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4.9.11 - エレメント・コア


「進軍指示が出てるから、いくよ」

 ストームが背中を向けて、歩き始めた。



 戦闘は終わったらしいのに、まだどこかへ行くらしい。

 ゾロゾロと、他のプレイヤーも同じ方向に歩いている。

 その場に留まり、待機している集団もいるようだ。


 ほとんどが無言。

 聞こえてくるのは、地面を歩く足音と、風に揺れる枝葉の音。


 オレ達はなぜ、歩いているのか。

 あいつらは、なぜ留まっているのか。


 隣を歩いていたミラーに質問した。

「戦いは、どうなったんだ?」

「もう、終わったんじゃねぇか?」


「オレ達は、なぜ歩いているんだ」

「しらねぇよ。まだなんか仕事があるんじゃねぇか」


「戦争ってのは、いつもこうなのか」

「あん?」

「わけも分からず、移動させられて、目の前の敵を切り刻むだけ」


「ソウジよぉ。おまえがぶら下げてる剣も、履いてる靴も、たぶん、同じこと思ってるよ」

「……は?」


「俺たちゃ、意思を持たない消耗品なんだよ。

 司令部っていう脳みそに動かされて、敵の近くに放り出される。

 目の前に敵がいたら、そいつをぶった斬る。

 なんにも考える必要はねぇし、下手に考えたところで先に死ぬだけだ。

 だから、言われた通りに動いてりゃいい。

 めんどくせぇことは、司令部のお偉いさんがぜんぶ揃えてくれる。

 飯を喰う時間も、寝る時間も、あとついでに、死ぬ場所もな。

 それが、戦場だ」



 意思を持たない消耗品。

 ならいいか。

 オレもいちいち気にするのはやめよう。

 知る必要がない。

 知ったら、余計めんどくさいって言うなら、知るのはやめよう。



「おにいちゃん」

「うん? どうした未希。疲れたか」


 やけに、つまらなそうな顔をしている。

「みきね……なんにもしなかった」


 フッフフッ。

 そうだな。


「いいよ。未希が無事でよかったよ」

「でもぉ……おにいちゃんも、ソフィアもがんばったのに」


「未希が、警戒してたから、ストームやソフィアが魔法に集中できたんじゃないのか」


 前を歩いていた、ストームが顔だけこちらに向けた。

「んん。そのとおり。みきさんがいてくれなかったら、なにも上手くいかなかったんだから。今回は、運よく出番がなかっただけ。次もお願いね」


「うん……」


 俯きかけた未希の顔を、エレーナが覗き込む。

「あたしなんて、お花の匂い嗅いでただけよ。ずーっと、警戒してたミキちゃんのほうが、あたしより頑張ってたわよ」


「むぅ……」


 まぁ実際。

 形で見えたか見えないかで言ったら、未希はなにもしていない。

 ときどき視界に入った未希は、切り刻まれるウィルコープスを見ないように、目を逸らしていただけ。



 未希はふてくされたまま、オレ達は森を歩いた。

 陽が傾き始めた頃、ようやく目的地らしきものが見えた。

 向かう先で、森の木々が途絶え、地面が盛り上がり丘になっている。

 丘の上にプレイヤーが集まり、話をしているようだ。

 見たことのある顔も、何人かいる。



 森を出ると、丘がよく見える。

 その手前でオレ達は足を止めた。

 緩やかな斜面の上に、石像のようなものが建っていた。


 見たことがある石像だ。


 噴水広場にあったものと同じ石像。

 男性とも女性とも見分けがつかない石像。


 両手を胸の前で上向きに広げ、顔だけが空を見上げている。

 石像の顔が、どことなく、ストームに似ているような気がする。


 ソフィアが呟いた。

「知恵の石像ね」


「知恵の石像? 噴水広場のと同じだよな。なぜ、こんな森の中に」

「あれが、エレメント・コアよ」


「え?」

 オレも未希も。ストームも、少し驚いた。

 というより、呆れた。


 見た目が、しょぼい。

 大きさも、神社の狛犬と大差ない。

 本当に、ただの石像だ。

 それが草地の丘の上に、ポツンと建っている。

 ツタや苔に覆われるでもなく、古く朽ちた感じもしない。


 ソフィアが、フフと笑いを零し、丸めた右手で口元を隠した。

「名前に反してチープよね。私も初めて見たときは、そう思ったわ」


「じゃあ、この場所から、ルミナス・ノードへ行くのか」

「そうよ。ログインデバイスを出してみなさい」


 左手を叩く。

 ストームも、ログインデバイスを出現させた。


