を聞いているようだが、俯いたまま一言も喋らない。
ストームは、影の中にいる。
ルシアが未希とストームに、英語で言った。
「ゥルセァ。よろしくね」
未希が首をかしげる。
「うるせぇ?」
「ゥル・セィ・ア。聞き取りにくいってよく言われるわ」
「うるせぇな?」
「フフッ、ソウジとおんなじ反応」
ルシアが、右腕を伸ばして、大げさに空気をなぞる。
未希がその指先を目で追う。
ストームも、上目遣いに追っていた。
R・L・T・H・E・A
「ゥルセア?」
「ソウジが、ルシアって発音してるからルシアでいいわよ」
「うん、ルシア」
「私はね、死ぬまで名前の説明が必要なの。生まれたときに、ダディーがかけた呪いよ」
「ええ、どうして?」
「その方が友達ができやすいと思ったみたい」
「あはは。でも覚えた。みきも忘れないよルシア」
「オラ~ぁ、やっぱりカワイイわ~。ぜんぜん兄に似てないわね」
「ほっとけ」
「英語も丸っこくて、柔らかくて、親しみやすいわ」
「えへへ。そうなの?」
ルシアが、膝を曲げて、ストームを覗き込む。
「で、こちらのクールガールは?」
「……まゆ」
ストームはまだ、6文字しか喋っていない。
ルシアとストームは同じ18歳だと思うが、最年少の未希の後ろから出てこない。
「おい、もう自己紹介はいいだろ、花火はいいのか」
「ああーそうね。そうよね」
「どこに向かえばいいんだ」
ルシアが、バッグに手を入れる。
「ちょっとまって、地図出すわ」
未希がルシアに微笑みかける。
「ルシアさん、美人~。ロングキャミもすてきです」
「あら、ミキちゃんだって、カワイイわよ。クールガールのまゆちゃんも。フランスに持って帰りたいわ」
「えへへ」
ルシアの冗談が、冗談に聞こえない。
「ここよ、ソウジ」
ルシアがスマホの画面を見せる。
遠くない。橋を渡ってすぐのところだ。
歩いて数分だな。
オレ達は歩き出し、公園を出た。
大通り沿いに橋を渡ると、大型ディスカウントストアの建物。
建物周辺も、見通せる店内も、ヒトでごった返している。
未希が、おやつを買いたいというので、オレは外で待つことにした。
3人が店に入っていく。
今なら、オレだけ帰れる。
あとは、あいつらに任せておけばいい。
そうだよ。このまま帰ろう。
急用ができたと、未希にメッセージ送ろう。
そう思って、スマホを出そうとしたら、ルシアだけ引き返してきた。
オレの所まで戻り、顔を耳元に近づけた。
「逃げてもいいけど、あることないこと喋りまくるからね。ソ・ウ・ジ」
ウィンクをしてから、ルシアがまた店の中へ。
ちくしょう……
やられた……




