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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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315/372

5.1.04



「ここから、離れるぞ」

「ウィ。仕事終わったの? じゃあデートする?」


 無視して、人ゴミの中を進む。


 まだ夜景の時間ではないが、大さん橋がライトアップされている。

 それを横目に、短い橋を渡る。

 渡り切って、公園沿いで一度立ち止まる。


 未希からメッセージが来ていたのを思い出した。

『おにいちゃん、お仕事終わったら連絡してね』


 仕事は終わったが。

 とにかく、今は、人ゴミから離れたい。


 歩き続けると、また、未希からメッセージ。


『お仕事おわったの?』


 既読をつけてしまった。


『まだだ。未希はどこにいるんだ?』


 ルシアをどこかに捨てるまで、仕事中だ。


『港の見える丘公園にきたんだけど、すごいひと。おにいちゃん、いいとこ知らない?』


 オレが知るわけないだろう。


「なになに? なんて書いてあるの?」


 ルシアが、オレのスマホの画面を覗き見ている。

 日本語は読めないようだ。

 とりあえず、コイツをどうにかしよう。


「おまえは、これからどうするんだ?」

「ソウジとデートでしょ? 一緒に花火見ようよ」

「もう仕事は終わったんだから……帰れよ」

「なによ、先約でもあるの? 他のガールフレンドとデート?」

「……」


「あぁ! デートっぽい。言っとくけど私にウソはつけないわよ?」


 ちくしょう。社会心理学の天才ルシア。

 こいつを、対面で誘導するのはムリだ。

 もういっそ、ここから走って逃げるか。


「まぁ……私が邪魔だっていうなら、帰るけどぉ。私は心が広いからね」


 ルシアがクチを尖らせている。

 そんなの、オレの知ったことではない。

 どうすれば、穏便にコイツを撒けるんだ。


「今帰れば、電車もすいてるから。とっとと帰れ」

「私はね、近くのホテルに泊まるから、今日はもう電車には乗らないわよ。ソウジも来る? もしかしたら、部屋からでも花火見えるかも」


「……ホテルってどこだ?」

 コイツをそこに捨てていく。

「えっ……そんないきなり? きちゃうの?」


 オレは、歩き始めた。早歩きで。

 やっぱり、ここに、このまま捨てて行こう。


「あーごめん、ごめん、まって。えっとね、橋の下? ヤマシタコウエンってところの先」


 山下公園の先の……橋の……下?

 そんなところに、ホテルあったか?

 野宿でもするつもりか。


「そこから、花火は見えるのか」

「花火って、ヨコハマ港で上がるんでしょ? キャプテンにお願いすれば、見える場所に連れてってくれると思うよ。一緒に見に行く?」


 キャプテン?

 ボスじゃなくてキャプテンか。

 ホテルの支店長かなにかか。

 まぁいいか。


 オレは、猛スピードで考えた。

 このままここから、逃げても、ルシアに尾行される。

 まだ仕事が終わってないことにして、未希も無視してタクシーで遠くへ逃げるか。


 それとも……

 いっそ、未希達に紹介してしまってもいいのか。

 ルシアなら、未希とストームを手懐けるのも簡単なはずだ。


 それなら、3人を置いて、オレだけ帰ることだってできる。

 あとは3人で勝手にどうにかするだろう。



「ルシア。オレをそこに連れていってくれ」

「ア! ウィ! ソウジとデート!」

「いや、条件がある」

「ハァン? 頼んでおいて条件てなに。逆でしょ普通」


「オレの妹と、その友達も一緒だ」


 ルシアの口が、ゆっくりとホの字に広がっていく。

 何秒かして、両手を握りしめた。

 そして、意味不明の声を上げた。


「ジクロワパ!」


「いいんだな?」

「ア、ウィ?」

「ときどき、フランス語を混ぜるのやめろ。意味がわかんねぇ」


 オレはスマホを抜き、未希にメッセージを送った。

『会社の同僚と一緒でもいいか?』

『いいけど、男の人?』

『いや、女だ』

『えぇ……また、おにいちゃんの彼女?』

『会社の同僚だって言ってるだろ』

『ふーん』

『そいつが、花火が見える場所を知ってるらしい。そこでもいいか』

『うん! どこ?』

『山下公園まで降りてこれるか?』

『すぐ行く!』


 スマホをしまう。


「おい、ルシア」


 ルシアはまだ、呆けた顔で、オレの顔を眺めていた。


「ふぇ……?」

「ルシアは会社の同僚ってことにしてあるが、仕事のことは何も喋るなよ」


「ねぇ、妹ってどんな感じ?」




「おまえなら、会えば、わかるだろ」



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