5.1.04
「ここから、離れるぞ」
「ウィ。仕事終わったの? じゃあデートする?」
無視して、人ゴミの中を進む。
まだ夜景の時間ではないが、大さん橋がライトアップされている。
それを横目に、短い橋を渡る。
渡り切って、公園沿いで一度立ち止まる。
未希からメッセージが来ていたのを思い出した。
『おにいちゃん、お仕事終わったら連絡してね』
仕事は終わったが。
とにかく、今は、人ゴミから離れたい。
歩き続けると、また、未希からメッセージ。
『お仕事おわったの?』
既読をつけてしまった。
『まだだ。未希はどこにいるんだ?』
ルシアをどこかに捨てるまで、仕事中だ。
『港の見える丘公園にきたんだけど、すごいひと。おにいちゃん、いいとこ知らない?』
オレが知るわけないだろう。
「なになに? なんて書いてあるの?」
ルシアが、オレのスマホの画面を覗き見ている。
日本語は読めないようだ。
とりあえず、コイツをどうにかしよう。
「おまえは、これからどうするんだ?」
「ソウジとデートでしょ? 一緒に花火見ようよ」
「もう仕事は終わったんだから……帰れよ」
「なによ、先約でもあるの? 他のガールフレンドとデート?」
「……」
「あぁ! デートっぽい。言っとくけど私にウソはつけないわよ?」
ちくしょう。社会心理学の天才ルシア。
こいつを、対面で誘導するのはムリだ。
もういっそ、ここから走って逃げるか。
「まぁ……私が邪魔だっていうなら、帰るけどぉ。私は心が広いからね」
ルシアがクチを尖らせている。
そんなの、オレの知ったことではない。
どうすれば、穏便にコイツを撒けるんだ。
「今帰れば、電車もすいてるから。とっとと帰れ」
「私はね、近くのホテルに泊まるから、今日はもう電車には乗らないわよ。ソウジも来る? もしかしたら、部屋からでも花火見えるかも」
「……ホテルってどこだ?」
コイツをそこに捨てていく。
「えっ……そんないきなり? きちゃうの?」
オレは、歩き始めた。早歩きで。
やっぱり、ここに、このまま捨てて行こう。
「あーごめん、ごめん、まって。えっとね、橋の下? ヤマシタコウエンってところの先」
山下公園の先の……橋の……下?
そんなところに、ホテルあったか?
野宿でもするつもりか。
「そこから、花火は見えるのか」
「花火って、ヨコハマ港で上がるんでしょ? キャプテンにお願いすれば、見える場所に連れてってくれると思うよ。一緒に見に行く?」
キャプテン?
ボスじゃなくてキャプテンか。
ホテルの支店長かなにかか。
まぁいいか。
オレは、猛スピードで考えた。
このままここから、逃げても、ルシアに尾行される。
まだ仕事が終わってないことにして、未希も無視してタクシーで遠くへ逃げるか。
それとも……
いっそ、未希達に紹介してしまってもいいのか。
ルシアなら、未希とストームを手懐けるのも簡単なはずだ。
それなら、3人を置いて、オレだけ帰ることだってできる。
あとは3人で勝手にどうにかするだろう。
「ルシア。オレをそこに連れていってくれ」
「ア! ウィ! ソウジとデート!」
「いや、条件がある」
「ハァン? 頼んでおいて条件てなに。逆でしょ普通」
「オレの妹と、その友達も一緒だ」
ルシアの口が、ゆっくりとホの字に広がっていく。
何秒かして、両手を握りしめた。
そして、意味不明の声を上げた。
「ジクロワパ!」
「いいんだな?」
「ア、ウィ?」
「ときどき、フランス語を混ぜるのやめろ。意味がわかんねぇ」
オレはスマホを抜き、未希にメッセージを送った。
『会社の同僚と一緒でもいいか?』
『いいけど、男の人?』
『いや、女だ』
『えぇ……また、おにいちゃんの彼女?』
『会社の同僚だって言ってるだろ』
『ふーん』
『そいつが、花火が見える場所を知ってるらしい。そこでもいいか』
『うん! どこ?』
『山下公園まで降りてこれるか?』
『すぐ行く!』
スマホをしまう。
「おい、ルシア」
ルシアはまだ、呆けた顔で、オレの顔を眺めていた。
「ふぇ……?」
「ルシアは会社の同僚ってことにしてあるが、仕事のことは何も喋るなよ」
「ねぇ、妹ってどんな感じ?」
「おまえなら、会えば、わかるだろ」