 文字が増えている。

 文字の色は赤。


 『 Summon a Gate of Luminus 』


 ストームが、ソフィアに質問した。

「これに触れれば、ルミナス・ノードへ行けるの?」

「そうなんだけどね。文字が赤色でしょ? しばらくは無理ね」


 ストームが、位置を変えたり、デバイスの角度を変えたりしている。

 試しに、文字に触れたようだが、なにも起きない。


「……赤色のままなんだけど」

「それはね、いままでのゲートと違って、ちょっと大きいのよ。馬とか馬車とか、荷物も大量に運べるくらい」


「んん……どういうこと?」


「文字を緑色にするには、コアの周辺に誰もいないことが条件。

 ゲートを呼び出すと、周辺にあるものが全部ゲートに吸い込まれて、ルミナス・ノードに飛ばされちゃうの。

 いまは、石像の周りにプレイヤーが沢山いるでしょ。あのヒト達にどいてもらわないと、文字は緑色にならないわ」


「え……つまり、それって、どういうこと?」


「いまから説明するんじゃない? ほら、アーネストがこっち向いたわよ」



 丘の上の石像の横に立つアーネストが、オレ達の方を向いた。

 右手を上げて、注目を集めようとしている。


 しばらくざわめいていたが、静かになったところで、アーネストが話し始めた。


「当面のあいだ、ルミナス・ノードへの通行は軍が管理する。理由はふたつ」


 アーネストが、掲げた右腕の人差し指を立てた。


「数日間は、ルミナス・ノード側の安全確認を行う。

 これには、少数の精鋭による周辺の調査も含まれる。

 諸君らを、無駄に死なせたくないのが、理由のひとつだ」



 アーネストが、ひと呼吸置いてから、中指を立てた。


「このエレメントに潜伏しているスパイの接近と通行を防ぐ。

 スパイを外に出すわけにはいかない。

 石像を壊されるのも論外だ。

 どうしても行きたいなら、通行を許可するが、身元の確認はさせてもらう」



「ソフィア」

「なに?」

「あの石像が壊されたらどうなる」

「私達の負けよ」

「なるほどな。この場所に検問を作って要塞化するのが先ってことか」

「そういうことね」


 アーネストが腕を下ろし、また説明を続けた。


「現時点から、常時100名以上のプレイヤーで、エレメント・コアの警備と監視を行う。以上だ、解散」



「え、終わり?」


「オレ達は、帰っていいのか」

「いいんじゃない? アッシュバレルに戻って、ゆっくりしましょう」


「やぁっと、自由に酒が呑めるな」

 ミラーが、ヒゲを揺らしながら笑う。

 ストームが、後ろ向きで斜面を昇りながら、オレ達に言った。

「どういう編成になってるのか、アーネストに聞いてくるね。わたしも帰りたいから、なんかやってくれって言われても、断るでいい?」


「ぜひそうして頂戴」

「みきも、リュウタが心配だから戻りたい」

「俺も賛成だ。ソウジもいいよな?」


「なんかやれって言われても、オレは無視して戻るよ」


 ソフィアとミラーが苦笑いを見せた。


「んん、おっけー」

 ストームが、斜面を登り、アーネストの元へと歩いていく。



 そのまま、ふと空を見上げると、太陽の角度が、そろそろ夕暮れになろうかというところだった。


 どのみち、今夜は森の中で野営だ。



 それにしても……

 もう、作戦は終わったんだよな。

 この森を、何千と徘徊していたウィルコープスは、もう壊滅したってことでいいんだよな。


 本当に終わったのか?



 ダメだな。

 実感がない。



あとがき#ティナ


 ……あれ?


 ああ、そうか。

 アタシ死んだのか。


 ソウジ。

 あのやろう。アタシをぶっ殺しやがって。

 責任取らせなきゃ、腹の虫がおさまんねぇよ。

 ちくしょう。どこに住んでやがんだ。


 日本に行けば、会えるのかな。

 遠いなぁ。

 オキナワか、ヨコスカにでも志願しようかな。


 また会いたいなぁ……


 うん、なんだこの紙切れ。

 ああ、次の指令か。


 えーと。


「第4幕は200話で完結した。以後、5幕へと続く」


 意味わかんねぇ。


 しかも、誤字脱字だらけじゃねぇか。

 まぁ、この任務が終わったら、全部書きなおしてもらおう。


 はぁ。

 とりあえず、司令部に報告だ。



 あいつらの居場所。伝えてやんねぇとな。


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