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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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5.1.02 - レッド・ブリック・ウェアハウス


 8月21日。土曜日の夜。


 オレ達は、ログアウトした。

 未希とストームは、アッシュバレルの宿屋から。

 オレは基地内の病院から。


 目を開けると、ストームの部屋。

 未希とストームも、ほとんど同じタイミングで部屋に戻った。


 時計を見ると、19時を回ったところ。

 未希はお泊まりセット持参なので、今夜は、このままストームの家に泊まるつもりらしい。


 オレはもちろん帰る。


「オレは帰るよ」

「あ、おにいちゃん待って。23日ってお仕事?」


 23日は月曜日だ。

 普通の社会人は、みんな仕事だ。

 にもかかわらず、未希は、平然と仕事かどうかを質問してくる。


「オレは、夜まで仕事だよ」

「そうなんだ。あのね、23日、花火見に行きたいんだけど……まゆさん一緒にいかない?」


「ん……わたし? 花火ってどこで」

「海のほう」

「あぁ、みなとみらいとかで、毎年やってるやつ?」

「そうそう。みきね、3人で見に行きたいなぁ」


「……」


 ストームが、困った顔をしている。

 行きたくないのか。

 気が合うな。オレもだ。

 人ゴミは苦手だ。


「そんなとこ行っても、混んでるだろ」

「ちょっと離れたところの、公園とかで見ない?」


「オレは行けそうにないな」

「そっかぁ……」


 ストームが、未希に顔を向けた。

「……んん、分かった。みきさん、花火、一緒に行こう」

「ホント! やったぁー」


 未希の屈託のない笑顔。

 ストームは、やれやれと言いたげな姉のような顔。


「おにいちゃんは? ぜったいダメそう?」


「仕事が、何時に終わるか分からない」

「そっかぁ。終わったら教えてね」


「わかったよ」



 オレは独り、ストームの家を出た。

 夜の8時を過ぎても、ストームの豪邸には、未希とストームだけ。

 あいつの家庭環境はどうなっているのか。


 まぁそれはいいか。

 大金持ちの生活サイクルなんて、想像すらできない。

 それよりも、あいつら、晩飯どうするんだろう。

 出前でも取るのかな。


 考えていたら、オレも腹が減ってきた。

 どうせなら、あいつらを誘って飯を喰いに行けばよかったのかもしれない。


 なんてな。

 妙だな。


 いつのまにか、誰かと飯を喰うことを想像するようになった。

 2年前に家を出てから、なにをするにも独りだった。


 最近はそうでもない。

 今夜は中華料理屋に寄って、無言で麻婆定食を食べて、部屋に戻って寝た。




 2日後。


 8月23日。月曜日。

 午前10時過ぎに部屋を出た。


 雇用主から事前に渡されているのは、クルーズディナーの乗船チケット。

 それが3枚。


 指定された場所へ行き、チケットを渡す。

 さらに、その人物らとともに、クルーズ船に同乗するのが今日の仕事らしい。

 また、ボディガードかなにかだろうか。

 あまり、顔バレする仕事はやりたくないんだけどな。


 まぁいつものとおり、オレに拒否権は無い。

 やれと言われたらやるしかない。



 待ち合わせ時間は16時だが、少し早めに出ることにした。

 今日は、市街地がかなり混むらしい。

 国際イベントと、花火大会が同時にあるような告知を、駅の広告で見た。

 未希がストームを誘って見に行くのも、たぶん、その花火だろう。


 未希も依頼者も、なぜ、わざわざ、混雑する日を選ぶのか。

 この日じゃなきゃいけなかった理由でもあるのか。

 それともただの観光ついでなのか。


 どうでもいいか。

 知る必要は無い。


 とりあえず、今日の仕事は顔バレする。

 なので、現場へ行く前に、帽子とサングラスだけ買っておく。

 しかし、買い物は昼前に終わってしまった。

 待ち合わせまで、3時間以上。


 することがない。

 タクシーを捕まえて現地へ向かった。


 降りた場所は、横浜みなとみらい。赤レンガパーク。

 平日の昼間にしては、人が多い。

 浴衣姿の女、ベビーカーを押す家族連れ、国籍がよく分からない外国人、


 だれも座っていないベンチを探して、腰を下ろす。

 海が目の前だが、海の匂いはあまりしない。


 離れたところの桟橋に、喫水線から2階建てのクルーズ船が停泊している。

 たぶん、オレの今夜の仕事場だ。


 事前に調べておこうかと、スマホを出して検索した。

 『シー・フィルージュ』

 それが、チケットに書かれているクルーズ船の名前。

 表示された船の写真と合わせてみると、目の前にある船と同じだ。


 チケットくらい自分で買えってハナシだが。

 それもできないマヌケのおかげで、オレに仕事が回ってくる。

 ギャラも貰える。

 いったいどんなマヌケが来るのか。

 それも、どうでもいいか。


 スマホの時計を見た。

 ぜんぜん時間が経過していない。

 早く来すぎた。


 しまおうとしたら、アプリの通知。

 開くと、受話器のマークが、揺れている。


 このアプリで連絡してくるヤツは、ひとりしかいない。

 もしかして、今日の仕事も、コイツと一緒か?

 コイツといると、見透かされて気持ち悪い。

 あまり関わりたくない。

 それでも、仕事の同僚。出ないわけにもいかない。


「ボンジューゥ! ソウジぃ~」

「なんだよ、ルシア。なんの用だ」

「レッドブリックウェアハウスってどこ? 行き方わかんない」


「どこだよ……そんなところ、オレだって知らねーよ」

「えぇ、今日の仕事場でしょ? ソウジも一緒だって聞いたよ?」


 うん……?

 もしかして。


 赤 (レッド)

 レンガ (ブリック)

 倉庫 (ウェアハウス)


「仕事の内容はなんだ」

「海の赤い糸 (シー・フィルージュ)だって。ロマンチックなクルーズディナーでしょ?」



 オレと同じ仕事。

 めんどくせぇ……


「ルシアは、今、どこにいるんだよ」


「サァクハジチョー?」


 どこだよそこ。

 サァクハジチョゥ……

 あ。


「……桜木町か? 駅にいるのか」

「そう。電車できたよ」


「分かったよ。迎えにいくから。そこでじっとしてろ」

「メルシィ、ソウジ。まってるね」


 ああ、めんどくせぇ。



 これも仕事……なんだよな?




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