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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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5.1.01 - バタフライエフェクト


 エレメント・コアを4千人のプレイヤーで征服。

 それから3日が経過した。


 打倒したウィルコープスは、1万体近かったらしい。


 オレ達が現場で倒したのは、せいぜい100体かそこらだ。

 組織で動かす集団のチカラというのは、スゴイんだなと。

 漠然とだが、それだけは感じていた。



 とにかくこれで、ルミナス・ノードへ渡れるようになった。

 しかし、ふたたび停滞した。


 知恵エレメント軍の本営は、コアの要塞化フェーズに入ったらしい。

 それは別にかまわないんだが、要塞化が完了するまで通行止めになってしまった。

 今は軍に管理され、コア周辺に立ち入るのも難しいようだ。



 そんな場所に留まっていてもしょうがないので、オレ達は、前哨基地であるアッシュバレルまで戻った。


 戻ると、アッシュバレルの酒場で宴会が始まった。

 祝杯、というか、個人的な打ち上げだ。

 ソフィアやエレーナは、たんに呑んで騒ぎたいだけだろう。


 テーブルを囲むのは、オレと未希、ストーム、ソフィア。それとエレーナ。

 女性ばかり増えていくのは、未希の対人スキルの高さゆえなのだろうか。

 オレは居心地が悪い。

 早めに退散して、自分のテントに戻りたかったのだが、今後の予定を立てたいというストームに引き留められた。



 テーブルには、サイダーやワイン。

 それから、肉や野菜が盛られた皿が並んでいる。

 その騒ぎの端で、ストームが口を開いた。

「まだ2カ月くらい先らしいんだけど」


「コアの要塞化か?」

「んん。要塞化を手伝うっていうのもあるけど、どうする?」


「あたしは、戻ってお店の営業を再開するわ」

「私も、馬の世話を頼まれてるから、噴水広場に戻るわよ」

「みきもリュウタが心配だから、戻りたいなぁ」


「んん。総司は? どうするの?」

「オレは基地への食糧の搬入があるからな。ここに留まるよ」


 オレがアッシュバレルにもたらす食糧は、10日ごとに穀物50キロ。

 それと、いくらかのワイン。

 今の人口だと、大した量ではない。

 それでも、あるとないとじゃ大違いだろう。

 黒ヒゲのパンも食べられなくなる。


「おっけ。じゃあまた、総司だけここに残って、わたし達は、噴水広場に戻る方針で。ルミナス・ノードへ行けるようになったら、また集まろう」


 ソフィアとエレーナが視線を天井に向けた。

「2カ月かぁ。けっこう長いわね」

「ログイン時間だと、14時間くらい?」


 未希も、困り顔でつぶやいた。

「夏休み終わっちゃうね」


「へぇ、ミキちゃん達は、夏休みなんだ? キャンプとか行ったりしないの?」


「う~ん。ほとんど、ここで過ごしてるかも……」

「アハハ。ニフィル・ロードも旅行みたいなものよね」

「いいんじゃない? 普通の生活じゃちょっとできない体験だしね」


「あ、でもね、近所でお祭りあるよ」

「あら、日本のお祭り? いいわね。私も行ってみたいわ」

「ソフィアも、また日本に遊びにきて」


「行ってもいいけど、8年ズレてるからね。いまから予定入れとく? 8年後の手帳はあるの?」


 ストームが遠い目をしながら、ソフィアの冗談に答えた。

「8年って長いね……わたし26歳だ。生きてるかなぁ……」

「みきは23歳だ。なにしてるんだろう……」


 ソフィアがエレーナに視線を向けた。

「エレーナは、何年から来てるの?」

「あたしは、2010年よ」


「あら。じゃあ、2011年のケンタッキーダービーの勝ち馬を、調べておこうか。稼いだおカネの半分を、私の銀行に振り込んでくれればいいわ」


「いいけど……ソフィアもまだ4歳とかじゃないの。銀行口座あるの?」


「んん、ダメだよソフィア。未来のことを教えるのはよくない」

「あら、なんでよストーム。べつにいいんじゃない? ちょっとくらい」


「未来のヒントは、崖の上から小石を転がすようなものだと思う。

 些細なことからでも、人生の制御を超えるくらいの崖崩れに成長しちゃうと、解決策がなくなる……ような気がする」


「なによそれ。ずいぶん哲学的ね」


「蝶が飛び立たなければ、竜巻は発生しない。

 不用意なヒントで、飛び立つ必要のなかった蝶が、羽ばたくことになる。

 だからさ、羽ばたく機会そのものを生み出さない。そのほうがいいよ」


「なんだかちょっと怖くなってきたわ……

 わたしよりも、聞かされたエレーナの人生が狂うってことよね」


「まぁでも、ちょっとくらいならいいとは思うけど……

 そうしないと、わたし達も、ソフィアに会えなかったんだしね。

 気になるから、実験ってことで、ためしにやってみる?

 ケンタッキーダービーの馬券告知」


 エレーナが引きつった顔をした。

「そんなの聞かされたあとで、聞きたくないわよ。やめてよ」


「いいじゃない。2037年に、パーティーしましょう。エレーナの奢りよ」

「ちょっと、まってよ。その頃だと、あたしは50歳近いんだけど」


 わけが分からない会話で、4人がクスクスと笑い出した。


 まぁでも、知ってるなら教えてほしいかもな。


 8年後。

 オレはどこでなにをしているんだろう。

 そもそも、生きてるんだろうか。




 今のオレには、なんのイメージもできない。




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